点滴を打ってもらった後、女医に明確に「産みたい」と意思表示をすれば、とても嬉しそうな表情で「妊娠おめでとう」と祝ってくれた。
あの強烈な吐き気は悪阻で、体重がどんどん増えて言ったのは、お腹の子供が大きくなっていたからだと言う。安定期前にあれだけ暴れ回ったのに、子供は現在進行形で成長中。
赤井は「俺は安定期前の妊婦に運動させていたのか…」と白い顔をしていた。
安定期だと言うのに、お腹はほとんど出ていないことに関しては特に問題ない様子だ。小さく産んで大きく育てろという事らしい。
ベッドが空いていることから入院も出来るとすすめられたが、体調が安定した上に病院は落ち着かない事から帰宅する事になった。
荷物を取りに行くため赤井の車でもう一度本部へ戻る間、何度か腹をさすった。未だにこの中に命がある事を信じられずにいた。
赤井はそんなリリーの心中を察したのか、少し笑みを含んだ声で「これから忙しくなる。各方面への報告、スケジュールの調整、手続きが山ほどあるぞ」と先に待っているであろう騒動を予言した。
「それは大変だ」と返しながら、口元に浮かんだ笑みは幸せに満ちていた。
本部に到着しオフィスに着くと、誰一人帰宅していなかった。
リリーと赤井の姿を見るや否や「リリー大丈夫!?」「倒れたって聞いたぞ」とジョディを筆頭にすごく心配された。
「だ、大丈夫だ。…その、」
「?どこか悪かったの…?」
心配だという表情の同僚達に、悪いところはなかったと説明はする。
赤井は「異常は特になかったが…」とリリーを一瞥した後、後にキャメルが「あんな笑顔の赤井さんは見た事がない」と仰天した程の、穏やかで感情を滲ませた笑みを零した。
ポーカーフェイスでクールな赤井が見せた激レア表情に一同が一旦石化したが。
「どうやら俺は半年後、父親になるらしい」
赤井の爆弾発言、もとい相棒の妊娠報告に、オフィスは一度静寂に包まれ、直後爆発的な歓声に包まれた。
その歓声といったら、一瞬髪が揺れたほどだ。こんな歓声、数年ぶりだ。
「おめでとう!おめでとうリリー!!やったじゃない、ママになるのよ!!」
「シュウが父親でリリーが母親とか、どんなサラブレッドが生まれてくるんだろうな!」
「性別はまだ?」
「次の検査で分かるだろうな」
次の検査は一週間後だ。
検査をすれば性別もわかるだろう。男の子か女の子かで早速予想会が始まりかけている。
それと、と赤井が続ける。
「順番は狂ってしまったが、俺はリリーと籍を入れる予定だ。ウチに嫁ぐ事になるが」
「あ、そういえばまだ結婚してないのか!…なんか二人ともとっくにしてる感覚だったから釈然としないな」
「その前に、秀の実家に挨拶に行かなければならないんだが…こう言っては何だが、気が重い……」
赤井の母、メアリーに挨拶に行くというのはやはり緊張する。
何度か顔を合わせた事はあるが、顔はあまり似ていないのに威圧感と言うか迫力は赤井そっくりだった。容姿は美しいが流石赤井の親と言うべきか、鉄仮面もそっくりなのだ。怖い。
この赤井秀一という男を育てた女性なのだ。
リリーの顔色をよろしく無くさせる程の、赤井の母とはどんな人物なのだろうと一同の胸に各々の像が浮かぶ。
「殺される覚悟で行かなくてはな…」
「俺が殴られる方だろう。一発で済めばいいが」
死地に赴く戦士の表情をし始めた将来の赤井夫妻に、一同の赤井母像はキングコングのようなもので一致した。
だが、難関はメアリー・世良だけではない。
リリーには最後の難関、工藤夫妻への報告が待っている。
一体どこからどう話せばいいものかと、思い浮かぶ頭の切れるナイトバロンに頭を抱えたくなった。
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