「…やっぱりあり得ない」

夜、草薙は画面を見ながら顔を顰めてそんな事を呟いた。
珍しいもんだと興味を引かれて画面を覗き込む。

「何が?」
「これを見てくれ」

草薙がキーを押すと、画面にとある女子高生の姿が出てくる。

「あれ?この子、財前さんじゃん」
「知ってるのか?」
「知ってるも何も遊作…同じクラスの子だよ。でもこの子がどうしたんだ?」

この画像の女子高生は財前葵。
俺と遊作が通う高校に通っている同級生で、同じクラスだ。
遊作と同じようにほとんど目立たない地味な少女だが。

「財前葵、16歳。SOLテクノロジー社セキュリティ部長、財前晃の義理の妹。そして、彼女こそブルーエンジェルの正体だ」
「へえ!財前さんがブルーエンジェルねえ。人は本当に見かけによらないな」
「灯台下暗しってやつだな」

ブルーエンジェルは正しくアイドルのようなデュエリストだが、葵からは全くそんな気配は感じられない。
彼女は典型的な優等生タイプの少女で、馴れ馴れしくされることを嫌うタイプだ。
オンオフの切り替えが激しいタイプなんだろうか。

「GO鬼塚は置いとくとして…意外とカリスマデュエリストって目立たない奴だよなあ…」
「何故俺を見る」
「最近立派にカリスマデュエリストの一角として名前を並べたPlaymakerくんが最たる模範だからな…」
『ププッ遊作がカリスマデュエリストだって〜〜!!』
「こら〜アイ、そうやって遊作の事からかうとまたミュートに……ほら見た事か」

忠告虚しく遊作によってミュートにされてしまったアイに苦笑いする。
遊作は目立ちたくなかったのに最近メディアがPlaymakerをカメラにいれようと躍起になっているお陰で、こちらも情報を消しまくるのに一苦労なのだ。
映像を拡散される前に消さなければならず、最近は俺も授業中に使い捨てのスマホでデータ削除に奔走している。

「まあ、Playmakerが台頭で戦ってくれているお陰で俺はあまりカメラに収められずに済むんだが」
「そうでもないぞ?お前が遊作のサポートにずっと回っているから逆にPlaymakerとの関係性で世間は持ちきりだ。お前単体のデータより、遊作との2ショットのが多いだろ?そういう事だ」
「げっ…」
「最近有力なのが「幼馴染説」、次いで「兄弟説」、「ビジネスパートナー説」だ」
「大体当たってる事に今更ながら危惧を覚えてる」
「目立つ奴と親し気にしてたらそりゃどんな奴だって気にするだろ?」
「夜鷹、学校では俺に近づくな」
「遊作そういうこと言う!?俺そこまで目立ってないだろ!?」
「……………」
「えっ二人とも何その顔…」

マジ…?目立たないよう遊作とは違うやり方で頑張って来たのに…と首を傾げる俺を二人は「は?」という顔で見ていた。
いや、車いすというルックで既に他とは違うというのは自覚している。
人は滅多にいないものに自然と視線を向けるものだ。それは自覚している。だからこそ誰よりも集団に馴染む性格でいる事を良しとしたのだが。

(いや…その馴染み方は間違ってはないんだが、お前は如何せん顔も愛想もいいから……)
(目立ち方が異質なんだ……)

二人はあえてその事を呑み込んだ。
草薙が「ん゛ッん゛」と咳払いをする。アイのミュートをOFFにする事も忘れない。

「あー、話を戻そう。遊作と夜鷹が彼女と知り合いになれば、SOLテクノロジーの財前からお前達の失われた記憶や俺の弟の情報が得られるかと思った。…んだが、無理だよなあ…」
『えっなんで??』
「だって考えてもみろ、遊作だぞ?夜鷹はともかく、遊作が女の子と話してるとこ想像できるか?」
『確かに…想像しろって事自体無茶な話だ』
「だよなぁ〜無理だ。無理無理。絶対無理。ありえない。ありえるわけもない」

この二人の言い方には実に悪意がある。
ただでさえ同性の島ともほとんど話さないし会話も成立しないのに、確かに同じく目立つことを嫌う女の子と知り合いになれ、とは。
まだLINKVRAINSに残るハノイの騎士の痕跡を探す方が楽なミッションだろう。

「そこでだ!夜鷹、やってくれるか?」
「俺??別にいいけど…彼女みたいなタイプは多分俺は却って警戒されるぜ?」
『なんでだ?お前は誰とでも仲良くなれるんだろ?』
「そうだけど、彼女はブルーエンジェルとの共通点を片っ端から消す為に敢えて目立たないようにしてるんだ。俺は誰とでも打ち解けられるが、そんな俺が目立たない女の子一人をマークして付き纏ってみろよ。警戒されるに決まってる」
「あー、そう言われりゃそうだな」
「正面からは無理だ、ガードが固すぎる。彼女が部活してたらその部に潜入して情報を集める事は可能だが、彼女が運動部・帰宅部だった場合その戦法もアウトだ。明日学校で彼女を遠くからマークして動向を探るしかない」
「プロは言う事が違うな」
「どこか悪意があるな…」

まあ、俺からの積極的な干渉が無理な以上、遠回りだが地道に行くしかない。
散々言われて若干不服気味の遊作を何とか宥めてその日は帰路についた。
だが、あれだけ言われれば負けず嫌いな遊作の事だから自分からも何とかしようと動くだろう。
なんだかんだ言って草薙は遊作の扱いが上手い。

「まあ、人には向き不向きがあるし仕方ないって。明日頑張ろ?な?」
「………」
「遊作機嫌直せよ〜〜好きなもの作るからさ」
「じゃあ人参グラッセ」
「急にコロッと表情変えよって…じゃあちっちゃなハンバーグと人参グラッセにするか。材料切れてるから買い物付き合えよ」
「わかった」

こういう所は素直でかわいいのになあ、と思うのは身内贔屓かもしれないが。
それでも、弟は可愛いもんだ。

「ちょっと多めに作って明日の弁当と草薙さん用に分けるか」
「ああ」



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