「……毎年これが来るのか」
「そうらしい」
お久しぶりです。リリー・フォーサイス、もといリリー・赤井。結婚して一年以上が経ち、息子の昴一がなんと一歳になった。
各所に出産報告をした際は出産祝いで家が大変な事になった。
絵本、食器、スタイ、ガラガラスティック、ベビーチェア、そして大量の洋服である。
荷物の山を見た時は赤井と二人で顔を思わず引きつらせたものだが、一歳の誕生日ともなれば出産祝いの比ではなかった。
大漁の絵本、洋服で溢れ返る玄関に頭を抱えたくなる。
この絵本は工藤一家から、この絵本はFBIメンバー一同から、この絵本は義妹の真純から、この絵本は志保からと選り分けしていく。赤井は洋服とその他だ。
洋服も絵本を送って来たメンバーからのものが大半なようで、流石知り合いに高給取りが多い故に服の値段など考える事をやめたくなる。…この絵本のホームズシリーズは間違いなくボウヤだな。
「…ん?」
選り分けを続けていると、何やら服や絵本を入れるにはやや小さいサイズの荷物を見つけた。
刃物や爆弾が入っていない事を確認して封を開ける。
そこに入っていたのは小さなサイズの、明らかに子供用のボクシンググローブだった。こんなのを送ってくる奴を一人しか知らない。
「降谷……」
「降谷君……」
彼は相変わらずのようだ。仕事は忙しいらしいが、たまに手紙を送ってくることもある。
このボクシンググローブは赤井への挑発か。スコッチに関する誤解も解け、わだかまりは無くなったが元々馬が合わないのもあってやはり仲はよろしくない。
が、嘗ての怨敵の子供に出産祝いや誕生日祝いを送ってくるなど嘗ての彼からは考えられない変化だ。それは喜ばしいことなのだろう。
「昴一には截拳道をさせる」
「顔が怖いぞ〜パパ〜……チビッ子ボクシングのビデオまでつけて…本気なんだな降谷……」
「降谷君…………」
次の再会は血を見そうだな、と考えない事にした。
この絵本は義弟の秀吉から。…年上のはずなのだが弟になるというのは奇妙な感覚だ。この絵本はメアリーから。
これは水無怜奈…もといCIAの本堂瑛海から。彼女とは組織関連で、事件が終結してからも個人的に付き合いがあった。
そしてこれは…絵本、ではない。なんだこれは。空手の道着?しかも大きい。
「…あ、京極のボウヤか」
「どうした」
「いや、空手の道着が届いてな。差出人を見たら京極のボウヤだったんだ」
「彼らしい」
「空手を彼から習うのもいいかもしれないな」
他の包みを開ける。これも絵本ではない。剣道着だ。
……服部のボウヤだな。なんでこうボウヤ勢は個性的な誕生日グッズを寄越してくるんだ。
しかし最大の戦犯はやはり降谷である。実に大人げない。
絵本は粗方捌いた為、洋服・その他ゾーンに移行する。
適当に小さな小包を開けたが、その中から出て来た覚えのある黒光りしたそれに目を剥いた。
「なっ………は!?」
「………………」
S&W M19、ワルサーP38……の、レプリカだ。これが本物なら即座に海に投げ捨てていた。
差出人名が無い、つまりこれは局から運ばれてきたものではなく直接ここに持ってこられたものだ。
一緒にメッセージカードが入れられていた。品のある厚手の紙には真っ赤なルージュのキスマークと綺麗な字で『一歳のお誕生日オメデト、ボク』と書かれていた。もう誰か分かった。
「……ルパン一味か?メッセージカードは峰不二子か」
「奴らは暇なのか?銭形警部には同情しかないな」
「どうする。ICPOに報告するか」
「…いや、いいだろう。彼らが危険なものを送ってくる事はないだろうし、こんな事で銭形警部を動かせるのも申し訳無い」
国際指名手配されている世界の大泥棒からのプレゼントとは、昴一は一体何を期待されているのか。
将来は昴一の自由だが、少なくとも泥棒にさせるつもりは毛頭ない。それとも峰不二子のお眼鏡にかなってしまったのか?それなら死ぬ気で阻止しなければならない。
「…これも差出人名がないな。…重さからして爆弾や凶器の可能性は無さそうだが」
「俺が開けよう」
「ああ」
まるで爆発物を処理するかのような手つきで荷物を開封する。
中に入っていたのはトランプやびっくり箱などのパーティグッズだった。トランプの裏に描かれた見覚えのある顔イラストにまたもや顔が引きつった。
「…怪盗キッドか」
「ルパンといいキッドといいFBIの家に直接送り付けてくるなんていい度胸してるじゃないか」
「何というか、毎度警戒しながら開けるのも馬鹿らしくなってくる」
「秀への揶揄いも兼ねてのこれだろうな」
「お前の知り合いは俺への風当たりが強くないか」
「それを私に言われてもな?」
半ば自業自得だろうに。
ほぼ自棄になりながら包みを開ける。
…これ、パリの高級ブティックじゃないか。さり気にセンスがいい。誰だ。差出人名を見てまた目を剥いた。
「…たまげた、今度はベルモットだ」
「……………」
「リアクションの底が尽きたな。だがとても助かる実用品だ。遠慮なく使わせてもらう」
「図太いな」
「使えるものは遠慮なく使うさ。ルパンのは押収する」
そう言ってルパンからの小包を後ろにやる。
直後、「あぅー」という可愛らしい声が聞こえてきて全速力で後ろを振り返ると、確か昼寝をしていたはずの愛息子・昴一が輝くような顔でついさっきリリーが背後にやったルパンの小包に手を突っ込んでいた。
そして取り出したのはルパンのワルサー、のレプリカ。しまった、と止めようとしたが遅かった。
至って純粋に輝く笑顔のまま昴一が引き金を引いた。
ポン!と弾けるようなお間抜けな音がした。
カラフルな紙吹雪と5本の青い薔薇、そして『Happy Birthday昴一クン! ルパン三世』と書かれた旗が飛び出した。
きゃー!と昴一は喜んでいたが、この紙吹雪を誰が掃除するんだい。
「ルパーーーーン!!!!!」
銭形といい勝負だと我ながら思った。
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