君の行方を教えておくれ・3
何度も無茶をするコナンをジョディが窘めた。
その後ずっと何かに怯えて俯く哀をジョディが気にしていたが、哀はじっとりと手に汗を掻いて只管恐怖に耐えて返事をする事も出来ていない。
コナンが何とかカバーをしたが、哀はずっとこのバスの中の何かに怯えている。
この怯えっぷりはやはり組織のメンバーがいるのか。しかし、先程ジョディが男に謝り倒している際に顔を上げるタイミングができたので顔を上げたついでに社内を確認したが、かつて組織にいた時に見た顔はここにはない。
変装をしているのか。此処まで哀が怯え、かつ赤の他人になり切る事ができる程の変装の名手など、一人しか思い当たらないのだ。
(…これは勘だが。志保には悪いが、もしこのバスの中に潜んでいる組織のメンバーがベルモットなのであればこれほど好都合な事はない。ベルモットは『色々と融通が利く』からな)
そしてベルモットなのであれば、ジョディが捜査に関わっている事にも納得がいく。
ベルモットはジョディの両親を殺害しているからだ。
危険な賭けだが、このバスの中にいるのがベルモットだと仮定して行動する。その時、男の携帯が鳴った。釈放された矢島邦男からだ。男たちは運転手に指示し始める、脱出の準備を始めたようだ。
「おい!そこの眼鏡の青二才と、その奥の風邪を引いた男。二人とも、前に来い!」
「!」
ジョディの隣に座っている新出と、百合の隣に座っている風邪の男が指名された。
彼らは静かに立ち上がって、彼らの言う事に従い前方に向かっていく。
その間、コナンが何やらジョディと工作しているようだが、具体的に何をしているのかは分からない。
ただ、彼が何か策があり、そしてそれを必ず成し遂げる事は分かっている。
(頼んだぞ…名探偵)
トンネルに差し掛かり、バス内が暗くなる。
バスの中の様子はほぼわからなくなったが、あの隣の男の五月蠅い咳が聞こえなくなったお陰で耳は利くようになった。
男たちは自分達のスキーウェアや帽子、ゴーグルを脱いで新出達に着せた。
「少しの間俺達の身代わりになって時間を稼いでもらう。解放された乗客の振りをして、バスから降りる俺達の時間をな」と男は完全に成功を確信しているのか態々目論見まで答えてくれた。ご苦労。
だが念には念を、と言う事で彼らは一人人質を取った。後ろでガムを噛んでいた女だ。
(共犯者はあの女か)
彼らが降りればこのバスの中を恐怖で支配していた犯罪者は消える。
後から乗客たちが男たちの身代わりになっていた新出達の身の潔白を証明すれば彼らのこの行為は何の意味もなくなる。
そこで、この通路に置かれた爆弾で乗客全員の口を封じる気だ。
恐らく警察には、「犯人はスキーウェアを着た男二人」という情報は行っているだろう。ゴーグルと帽子で顔は分からない分、あとからバスの中でスキーウェアを着た遺体が転がっていても、犯人だと勘違いするのは不思議じゃない。
それにあの三人が警察に保護されれば、自分達とは全く違う犯人像を口にするに違いない。
その時、ついこの間阿笠博士から貰った探偵団バッジが鳴り始めた。
直ぐに耳に当てる。
『いいか、今から俺の言うとおりに行動するんだ。大丈夫、車内は暗いし、奴らは計画の成功を確信して油断してる。…バスがトンネルを出たその瞬間が、勝負だぜ』
バスがトンネルを抜ける。
「下手な真似するなよ。俺達の言うとおりにしてりゃあ助かるんだ」
「よーく言うよ!どーせ殺しちゃうくせに!だって皆に顔を見せたって事はそう言う事でしょ?何とかしないとみんな、殺されちゃうよ?この爆弾で!!」
そう態々大声で言ってのけ、コナン達は爆弾入りのスキーバッグを掲げる。
そのスキーバッグには、赤い鏡文字で『STOP』と出ていた。
バスの運転手が鏡越しでもわかるように、と。運転手は直ぐにそれに気付き、大変躊躇いながらも急ブレーキをかけた。
急ブレーキの最中、子供達が必死に爆弾を抱えている。本当に、すごい子供達だと感心するしかない。
爆弾と分かっていてもその手を離さないのは、肝が据わっているのか、コナンの言葉を信頼しきっているのか。
バスが止まると、床に倒れ込んでいる男の一人が、コナンに照準を合わせた。
「じっとしていろ」
ニット帽を深く被り、髪が見えないようにしながら素早く移動する。
最小限の足音で、気配を消し、蛇の如く地を這うように駆け出してコナンの前に躍り出た。
男が照準を合わせ直すよりもこちらが間合いに入る方が早い。拳銃を蹴り飛ばしてこちらが確保し、意識がわずかに残る程度の力で男の顎を蹴り上げた。
ガチン!と歯のぶつかる音が小気味良い。そのまま倒れ込む男に馬乗りになり、拳銃を突き付け、小声で述べる。
「Take my tip.don't shoot it at people, unless you get to be a better shot. Kid?(誰かを撃とうとしたんだ、自分が撃たれる覚悟は当然あるんだろうな?青二才)」
言葉の意味は、恐らく分かってはいない。
だが、その男にしか見えない角度で煌々と輝く瞳には、明確な殺意と怒りが滲んでいる。
刺すような、心臓を射止める錨のような殺意に男は情けない声を上げて失神した。馬鹿め、だから青二才だというんだ。
「新出先生!その女の人の両腕を捕まえて!その人がつけてる腕時計は、爆弾の起爆装置だ!!」
コナンの声に、新出が人質となっていた女の腕を拘束する。
もう一人の男がコナンに照準を合わせる前に、あの男を無効化しなければと銃を投げ捨てて再び駆け出そうとした。
だが、それよりも早く近くにいたジョディが男の腹に強烈な膝蹴りをお見舞いした。
続いて背中に肘うち。あれは痛いぞ。ジョディのあれは。
「Oh,ゴメンナサ〜イ!急ブレーキでバランスが!」
(いや絶対嘘だって)
この状況なのに笑い出しそうになったのを腹に力を込めて耐える。肩は震えてしまったが吹き出さなかっただけ偉い。
男は憤ってジョディに銃を向けたが、どれだけ引き金を引いても弾は出ない。
当たり前だろう、その前にお前と接触した時ジョディがその銃にセーフティかけたからな。
「…馬鹿ね。トカレフは、ハンマーを起こして中間で止めるとセーフティがかかるのよ。これくらい銃を使う前に勉強して、おきなさい?」
(ヒュー。さっすがジョディ。かっこいい)
でもこれ以上見ていたらこっちが顔を見られるかもしれない。
その時、百合の背後で新出に拘束されていた女性が悲鳴を上げて暴れ出した。
「に、逃げなきゃ!!早く逃げなきゃ!!」
「は?」
「い、今の急ブレーキで、時計をぶつけて、起爆装置が動き出しちゃったのよ!!爆発まであと一分無いわ〜!!」
「はあ!!!???」
このクソアマ!!!!!命に代えてもそれは守れよ!!!!
爆弾は時に人の命よりも重いものだ。そして時と場合によっては、その起爆装置を何に変えても守らなければいけない。
爆弾のプロという割にはその扱い方は素人同然か。
クソ、この姿じゃなければ一発殴ってたぞ。そんな殺意を剥き出しにしている時には、バスの中は大パニックになっていた。
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