「悪いな草薙さん、折角頑張ってくれたのに」
《遊作がログアウトしねえならお前もしなかったのは分かるけどよ。遊作の奴、どうしたっていうんだ?》
「……遊作は、GO鬼塚とのデュエルを『楽しんでいる』らしい」
《…!》

己とアイの命運をかけたこれはれっきとした戦いだ。
その最中ですら、敵であるGO鬼塚はPlaymakerと俺を楽しませようとしてくれる。
そんな様子を見ると、思ってしまうのだ。本当はデュエルって、すごく楽しいことなのではないかと。
俺は決して誇り高い決闘者ではない。だからこそ勝つためなら己の信念も曲げる事をいとわない。でも彼らは違う。

《……そうか。遊作は、今楽しんでんのか。状況を見れば複雑だが、それは紛れもなく良い傾向だな。もちろん勝ってもらわなきゃいけないんだが》
「はは、そうだな。俺達の命運がかかってるしな」
《お前も、いつか。純粋にデュエルを楽しめる日が来るといいな》
「―――――、……そう、だな」

祈るような口調に、俺は瞑目した。
勝つことに執着する俺が、そんな重いものを取っ払って、何もかも忘れて純粋にデュエルを楽しめる日。
それはひどく遠い事のように思えた。
だからこそ、純粋にデュエルを楽しんでいる人たちを、俺はいつも遠くを眺めるような気持ちで見ている。
遊作もいつか、遠くへ行ってしまうんだろうか。

(……それは、良い事だ。俺の一存で左右するものじゃない)

『ブルル………』
「!……悪い、湿っぽい空気になっちまって」
『………』
「、はは、くすぐったいって、こら」

トロイメア・ユニコーンは俺の気持ちを察してくれたのか、鼻を摺り寄せて来た。
棘が色んな所に刺さりそうで怖いが、この子は優しい子なのだ。

「…そういえば、お前はデータストームに飲みこまれた俺に応えてくれたんだよな」
『ブル…』
「ありがとうな。礼言うのが遅くなって。…カードにお礼言うのなんか変な感じだけど、お前はあのデータストームの中で生きてたモンスターなんだもんな」

俺は元々トロイメアに属するモンスターを持っていた。
だがそれらの効果を使うだけで、それ以外は融合モンスターやエクシーズで決め手を作っていた。
だがユニコーンは、まるで俺のトロイメアに引き寄せられるようにやって来た。仲間の気配を感じ取ったのかもしれない。

(…そういえばトロイメアのテーマって、七つの大罪だったよな…)

トロイメアのモンスターは皆、七つの大罪に該当する生き物が当て嵌められている。
マーメイドは嫉妬、ゴブリンは強欲、ケルベロスは暴食、フェニックスは怠惰。
色欲はサキュバスだが、トロイメアで該当するモンスターはイヴリースくらいだろうか。

「ユニコーンは憤怒、かぁ。何かお前が俺に応えてくれた理由が分かった気がする」
『?』
「………考えすぎか」

からりと笑ってユニコーンを撫でる。
その時、ずっと空を封じ込めていた鉄格子が消えた。
どうやら彼らのデュエルはPlaymakerの勝利で終わったらしい。

「終わったみたいだな、向かってくれ」

ユニコーンは一鳴きすると、真っ直ぐに彼らの元へと駆け出した。



「Playmaker!お疲れ、良いデュエルだった」
「お前、途中からずっとユニコーンと喋ってただろ」
「見てたんかい。というか、勝者の割には浮かない顔してんなあ」
『アイツは負けて嬉しそうで、お前は勝って嬉しそうじゃない。なんなんだ?』

俺達は勝利に喜びを見出す事はない。
それは、俺達にとって勝利とは目的ではなく過程でしかないからだ。
勝たなければ前に進めない、負ければすべてを奪われる。そんな世界で生きて来た。
でも。

「……勝っても負けても、いつまでも戦っていたい。…そんなデュエルもある」
『理解不能〜〜〜!!!』
「………はは、そっか。楽しかったか?彼のデュエルは」
「ああ」
「それなら良かった!うし、じゃあログアウトすっか!」
「オイ撫でるな」

遊作は一時とはいえ、デュエルに楽しさを見出していた。
それは喜ぶべきことだ。幼い頃から遊作を見て来た俺にとって、俺は何よりの至上の喜びである。

それなのに、心の中は薄く靄がかったように、何処か気分が悪くて。
その気持ち悪さを振り払うように笑って彼の頭を撫でて、俺達は颯爽とLINKVRAINSからログアウトした。



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