探究心は己を殺すか



ある日の放課後。
授業も終わり、さっさとセーフハウスに戻る前にスーパーに寄ろうと思っていた。
…が、少年探偵団達に結局捕まった。今日はキャベツが安かったんだが解放される頃には売り切れだろうか。
そんな事を考えてながら、いつもと違う帰り道を歩いていた。
子供達は何か面白い事はないかと散策していたが、そうホイホイ面白い事が世の中に転がっているものだろうか。
面白い事を探したいならテレビを見れば十分だろうに、とは24歳成人女性(現在幼女)の弁だ。
子供達にはわからないか。
どうも彼らは事件に飢えているようで、此の世には事件で溢れ返っているのに自分達の周りだけ何もないのはおかしいとぼやいている。

(とんでもない事件に巻き込まれてる人達なら少年探偵団の半数を占めてるんだがなあ)

「なあ百合、おかしーよなあ!?」
「うん、そうだね。でも私、怖いのはいやだから…楽しい事がいいなぁ」
「でも、冒険は大事ですよ〜!」
「私は本読んでる方が好きだなあ〜。円谷君も好きでしょ?読書」
「好きですけど、やっぱり足を使う事は本を読む事とはまた違った知識が得られるじゃないですか!

怖いものには遭いたくないとごねて印象付けを狙っていく。
ああこの子はそう言った事には消極的だから強引に引っ張っていくべき時と遠慮しておいた方がいい時がある、と。そういう反応の差異でどういった案件かの見分けも出来るだろう。
基準の設定、というのは割と大事な事だ。光彦がいい基準になりそうだ。
そう笑顔の裏側で分析していると、背後からカツン、と高い所から軽くて硬い物質が落ちた音がして。

「!!」

バッ、と咄嗟に上を見上げた。続いて背後を確認する。誰もいない。
……職業柄気配がない場所からの物音というのには過敏になっている。人影も気配もない、大丈夫だ。
確認すると、道路に些か不自然なものが落ちていた。口紅のついたS字フックと指輪だった。
指輪、というものに少しばかり思うところがあるのは、―――まだ諦めがついていないという事だろうか。
自分の胸に今も下がっている味気ないシルバーリングの存在を強く感じる。
ペアリングを持つ仲という割には、『相棒』という名前で括られたあまりに血生臭く硝煙香る関係ではあったが。

(だめだな。……どうしても、面影を追ってしまう)

今は、彼らとの事に集中しようとあの煙草の匂いを振り切った。
彼らは指輪に刻まれたイニシャルを辿って、この指輪が落ちて来たであろうマンションに行くらしい。
え、本気か。マジで行くのか。マジで面倒事に首突っ込みに行くのか。
なるほど、コナンがマジで入団するの??と言っていた意味が僅かに分かった。

なんでも、S字フックが二つと指輪が一つ落ちていて、光彦がS字フックの間に指輪をくっつけて「SOSでは!?」という解釈をし、哀が「その人監禁とかされてるんじゃない?」と助長し、結局彼らは真相を解明すべくマンションに突入する事にした。
大まかな流れ。なるほど、わからん。
指輪のサイズは11号ほど。普通なら7~9だ。百合は9号である。
結局は首を突っ込みにいかなければならないのか。スーパーに寄るのは遅くなりそうだ、と諦めてマンションに駆け込んでいく子供達を追った。

マンションに入り込み、あの小窓に面していた部屋に住む人たちの名前を割り出して指輪に刻まれていたイニシャルを照合する。
確か、MtoAだったか。
105号室を調べたが、イニシャルはTの男性名だったためこれは×。
窓に面している部屋は全て5がつく部屋である為、結局効率化の為手分けして捜索する事になった。
男子勢は偶数階、女子勢は奇数階。…今時の小学生は偶数とか奇数が分かるのか。すごいな。

「じゃあいこっか、梁川さん、灰原さん!」
「うん!」

着いたのは3階。305号室には島、という名前だけ。
苗字しか出てないんじゃダメだな、という事でここは保留とした。
次は5階、505号室。家族の名前が全部出ているが、ここでもない。
エレベーターで次は7階。…石田道弘。頭文字はMだ。妻の名前が分からない。

「…粗方回っちゃったね。男の子達の方で収穫があるかも、エントランスに行きましょ」
「うん、そうだね!」
「………」

哀は黙ってこちらを見ている。
別に何もやましい事は考えていない、純粋に彼らの探偵ごっこを楽しんでいるだけだ。

エントランスに到着すると、コナン達は既にいた。情報共有に入る。

「可能性があるのは5件ですね!」
「そのうち、名字だけ出しているのが4件ね」

名字だけ、というのは困る。名前の情報が欲しい。

「…そこにある郵便受けとか、お名前書いてないかしら?」
「歩美も思った!私の家もマンションだから、郵便受けには名前書いてあるもん!」
「あ、そうですね!調べてみましょう!」
「でかしたぞ百合、歩美〜!」

郵便受けはエントランスを出てすぐだが残念このマンションはオートロック式。
誰かがエントランスに残らないといけないという事で哀れ元太が置いて行かれる事となった。

「まあまあ小嶋くん。私も残るよ。仲間外れは嫌だものね」
「百合〜〜!ありがとなあ〜!!」

分かるぞ、捜査勝手に進められて怒る気持ちは。腹立つもんな。
頭の中であの頭の切れる怖い顔の相棒を思い浮かべながら心の中で静かに舌打ちした。


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