君の行方を教えておくれ・2



このタイミングでバスジャックとは。
男はトカレフを所持、そしてこのバスの中にジョディ含めたFBI捜査官が最低二名。
前の席に座っている哀が尋常ではない程に怯えている。つまり、やはりこの中に組織関係者、最悪組織メンバーが最低でも一人いる事になる。
想像もしていなかった、最悪のシナリオだ。

…顔を上げて犯人の顔を確認したいところだが、何処に組織の人間がいるかもわからない以上迂闊に顔を上げられない。
組織の人間がいたとして、それが『彼女』なのであればまだ安心できる。だが確証が持てない今、どうすることもできない。
ジョディとその他FBIに関しては最悪見られても子供の振りをすれば誤魔化せる可能性は高いのだが、もう一人いる筈のFBIが万が一にでも赤井だった場合は最悪中の最悪である。
彼でない事を祈る。できればキャメルがいい。

一発、銃声がした。
男がどこかに発砲したようだ。呻き声などは聞こえないが、声から判断する客の様子からすると大凡関係のない場所にだろう。
そして銃声を聞くに、やはりトカレフで間違いないようだ。
脅しに貴重な一発を発砲するなど、やはり素人のようだ。確認はできないが構えもどうせ素人だろう。

彼らは乗客の携帯電話を集め始めた。
彼らの要求は現在服役中の「矢島邦男」の釈放、だそうだ。
釈放ができなければ、1時間おきに乗客の命を一人ずつ奪うという。
矢島邦男……元宝石ブローカー、宝石強盗グループだったか。情報集めの際、余計な情報も頻繁に舞い込んでくるため、各所で起きている事件も粗方把握している。
先月爆弾を作って宝石店に強盗に入ったが、リーダーの矢島だけが逮捕。残りの素人のメンバーは宝石を得たものの売り捌き方も分からず、ボスの奪還を試みた、と言うのが今のところの仮説だ。百合がここまで把握しているのだ、コナンはもっと先の部分まで把握しているだろう。
名探偵ならこの状況をどう打開するだろうか。今のところ、最も制限なく動けるのはコナンのみだ。
哀も動く事は出来ないが、一番身動きを取れないのは百合だ。

そうしている間に、携帯を集めていた方の男が一番後ろの座席までやって来た。
百合の隣でずっと咳をしている男は携帯を持っていないらしい。今時携帯持ってない大人がいるか。
その男性の隣に座っている老人は補聴器をつけているらしい。そして、百合のちょうど反対側に座っているであろう女性はずっとガムを噛んでおり、男に銃を向けられても感じの悪い態度を崩さなかったからか一発威嚇発砲をされていた。

「あ…?なんだ、そこにもう一人ガキがいたのか」

男が百合の存在に気付いた。
百合は身長が小さい為、一番後ろで俯いていた百合の存在に気付かなかったらしい。
しかし、ここで顔を上げるわけにもいかないために気付かれた事に怯えるようにわざと肩を跳ねさせる。

「携帯は持ってねえだろうな」
「も、もって、ません…!!」

銃を突き付けられ、怯えるように縮こまる。
ついでに声を震わせれば完全に怯えていると認識したのか、彼らもそれ以上何もしてこなかった。
コナンが前から(大した役者っぷりだな…)という視線を向けてくる。お前が言うな。

