翌日、まあネットの世界は散々な雲行きだった。
これだけ叩かれると実に清々しい気分でいっぱいで、逆に見ていて面白い。とても。
PlaymakerとLaughingpixyって実はチキン?とかガッカリだのと言いたい放題言ってくれている。
別に彼らからの評価が欲しくてやってるわけじゃないからな。

「朝から景気のいい話だな…」
『あれ?夜鷹くんは結構平気な感じ?』
「他人からの評価なんてどうでもいいからな。…っと、ちょっと静かに。財前さんが来る」
『あいよ』

あっちの方から葵がやってくるのが見えた。
そのまま鉢合わせ、軽い挨拶を交わしてその足で共に登校する。
遊作はぽつりぽつりと彼女と会話をしていたが、なんだろうか。

(………なんだ?この感覚………)

いつも通りのはずなのに、彼女から妙に嫌な気配がしたのだ。
俺達にデュエルをすっぽかされて機嫌が悪いのだろうかとも思ったが、そうでもなさそうだ。
その気配にあの厭な白い影が見えたが、直ぐに振り払った。…そんなはずがない。
彼女と別れてからも嫌な予感がずっと続いた。

「夜鷹、どうした?」
「………いや、機嫌悪そうだなって」
「そうか?」

静かな嫌な予感を滲ませながら、俺は何とか振り払おうとした。



だが授業中、動きがあった。
俺が懸念していたブルーエンジェルではなく、どうもLINKVRAINSにハノイの騎士が出たらしい。
アイの指示に従って俺達は授業を抜け出し、デュエル部の部室に引き籠る。

「「デッキセット!IN TO THE VRAINS!!」」


ログインするといつも通り空から投げ出されるPlaymakerを受け止めて着地する。
それと同時に半径500m以内にスキャンをかけた。

「…引っかからないぜ、アイ」
『もうちょっとあっちだぜ〜』
「……」

そう言われて素直に従うものの、いつまで経ってもハノイの反応がない。
一般アバターの反応だけだ、それも極めて少数だ。近くに一人しかいない。
そこまで考えて立ち止まる。

「……待て。アイ、ハノイの騎士が来たといったな」
『そうだけど?座標もこの辺りだぜ〜』
「それはハノイのアカウントの事じゃあないな?」
「……どういう事だ」

俺の意見でPlaymakerが立ち止まる。
アイはにんまりと笑うように目を細めるだけだ。
こいつ、流石AIというべきか思考で心臓を動かしているような生き物なだけあって、随分と賢しい。

「ハノイの騎士本人ではなく、ハノイの手が加えられた刺客の可能性もある。GO鬼塚の時と逆のパターンもあり得ない話じゃない」
『と、いうと〜?』
「………あそこにいるブルーエンジェルのアバターしかないんだな、半径500m以内のアカウント反応がさ。でもアイはハノイの座標はこの辺りだという。……当たりだな」

そう言って俺は、俺達に接近してきていたブルーエンジェルを見遣る。
それに続いてPlaymakerが彼女の気配に気づいたようで、彼女を見るなり顔を顰めた。

「……ブルーエンジェルが、ハノイの手先だというのか?」
「彼女がハノイに屈するとは思ってない。おおよそ…俺達をおびき寄せる為の餌に使われた感じかな?」
『そうだろうなぁ〜。彼女のデッキから、僅かにだがハノイのにおいがする…』
「朝感じた嫌な感覚の正体はこれだったのか…」

遊作も同じことを感じていたようだった。
彼女のデッキからハノイの臭いがするとアイは言っていた。
アイの反応が正しいなら、AIの彼が感じたのであれば恐らくは電脳ウイルスの類だろうか。
ハノイのカードを与えられたのか、それとも彼女のアバターそのものがウイルスに犯されているのか。
そもそも、ハノイは何故こんなことを?

「……アイ、お前…騙したな?」
『何の事〜??』
「ブルーエンジェルがタイミングよく現れたのも、それと同時に俺達が到着したのも、お前が仕組んだ事だな?現実世界での俺達のカリキュラムを知ってるのはお前しかいないもんな」
『あっバレた?』
「庇護できねえぞ」

アイはイタズラがバレたかのような軽い反応を見せたがこれは遊作にバラされても文句は言えない。
だが、ハノイに関する事なのであれば俺達が指をくわえて見ている訳にもいかない。

「……まあ、ブルーエンジェルとの確執も処理出来て一石二鳥って所か?上手くいけばの話だけど」
『どっちがデュエルするんだ?』
「俺が行く」

名乗り出たのはやはりPlaymakerだ。
俺の身体の事を心配しているのだろう。

「Playmaker、俺は…」
「ブルーエンジェルとのデュエルは俺が受け持つ。お前は彼女のデッキのデータ解析を頼む」
「………分かった。勝てよ」
「ああ。必ず帰る」

Playmakerは俺の言葉に強く頷くと。Dボードに乗ってデータストームの中へと消えて行った。
彼は負けない。負けないはずだ。
約束した通り必ず勝って帰ってくるはずだ。…なのに、この不安は何だ?

「っ……」

頭の中に軽い電流が走るような感覚がする。
ピリピリと軽度の痛みを訴えている。頭の中で何かが泳ぎ回っている気配がする、それはアイを遊作のディスクの中にブチ込む時の感覚によく似ていた。
だが、それとは比べ物にならない程その感覚は鮮明に、そしてはっきりと嫌な予感として俺に警告を促す。
何かがこのLINKVRAINSにいる。『何か』が――――

「随分とPlaymakerが心配な用だな、Laughingpixy」
「!!」

突如気配もなく背後から掛けられた声に勢いよく振り返った。
その気配と、白いシルエットに目を剥く。

「………、……ハノイの、騎士…!?なんで…!スキャン時には映らなかったはず…!」
「それは貴様が良く知っている類のものではないのか?」

脳裏に該当するのは、ハノイの騎士が独自に開発した違法プログラムだ。
俺が独自にハノイの騎士用の特性スキャンプログラムを開発したように、ハノイにも優秀なプログラマーがいるのだろう。それも俺のプログラムが引っ掛からなかったほどの隠匿性だ、完全に性能はあちらが上らしい。
この電脳世界に於いて合法プログラムよりも非合法・脱法プログラムの方が圧倒的に多いというのはハッカーの中では常識であり、ハッカーたちは圧倒的に非合法プログラムの方を好む。
この手のプログラムは一つ取り締まってもアップグレード版による上位互換がすぐに出回る為、完全に鼬ごっこと化すからかサイバー警察の手も回っていない。

「Playmaker達が態々LINKVRAINSにログインしてくれて助かった。お陰で貴様の座標を直ぐに特定ができた」
「………態々ハノイの騎士が俺に何の用だ。まさか話し合いに来たわけでもあるまい?」
「その『まさか』だとも」
「…何のつもりだ?」

相手の回りくどい言い方に苛立ちが募る。
きつく顔を顰めて敵意を剥き出しにする俺を、ハノイの騎士はくつくつと笑って見ていた。
何を企んでいる?何のつもりで俺とPlaymakerが離れた瞬間に俺に接触してきた?
人質のつもりか?
だが、奴から出た回答は俺の予想とは全く異なる、想像もしていなかった事だった。

「とある方が貴様に随分と興味を持っておられる。その方から貴様を連れてこいとの命が下っていてね」
「………は、」
「私と共に来い、Laughingpixy」



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