翌日。
俺達は授業を受けつつ周囲を観察し、放課後を迎えキャンパスのテラスの一角を陣取っていた。
アイにキャンパス内の人間の人相スキャンを片っ端からさせるというブラック企業もびっくりな仕事をさせている。

『ありえたな…お前こういうの興味あったんだ〜』
「ない!」
「ははは…で、どうだ?アイ、見つけたか?」
『まだ〜!学校ってのはアレだな、同じカッコした奴がウジャウジャいてさ、誰が誰だか…』
「さっさと探せ」
『へいへい…ン〜違う違う違う違う〜〜〜〜』

アイが一生懸命探している中俺はおやつのクッキーを齧った。
探し物をしていると頭が疲れて糖分を欲するのだ。遊作は自分からは食べないが俺が口に突っ込むと素直に食べる。
今回も自分からは手をつけなかったが俺が口の中に突っ込むと素直に食べていた。

「お前な…」
「遊作は昔っからカルシウムと糖分が足りてないんだ、そんな眉間に皺寄せてちゃ探し人の方から逃げちまうぜ?」
「……ハァ……」
『ため息つきたいのはこっちなんですけど〜!イチャイチャするなら俺のいないとこでやってくんない!?』
「さっさと探せ」
『本当に人の心をお持ちでない!?も〜……あ!みっけ!』
「本当か!?でかしたアイ!」

アイが『やっぱ俺に優しくしてくれんの夜鷹だけ〜!好き〜!!』といった瞬間遊作にミュートにされていた。
一種の様式美になりつつあるなと遠い目をしながらも、アイが発見してくれた葵の後をばれないように追う。
ちょっとかわいそうだったのでミュートをこっそり解除してやった。

『ン〜各パーツのデータを総合すると、まあ美人の分類だな』
「黙って様子を見てろ」
「確かに財前さんは美人だな」
「お前も黙ってろ。調子が狂う」
「酷い言い草だな…あ、どっかの教室に入ってった」

葵が消えたのを確認し、その教室の前までやってくる。
教室の扉にはデュエル部、というボードが張られていた。
デュエル部なんてあったのか。あって不思議ではないが、成程盲点だった。

「あれ?藤木と吾妻!」
「!」

勢いよく振り向くと、話しかけて来たのは島だった。
あれ以降俺は島をはじめクラスの人間の殆どと交流し、ある程度の地位を築いている。
島ともすっかり馴染んだ。「やっほー」と手を振るとあっちも手を振り返してくれる。いい子だ。

「誰だっけ」
「誰って…こないだ話したろ!!島だよ島直樹!!」
「ああ、同じクラスの……」
「遊作…」

お前本当に他人に関心を持たないな。
もう一ヶ月もすっかり経って二か月目に突入しかけ、ある程度皆の顔を見慣れ始めてきてもいい頃合いだろうに。

「お前らいつも一緒にいるよな…つーかなんでここにいるんだ?揃ってデュエルディスクなんてつけちゃってさ〜」
「あ、これはn」
「あ!お前ら入部しに来たのか、デュエル部に!」
「は?……ここ、デュエル部の部室か…」

島の(俺達からしたら)発想の飛躍に遊作と呆気にとられる。
遊作の渾身の惚け(誤魔化し方が下手くそすぎて不安になる)も当然通用しなかった。

「あのな〜ここはお前みたいなLINKVRAINSに興味ナッシング野郎が来る場所じゃねーんd」
「(ガラッ)何騒いでるんだい島君。部室の中まで丸聞こえだよ」
「あっ部長…」
(最高のタイミングだったな……)

島の言葉は部室から出てきた部長らしき上級生に遮られた。
流石の島も部長には逆らえないのか急激に語尾が萎んでいく。縦社会に弱いな島。

「いいじゃないか、入部希望者は大歓迎だ。さ、入って」
「いや、俺は……」
「『はい、ありがとうございまーす!』」
「!?」

偶然にもアイの声真似と俺のいい子のお返事が被った。
俺は笑いをこらえるべく一気に前かがみになってしまったが、遊作が後ろから車椅子を蹴ってくる。痛い。

(お前、どういうつもりだ夜鷹)
(誤魔化し方下手くそか遊作…郷に入っては郷に従えだ、ここで下手に狼狽えるとかえって怪しまれる。幸い財前葵は運動部でも帰宅部でもなかったからこれはチャンスだ)
(面倒くさい…)
(こうなったらしっかり社交性を身に着ける訓練だと思え。これからもこういうパターンがないとは限らないんだからな)

