おかしい、と首を傾げた。
リリーの現在地は体重計の上。
ここ数週間、お世辞にもちゃんと食事を摂っているとは言い難い。体重の変動はあれど、減ると思っていた。
デジタルの体重計が指す体重は、僅かに増えていた。一週間での変動なら気にはしないが、2、3か月程前から徐々に徐々に、体重が増えているのだ。
それを加味するとこの一週間の間の変動にも神経質になる。
うーむ。謎。参った。

(…しかし、今まで体重が軽すぎたのも事実だ。…考えすぎか)

生理不順が来るほどのストレスが掛かっていたのだとして、ホルモンバランスが崩れて神経質になるなどよくある話。
そも、兵士がナイーブになるなどそれこそよくある話だ。
体調管理ができていないと言えばそれまでだが、本当にここの所気がたるんでいるのかもしれない。
赤井が戻って来た時にこれでは示しがつかないだろう。気を引き締めなければ。


そして数日、やっとの事で仕事を捌き終わり、オフィスには解放ムードが広がっていた。
別案件で本部を離れていたジェイムズ達も戻って来ていた。
リリーは丁度入れ替わりになり、別のオフィスで出来上がった書類を他の班と纏めていた。

「いやー悪いな、付き合わせて」
「構わない。そっちこそ大変だったろう、ずっと缶詰で」
「お互い様さ。じゃあ、この書類は俺が出しておくから」

こちらの班も複数の案件を抱えて奔走していた。いくつか被っていた案件を分担して処理していた。
ほぼ同時に仕事から解放され、こちらも仕事終わりモードがオフィスに広がっている。
私もそろそろ戻ろうかと息を吐いた時、女性の同僚が駆け寄って来た。

「リリーお疲れ!コレフライドチキンなんだけど食べる?ここの美味しいのよ!」
「いいのか?最近碌なもの食べて無くて、ちょうどチキンを食べたいなと思っていたんだ」
「じゃあラッキーね!食べて食べて!」

同僚がパックを開ける。もわ、とスパイスの香りと、肉の香り。
空腹だったから、とても食欲をそそられるいい匂い。

い い、匂  い の   、


気  持 ち  わ   る  い 



暗転。





「今回の案件は流石にきつかったわね〜」
「流石にな。疲れた」

憎らしくて仕方が無かったPC画面も案件が片付いて電源を切ってやれば清々しい。
ジェイムズやキャメルも仕事が片付いた解放感で心なしか表情が晴れやかだ。特にキャメルは頻繁な場所移動の度に運転する身としては堪えただろう。
流石の赤井も疲労の色が見える。オフィスに戻る前に一服してきた為些か表情は柔らかい。
が、戻って来たオフィスに数日顔はおろか声も聞いていない相棒の姿がない。

「リリーは報告か」
「ええ、丁度貴方達と入れ替わりになったのよ。もう報告は終わっててもおかしくないんだけどお喋りでもしてるのかしらね〜」
「アイツの様子はどうだった」
「かなりストレス溜まってるみたいだったわよ、体調もそんなに良くないみたいだし」
「リリーの体調が?明日は雪じゃないか?」
「それは言えてるな」

同僚達の言い分は分かる。リリーは頑丈な方だ。
体調を崩す事は滅多にない。彼女の体調管理は徹底しており、彼女と同棲を始めて数年経つ赤井も彼女と生活リズムを共にし始めてから体調を崩す事は殆ど無くなった。
そんな彼女が体調がよくないというのだから、余程仕事が立て込んでいたのだろう。
数日前は立てこもり犯の鎮圧を行ったのだから、その疲れを引き摺っているのかもしれない。
赤井の思考を他所に同僚達の談笑がオフィスに響いている。その和やかな雰囲気を裂いたのは、慌ただしくこのオフィスへ向かって来る駆け足の音だった。
ふと談笑が止む。空気を読むことに長けた捜査官達の予想通り、足音はこのオフィスへと辿り着いた。他の班の女性捜査官がこのオフィスに息を切らして駆け込んできた。

「はぁっ、はぁ…っ、…」
「ち、ちょっとどうしたの!?そんなに急いで」
「シ、シュウ、…戻って来てる!?来てるわよね!?」
「ああ、いるが」

ただならぬ雰囲気に赤井の胸中に嫌な予感が過ぎった。
同僚達が何事だ?と顔を合わせる中、冷静に状況判断する事に長けているはずのFBI捜査官である彼女が、酷く気が動転した様子で。

「ッ、すぐに車を出して!リリーが倒れたの!」
「…は?」
「急に気分悪くして、トイレに駆け込んで…そこで一頻り吐き戻して、そのまま意識が無いの!」

全てを聞き終える前に赤井がデスクの上に置いてあった車のキーを乱暴に引っ掴んでオフィスを飛び出した。
オフィス内に緊張が走る。心なしか廊下も騒がしい。
廊下を走る赤井の胸中は酷い焦りを覚えていた。リリーが倒れた。意識が無い。

目が回りそうだ。




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