虚言で満たして
そんなこんなでコナンと一緒に登校する形となった。
別に時間ギリギリというわけではなかったため、残念ながら玄関の時点で子供達の強襲に遭ってしまった。
やっべ、と思いコナンの背中に隠れたが「おいお前俺を盾にすんな!!」と怒られた。
いや、無理だろ此れ。こえーんだもん。
「コナンくんいつ梁川さんと仲良くなったの!?」
「抜け駆けはずるいですよコナンくん〜!」
「そうだぞコナン!!俺らにナイショでよ〜!」
なるほど、この子達が「江戸川コナン」のお友達か。
随分と慕われているようだ。小学校でもうまくいっているんだな、案外。
さてそろそろ、コナンが可哀そうになってくる。視線も痛い事だ、なんとかしよう。
「ご、ごめんなさい…その、私まだ…学校への道覚えきれてなくて…迷ってたら江戸川くんが通ったから、道を教えてもらってたの。…ね、江戸川くん」
「えっ!?あ、そ、そうそう!すごい方向音痴みたいで、案内してたんだ!」
てめえ勝手に属性付与したな。…まあいいか、後々動きやすくなりそうな設定どうも。
キャラの変わりように江戸川少年はぎょっとしている。
そんな事は全く知らない純朴な子供達は、コナンと百合の可愛いお芝居を信じたようだ。
「そ、の。…大勢に、いっぱい来られると、怖いから。……ごめんなさい、皆を避けて…」
「ああ、一気に皆に押し寄せられて質問攻めにされたから、それがずっと怖かったんですね!ごめんなさい」
「………あの。……でも、ひとりなのは、やっぱり寂しいから。……私とお友達になって、くれる…?」
コナンの背中から、少し怯えるように覗いてやれば、彼らはたいへん嬉しそうな顔をした。
大体この年代の子供達、こういう引っ込み思案ながら積極性をほんの少し覗かせる同い年には弱いからな。
そんな思惑を知らない子供達はコナンの背後から百合を引っ張り出し、子供達の中から一人駆けだしてきたカチューシャが特徴的な女の子がその手を取った。
「私、吉田歩美!お友達になろ、梁川さん!」
「僕は円谷光彦です!」
「俺は小嶋元太ってんだ!」
「…!うん!よろしくね!」
にこりと笑えば、歩美達は大層嬉しそうに燥いだ。
コナンが顔を引きつらせているが、寧ろこの程度できなくてどうするんだい君。
まず潜入先の「何も知らない人間」達の心を掴むのは捜査の基本だぜ名探偵。まあハニトラに似たものか。
ボウヤにはまだ難しいかな。
さて、歩美達の心を掴んだ事で今度からは平和に教室へ行けそうだ。教室に行く際、
「とまあ、こんなところだとも。ボウヤ、潜入の基本は覚えたかい?」
「ほんと、面の皮が厚いのな」
「ナイトバロニスの愛弟子だからね」
「……母さん、そんなことまで教えたのか…」
「ははは、教育熱心だったよ」
ニコリと微笑んだそれはどこか自慢げで、そればかりは嘘ばかりで構成された彼女の『本当』なのだとわかった。
だが。
(母さんや父さんの知り合いで、こいつが幼児化したという事を冷静に判断できた「協力者」って、誰なんだ?)
コナンが百合に顔をひきつらせたのは何も朝の登校だけではなかった。
国語の授業で当てられれば、『アメリカからの帰国子女』であるという事を手玉に取り「日本語より英語の方が得手」である事を前面に出した。
音楽の時間になれば幼くも美しい歌声を出した。ピアノも弾けるらしい、「あっちではママにピアノを教わっていた」という設定を皆に信じ込ませるには十分で、そのピアノの腕も実に「小学校一年生らしい」たどたどしいものだった。
だがこれはほんの序の口で、コナンや哀までもが顔を引きつらせた事案は体育の時間だった。
その日はドッジボールの授業だったのだが。
「いた!」
「わ、梁川さん、大丈夫!?怪我してない!?」
「だ、だいじょうぶ…」
見事なまでの『運動音痴』を演じきっていた。
標的にされたらそれに戸惑って行動にまで踏み切れない、ボールを投げられたら避けきれない、外野に狙われまいと走れば足を縺れさせて転ぶ有様だ。
それも「慌てて受け身なんて取れていないように見せて怪我をしない転び方」をわざとしているのだから顔を引きつらせたくもなる。
アメリカからの帰国子女だから、日本語が苦手。音楽は得意で、ピアノをやっていた。実は重度の方向音痴で極度の運動音痴。なんて害のないトロい女の子なんだろうと思ってしまう。
それを全て演じ切っている上にあの顔立ち。それでいてどこかおどおどしていて、その癖して妙に好奇心はある。男子達はおろか先生達も彼女を放っておかなかった。
女優張りの演技力だと思うより先に、その師匠が大女優である自分の母親だと思い出してコナンは頭を抱えたくなった。
「……少年探偵団?」
うん!と、鸚鵡返しに呟いた百合に元気いっぱい頷いたのは歩美だ。
なんでも、コナン、哀、歩美、元太、光彦をメンバーとする…何なのだろう。探偵団、らしい。
コナンと哀は半ば巻き込まれている様子だ。まあ、だろうなあ。実質リーダーはコナンらしい。「俺だろ!!」と元太が騒いでいるが歩美達はどうも了承していないようだ。
力関係が見えるな。
で、何故この話が自分にされているかを百合は颯爽に察した。ならば求められる反応は。
「……すっっごく、楽しそう!」
「でしょ〜!?」
よし。掴みはばっちりのようだ。
それからトントン拍子で百合の少年探偵団入りが決まった。
コナンは今日一日で何度顔を引きつらせているんだろう。哀は呆れ顔だ。
そんな事は露知らず、歩美達は新メンバーに大はしゃぎをしている。百合はその様子に交ざって一緒に燥ぐ。
そんな輪をこっそり抜け出し、コナンが「お前、なんでわざわざこんな面倒な事に首突っ込むんだ?目立ちたくねーだろ?」と内緒話を持ちかけて来た。
「キミたちと接点が持てるから情報共有がしやすい。それに、阿笠博士がどうせ面倒を見ているんだろう?あの超小型発信機と盗聴器、気になるからな」
下心と打算に満ちた思惑だ。当然だ。
「コネは大事にしておくんだぞ、名探偵」
「…お前、この姿を割と楽しんでねーか?」
「はは、まさか!」
楽しいなど、ある筈がない。一秒でも元に戻りたい。
元に戻っても、あの場所に帰る事が出来るとは思わないけれど。
「私はただ、必死なだけだ」
前へ|次へ
戻る
目次