しあわせという檻の中で_2

 蘭さんの下で働き始めて、そして彼の奥さんになって半年が経った。毎日真面目に働き、一緒に過ごし、他愛のない会話をするようになったけど、なぜか外出だけは一向に許してもらえなかった。
 どんな理由を告げても、彼は首を縦に振らない。
 さすがに髪が伸びてきたので切りに行きたい、と言ってもダメだった。

 だから私は自分で髪を切ることに決めた。ハサミを持ってバスルームに向かい、伸びた前髪を少しずつ切る。
 ある程度短くしたところで、全体を見るために顔を上げた。その時、背後にいる蘭さんとばっちり目があった。集中していて気づけなかった……!
 彼は笑っているはずなのに怖い。固まったまま何も言えないでいると、蘭さんは私の手からハサミを取り上げる。それは、ガシャン、と音を立てて乱暴に投げ捨てられた。
「……何、してんだ」
 見たことのない威圧感に気圧されて何も言えないでいると、彼は更にこう畳み掛けてきた。
「オレの気を引きたいなら、もっと可愛いやり方がいくらでもあるだろ」
 ……どう言う意味だ、と思ってはたと気づいた。もしかして自傷行為の現場を見たと思ってる?
「あの、違うんです。別に自害しようとかそういうのではなくて、本当に前髪が鬱陶しくなったから切りたくて」
 私の言い訳を聞いても、彼の表情は威圧感に満ちたままだ。そのままぐい、と抱き寄せられて、
「…もしその顔に傷がついたらどうするつもりだ」
 などと言う。
「だから傷ついてませんって、前髪切ってただけですから……」
「へえ。じゃあオレの大事な人に傷ができてねーか確認しねぇとなぁ」
 蘭さんは素早く私を抱き上げる。そのまま部屋を悠々と横切り、足で器用にドアを開けた。いつも女を連れ込んでいた、あの寝室のドア。
「えっあの傷の確認ならどこでもできるんじゃ」
 マットレスに恭しく降ろされ、そのまま彼の両腕がドンと左右に突き下される。大体察した。私を見下ろすその目は、昏く独占欲に満ちている。
 ……私は相当ヤバい人と結婚してしまったのかもしれない。

※ちなみにナマエに降りかかった500万の借金は蘭がでっち上げたもの。ではナマエの両親はどこに行ったか?それは蘭のみが知っている。



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