その時、ちょうど男の足音がジョディ辺りに差し掛かった際、大きな物音がした。
男がどうもジョディの足に引っかかって(絶対ジョディ足引っかけた、間違いない)転んだらしい。社内の空気が凍り付く。
しかしジョディの立場だったら絶対同じことをしていただろう。絶対今それをやったなジョディ。そう言う所が好きだ。
男が立ち上がってジョディを睨みつけると、ジョディは新出に促されあ、今気づきましたとでも言ったように早口で英語で捲し立て、空気も読まずに男に駆け寄って男の身を案じて見せた。
思わず顔を上げてその様子を見てしまう。ジョディは銃ごと男の手を握り締めて男に謝り倒す素振りを見せているが、その手がこっそりと銃の撃鉄を弄りセーフティが起動するように仕向けているのを百合ははっきりと確認した。
…流石ジョディ、と頭をさっさと下げて再び俯く態勢に戻る。
引き離されたジョディは席に座らされたが、その直後後ろの席のコナンにこっそり「Very,very exciting!(わくわくしちゃうわね!)」とウインクしていた。
その様子に思わずふふ、と笑ってしまう。あ、やばいと思ったが幸いバレてはいないようなので引き続き表情を引き締めた。

その後、男たちが運転手に指示をしている隙にコナンがなにやら工作をしていたが、直ぐに男に見つかってしまい、男たちに席から叩き落されてイヤリング型の何かを没収されていた。
…あれ、まさか携帯電話か?聞いてねえぞ。あんなものまであるのかよ、と俯きながら上目で一連の流れを確認しつつもツッコむ。今度作ってもらうか。

(しかしこれで、一つ判明した。…恐らく彼らにはまだ仲間がいる)

それも、百合の座っている列に。
コナンの工作は椅子の影で見えなかった。だが、コナンが工作を始めてからほんの数秒もたたずに彼らは真っ直ぐコナンの下へ来た。
コナンの事を見張れるのはこの最後列だけ。つまり咳をしている男、補聴器の老人、ガムを噛んでいる女の中の誰か一人があのバスジャックたちの共犯だ。だがどうやってコンタクトを取っているのか。
百合が直接確認をできるのは隣に座っている咳をしている男のみだが、彼の咳は風邪気味である阿笠博士がしている咳と何ら変化はない。
直接ガン見できないため顔は確認できないが、息がくぐもっているのでマスクをしているのだろう。
如何にも怪しい見た目をしているのだろうが、恐らく彼ではない。ならば補聴器の老人かガムの女のどちらかだ。

(…チッ、バスジャックに遭うのは初めてじゃあないが、バスのエンジン音が五月蠅すぎて周囲の音が聞き取りづらいな。ついでに隣の男の咳が五月蠅くて余計に聞こえづらい)

この男もう少し咳押さえられないのか。いや、阿笠博士も五月蠅いけれど。
迂闊に顔も上げられず、音も頼りにできない。鼻は利くがそれでわかる事と言ったら銃の硝煙の臭いとジョディの香水の匂いくらいだ。

暫くして男は持ち込んでいたスキーバッグを縦に二つ、通路に設置した。
恐らくあれは爆弾だろう。火薬の臭いは殆どしないが、黒色火薬なぞ使うような爆弾は強盗に使用するにもリスクは高い上にコストも決して低くはない。
強盗で使用し、不意な事故でも起爆の危険性は少なく、解体されようと然してリスクがない。
恐らくこのスキーバッグに仕込まれている爆弾はコンポジションC-4、通称C4爆薬かセムテックス。どちらもプラスチック爆弾だ。
軍事爆薬だが強盗に爆弾を使うような爆弾のプロがいるのなら持っていても何ら不思議ではない。日本ではやや入手は難しいだろうが。

コナンが早速スキーバッグを調べようとしていたが再び速攻で気づかれ、今度こそ弾丸をぶち込まれるかもしれないと構えたが、「アレにあたったらどうする」という相方の言葉で彼はコナンの始末を後に回した。
やはり爆弾だなと確信する。すぐにでも解体してやりたいところだが、C4やセムテックスは解体される事を前提とされた爆弾だ、おいそれと解除をする訳にもいかない。

(だが、何のために爆弾を置く?この袋小路状態でどうやって逃走するつもりだ?…一体、何がしたい?)

「…………」

思考に耽っている中、隣の咳をしていた男がじっと見つめているのを、俯いていた百合は気づく由もない。



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