「頑張ったわねリリー!!頑張ったわね〜〜!!」
「天使のようですね〜!」

ジョディに泣きながらもみくちゃにされた。産後も大変である。
キャメルは赤井の腕の中の赤ん坊に夢中だ。ジェイムズは既に孫を得た祖父と化している。
収集がつかない。

「…お前達、一応リリーも産後だ。休まらないだろう」
「いやいい、気にするな」
「でも本当にもう身体は大丈夫なのか?」
「後陣痛も大した事はないからな。陣痛の方が余程堪えた」
「とんでもない悲鳴だったもんな…」

あの時廊下で待機していた組は揃って顔を青くした。
皆付き合いの長い者達ばかりだ。だからこそリリーのあんな張り裂けんばかりの悲鳴なんて聞いた事もない。
助産師の掛け声と共に苦痛に満ちた悲鳴を決まった周期で上げ続けていたのだ。
聞いている方も拷問だろう。間近で聞いていた赤井はさぞきつかったに違いない。
痛みで気が狂うなんてものではなく、痛みにそのまま殺されるかと思ったほどのものだった。男はあの痛みに耐えられないと聞くが、身をもって理解した。

「でも、死ぬかと思ったからこそ。この子が生まれた時は、今までの人生の中で一番幸せだったよ」

とにかく痛かったけれどね。そう付け足して笑えば、皆微笑んだ。
リリーの辿った人生は、決して他者から見れば幸福なものではなかっただろう。
自身としては、そう生きるしかなかった人生だった。銃を握らなければ、生きていけない世界だった。決して不幸ではないとは思う、だがこの子にそんな生き方はして欲しくはなかった。
沢山の選択肢を与えたい。その中で、どうかこの子には自由に生きてほしい。
赤井の腕の中の赤ん坊の頭を撫でた。とても小さくて柔らかかった。

「…リリー、カッコよくなったわね」
「それは良かった。カッコ悪い母親では示しがつかないからな」
「貴方の事をカッコ悪いなんて言えるような大馬鹿はどこにもいないわよ。…それはそうと、その子の名前はもう決まったの?」

ジョディの問いに、赤井と目を合わせた。
臨月を迎える直前程、彼と話し合った。子供の名前を考える事は、今思えばとても有意義だった。
この子と迎える未来をたくさん想像した。

「ああ、決まったよ」
「『昴一』だ。沖矢『昴』と、赤井秀『一』で、昴一」

この子供は赤井秀一とリリー・フォーサイスだけの子供ではない。
彼と向き合うきっかけとなった、沖矢昴と梁川百合の子供でもある。
だから、沖矢昴の存在を過去のものだけにしたくなかった。あの時の彼も、今この時を形作る大切なピースであるから。
「良い名前じゃない」と、ジョディをはじめ同僚達も笑ってその子供の名を祝福してくれた。

「それにしても、昴一はシュウによく似ているな!」
「目元や鼻の形がシュウそっくりね!でも目の色はリリーに似たのかしら」
「私の遺伝子なんて目の色くらいじゃないか?」
「いや、肌の白さはお前譲りだろう。…だが、この大勢に囲まれても全く動じない図太さはどっちに似たのやら」
「それは両方じゃないか?」

将来大物になるぞ!と同僚達は笑った。
この子もゆくゆくはFBIに、という単語も飛び交ったがそれは見送らせてほしい。
将来を決めるのは昴一だ。そんな気持ちでいると、昴一が小さな小さな手を此方に伸ばしてきた。

「ん?どうした」
「ママが恋しいようだぞ」
「どれ、おいで」

赤井から渡された昴一はリリーの銀色の髪を一房掴んだ。
「お前の髪がお気に入りらしいな」と赤井の声。なるほど、だが引っ張るのは止めてほしい。
こんなに小さな手でも、力は強いんだな。
この小さな可愛い手が、いつか冷たい銃を握るかもしれない。それは悪いことではない。せめて昴一の望むことに使って欲しいと思う。

「可愛いなあ、昴一」

可愛い可愛い大切な我が子。
折角だからデジカメを買おう。成長記録をつけるのも悪くない。
そしていつか昴一が大きくなったらアルバムを見せてやろう。
そんな未来を想像して、はは、と幸せを零した。可愛い可愛い昴一、どうか元気に育ってくれ。




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