キーライムパイが出来上がって、やはり数が多いからと結局休日なのに職場に赴きジョディ達におすそ分けした。
ジョディは「また体重が増えちゃうじゃない!」といいつつも嬉しそうではあったし、皆それなりに修羅場だったようで手伝いを申し出た瞬間蹴り出されてしまった。
どう足掻いても休ませる気なのだなと笑ってしまった。
それからすぐに日が暮れて夕食の時間になり、恙無く夕食も終えた。
最近はずっと外食で栄養も偏っているだろうと野菜を多めにしたのだが、そんなに得意ではないアスパラを前にすると一瞬フォークが止まる赤井が面白かった。
…そうして忘れようとは試みたのだが、リリーがシャワーを出て入れ替わりに赤井がシャワーに行く際、意味ありげに首筋を撫でていくものだから熱がぶり返した。
くそ。おぼえとけ。
結論から言えば朝の目覚めは酷かった。
目覚めの時間はまだ陽も昇りきってない早朝。寝返りを打とうとして腰の鈍痛に叩き起こされた。しかも赤井が腰をしっかりと抱いていたものだから寝返りは結果的に失敗した。
昨夜行為を終えた際に赤井が吸っていた煙草の匂いが残っている。
寝煙草をするな、と言っているのに彼はいつも事後は煙草を吸うのを好んだ。リリーはこの時の煙草の匂いが苦手だった、情事を思い出すから。
赤井との行為はいつまでも慣れない。彼とが初めてという訳でもないのに、彼とするセックスはまるでティーンエイジャーに戻ったような錯覚に陥る。
慣れない、というだけで苦手でも嫌いでもない。余程の事がない限り求められたら応じる。
毎度生娘のように恥じらう女を抱きたがる気が知れない。裸体を見られるのは別にいい、だが、死線にて彼を守る為だけに機能するこの身体を情欲をたっぷりに孕んだ瞳で射抜かれるのは身に余るものがあった。
彼はいつだって、この身体を余す所なく隅々まで慈しんだ。
この身体を使い尽くす男は知っていたが、使い尽くして愛し尽くす男は、赤井が初めてだった。
「………馬鹿な男ね」
気配に聡いこの男を起こさない程度の声量で悪態をつく。
さて、まだ早すぎる時間だから二度寝くらいは許されるだろう。この男の体温は存外心地がいい。
次目覚める時にはこの男はきっと起きている。目覚めのコーヒーくらいは持ってきてくれるだろう。朝食も仕込みはできているから何とかなる。
この腰じゃそう動き回れないから、1日家でのんびりするのも悪くない。
(秀、私はな。貴方と目覚めを迎えるのが貴方と眠るよりずっと好きなんだ)
こんな、まるで平和な世界で生きているような錯覚を覚えるこの瞬間が好きだ。
彼が寝入っているそのあどけない表情を見るのが好きだ。寝入ってしまうとなかなか目覚めが悪くなるのも。
「――――You're my everything.Darling」
世界は恐ろしい。いつこの身を銃弾が貫くかもわからない。
それでも、今だけは。遮光カーテンで世界の全てを遮ったこのワンルームだけがリリーと赤井を害することの無い確かな楽園だった。
おやすみなさい、頑張り屋な相棒。
次に目覚めた時には、他愛もない小さな幸せの話をしようか。
それとも未来の話をしようか。
きっとそのどれも、彼となら悪くない。
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