俺達の腹芸を知らずかデュエル部の皆さんの前に遊作と俺が並べられる。
その中には財前葵もいた。てっきり帰宅部だと踏んでいたんだが、まさかデュエル部とは。
ああいうカリスマデュエリストみたいに日夜デュエルに励んでいる人は、オフになるとぱったりデュエルを絶ったりする人が大体だと思うのだが、そうでもないらしい。
意外と何にも興味を持ってませんな顔してデュエル好きか?
そんな事を考えていると島に「ほら、挨拶!」と促された。

「一年の藤木遊作です」
「同じく一年の吾妻夜鷹です。よろしくお願いします!」

その後はデュエル部の皆からの簡易的な自己紹介を受けた。
一年の面子には知り合いも多かったため馴染みが早かった。
デッキのお披露目会などもあってものすごく肝を冷やしたが、ダミーデッキに切り替えておいて大正解だった。

ミーティングも部活も終わる頃にはすっかり日が傾いて、空は燃え上がるようなオレンジに染まっていた。



「――――なんてことがあったんだよ」
「はははは!そりゃお疲れな事だな!まあこれでも食え!」
「本当にな…」

本当に心底疲れた表情でホットドッグを食べる遊作に草薙が爆笑した。
発破をかけておいてなんだがまさかマジで突撃すると思わなかったのだろう。
これに関しては主に俺とアイが戦犯だが。
先程から遊作の声がちょっとトーンが低い。どうやら遊作さまはご機嫌斜めのようだ。

「怒んなって。結果的には良かったろ?」
『俺的にはあのデュエル部ってとこの部員の大半を瞬く間に懐柔してく夜鷹が怖かったかな〜』
「人聞きの悪い!掌握と言え」
『大して変わらないし…』

んだとこのAI〜とアイの眼をぐりぐりしていると(痛くないんだろうか)、聞き覚えのある声がディスプレイから大音量で聞こえてきて顔を向けた。
スクリーンに映っているのは、ブルーエンジェルだった。
帰ってきてすぐにログインしたのか、忙しい事だ。

《みんな〜!!来たよ〜!!そこのアナタ!そこのキミも!ちゅうも〜く!!》

「すっごいテンションの差だな…疲れねえのかなあ……」
『ああいうタイプって素に戻ると何も喋らなくなるタイプだよな』
「わかる…」

ズレた意見の交わし合いをしつつ、ブルーエンジェルからのお知らせに耳を傾ける。
が、その直後彼女から飛び出した言葉に俺は目を向く事となった。

《私ブルーエンジェルは、PlaymakerとLaughingpixyとデュエルし、必ず勝つことをここに宣言しまーす!》
「は?」

全く身に覚えのない宣言に俺は謝ってホットドッグを気管に流し込んでしまった。
噎せている俺を他所に遊作は至って涼しい顔である。

《出てこーいお二人さん!カモーン!見ているんでしょう?私の挑戦、受けてもらうわ!》
「あのおねーちゃん何熱くなってるんだ?」

そこは言ってやるなよ草薙さん、と噎せながら声に出す。

『相手してやったら〜?』
「断る。一つ、俺が財前葵に近づいたのは失われた記憶の手がかりを得る為。二つ、俺が戦うのはハノイの騎士だけだ。三つ、ブルーエンジェルはハノイじゃない」
『ビビッて逃げた腰抜けだって言われるぜ〜』
「言いたい奴には言わせておけばいい」

まあ、そうだよなあ。
腰抜けだのなんだのと言われようと、俺達の目的に彼女とのデュエルは一切掠らない。
別に俺達は娯楽でデュエルをしている訳ではないのだ。

『夜鷹は行ってやらないわけ?』
「俺?俺も別に。だって彼女とデュエルして勝とうが負けようが俺に一体何の利益がある?彼女にしか利益がない。それに俺、別に名声目当てや娯楽でデュエルしてるわけじゃないからな」
『らしいな〜。遊作よりわかりやすいけどさ』
「だろ。彼女には悪いけどな」

そういいながらも悪びれなく笑う俺は中々のクソヤロウだなと思う。
とりあえず、今日は放っておこう。
ブルーエンジェルVSPlaymaker&Laughingpixyに沸く広間を一瞥し、俺は学校の宿題に取り掛かる事にした。



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