愛より出でて哀より蒼し・2
佐藤刑事の爆弾発言に皆が翻弄されていると、向こうの横断歩道から佐藤刑事の父親の友人たちらしき4人組が花束を持ってこっちにやって来た。
男3人、女1人。彼とバッテリーを組んでいた猿渡秀朗さん、鹿野修二さん、猪俣満雄さん、そして紅一点の神鳥蝶子さん。
どうやら久々に皆で飲むことになり、その前にキャプテンだった亡き同級生に会いに来たのだという。
お花を添えると、そのまま「いつもの飲み屋」に向かっていった。
(…そういや、この身体になってから一度も酒飲んでないな…あー意識したらシャムロックとか飲みたく…)
幼児化によってやむなくする羽目になった禁酒に今更のストレスを覚えていると、白鳥警部の携帯に放火犯に関しての情報が入った。
場所は品川六丁目、パトロール中の警察官の職務質問中に逃走、現在追跡中。
特徴は長髪に帽子、グレーのコート。この場所から近いそうだ。
百合含めた子供達は佐藤刑事に預けられ、高木刑事と白鳥警部は現場に向かうらしい。
白鳥警部が車の中に入ってしまわない内に、気配をそっと消して、スーツの内側に超小型の盗聴器を仕掛けた。博士製だ。
高木刑事は手帳や拳銃の所持のチェックをしていた。
その後佐藤刑事と何かしら興味深いやりとりを交わした後、高木刑事と白鳥警部は車を出して行った。
「どういうこと?たかが放火犯相手に拳銃を携帯してるなんて」
「それに、高木刑事たちは強行班捜査係。放火犯とは係が違うんじゃ…」
哀とコナンの疑問は尤もだが、佐藤刑事の話によると、放火四件目の現場近くで刺殺体が発見されたらしい。
だとしたら火をつける道具以外にも、刃物を所持している可能性が高い。パーカーの中に仕込んであるコンバットナイフの存在を意識する。
佐藤刑事は「みんな、私から絶対に離れない事!」と釘を刺してくる。
だがなまじ正義感の強い子供達だ、犯人を偶然目撃でもしたらどうなるか。
暫くは佐藤刑事に張り付き、盗聴器経由で情報を確保しよう。
高木刑事に何もしかける暇もなかったのは残念だが、白鳥警部は優秀な刑事のようなので必然的に入ってくる情報量は多そうだ。
暫くして白鳥に仕掛けた盗聴器に動きがあった。
品川駅にて犯人と思わしき男を確保したものの、彼は放火犯ではなくただの空き巣だと言い張っているらしい。
それでも犯罪者だったのか、まあそうだわな。
では放火犯ではない、という仮定で思考を進めるとしよう、と歩美の目撃現場で歩美の証言を聞いていると、佐藤刑事の携帯が鳴った。
「はい、佐藤です。あら高木君。…え!?18年前の犯人が分かった!?」
「!」
動いたのはそっちか。盗聴器を付けていなかったのが悔やまれる。
捜査じゃないからと言って気が緩んでいるか、と溜息をついたらコナンがものすごくジト目で此方を見ていた。
口パクで何かを言っている。
『お前、白鳥警部か高木刑事のどっちかに盗聴器仕掛けてんな?』
ウインクで肯定してやればちゃっかりしやがってテメエという顔を向けられた。そりゃあキミ、違法捜査のプロだぜこっちは。
佐藤刑事の通話は一度切れてしまったが、もう一度高木刑事からかかって来た。一度目は白鳥警部に、高木刑事がこっそり佐藤刑事に電話をかけているのがバレたからだろう。
如何にもエリートである白鳥警部の方がヤキモキしているのが実に面白い。
さて一方高木刑事からの電話内容があまり聞き取れないが、やはり18年前の犯人が分かったらしい。
「それで!?犯人は誰なの!?」と佐藤刑事が急かしていると、突如佐藤刑事の顔色が変わった。
「ちょ…ちょっと!?高木君!?高木君!!高木君っ!!どうしたの!?返事をして!!…もしもし!?」
「…!」
拙い。
猶更あちらに盗聴器を付けていなかったことを後悔した。間違いなく彼は今何者かの襲撃に遭ったはずだ。
佐藤刑事がすぐさま白鳥警部に連絡を入れた。じき本庁にも連絡がいくだろう。
大きな捜査になりそうだと遠い目をした。…こんな事になるんじゃないかとは思ってはいたけれど。
遅くならないうちに帰る事は無理そうだな、とあきらめることにしよう。
コナンは高木刑事を襲った犯人について何か考えるそぶりを見せた後、「ねえ、夕方会ったあの四人、いつもの居酒屋で呑むって言ってたけど…それってどこなの?」と佐藤刑事に問いただした。
「どこって…居酒屋の名前は、……場所は、品川…駅前の……!!」
「…今の電話で、高木刑事が今の四人の中に18年前の犯人がいるって言ってたなら…高木刑事と同じ品川駅前にいたあの中の誰かが偶然電話の会話を聞き、口封じのために高木刑事を襲ったって事も、考えられなくはないよね?」
コナンの言葉はあまりにも筋が通っている。
これ以上は危険、そしてもう遅いから子供達を家に帰そうと佐藤刑事は言うが、そこからは口出しさせてもらう。
「…高木刑事を襲った犯人は放火犯の可能性もあるんですよね?じゃあ放火犯を唯一目撃している吉田さんを連れて行った方がいいと思いますが…」
「で、でもね…」
佐藤刑事はこれ以上危ない事に巻き込みたくはない様子だったが、子供達の勢いに押されて、大人しく車に子供達を乗せた。
「なんだ、お前も行くのか」
「江戸川君と灰原さんも行くんでしょう?じゃあ私も行くわ」
「『怖いコト』は嫌なんじゃなかったのか?」
「仲間外れはもっと嫌だもん」
白鳥警部に仕掛けていた盗聴器の電源を切りながらコナンにそう返し、佐藤刑事の車に乗り込んだ。
後部座席から見た彼女の顔色は決して良くない。ハンドルを握る手が震えている。
そりゃあ、信じたくはないだろう。父の友人の誰かが父を殺した可能性があるのだから。
あの中の、誰かが自分の父を殺したのだと。
(…父、ね)
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