彼のドローフェイズ宣言を聞いた瞬間、背筋が震えるほどの何かを彼から感じた。

(なんだ、この感覚は…?)

彼は真珠色の瞳で真っ直ぐに正面を見据える。

「スキル発動。『Storm Access』」

彼が腕を気だるげに振るう。
その直後、前方でデータストームの流れが突如変化し、そこから突き上げるように突風が巻き起こった。
それは治まる気配もなく徐々に勢力を増し、ビル群を次々と呑み込んでいく。

「データストームだと!?」

Laughingpixyはデータストームに躊躇いなく飛び込んでいく。
データストームは彼を呑み込んだ直後、一瞬脈打つように肥大化し、突如弾け飛んだ。
弾き出されるように彼の身体は空中に投げ出される。しかし彼は冷静に自分のDボードを確保すると、難なく通常のデータストームの上に着地した。

(データストームを生み出しただと!?それもあれ程の規模を…!)

「俺は手札から、『トロイメアの木馬』を召喚し、効果を発動する。このカードを除外する事で俺はデッキの中から『トロメーアの雌馬』二体をサーチし、フィールド上に特殊召喚する!このモンスターは『トロイメア』として扱う!」

今更何を、と目を細める。
データ上、彼のデッキにこの条件のモンスターで召喚できるリンクモンスターは存在しない。
悪あがきのつもりかと思ったが、Laughingpixyは高らかに宣言する。

「俺はフィールド上のレベル4モンスター二体を素材に、オーバーレイネットワークを構築!幽玄に繋ぎ止められし竜よ!数多なる夢想を束ね、今再び現世へ顕現せよ!エクシーズ召喚!現れよ、ランク4!『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』!!」
「エクシーズ召喚だと!?そんなもの、データには…!!」

Laughingpixyは攻撃力2500、守備力2400のエクシーズモンスターを召喚した。
トロイメアと名の付く竜は世間一般で認知されているドラゴンの姿よりもずっと優美で、その佇まいは暴力の象徴というよりも恵みを与える女神の如き姿だった。
美しいと、思わせた。

「俺は『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』の効果発動!エクシーズ素材を二つ取り除く事により、相手モンスター一体の攻撃力を半分にし、その数値分このモンスターの攻撃力はアップする!」
「な、」
「更に俺は墓地に送られた『トロメーアの雌馬』の効果発動!このモンスターがモンスター効果によって墓地に送られた時、自分のデッキからカードを一枚選択して手札に加える!そして俺は、手札から『死者蘇生』を発動!墓地からリンク3の『トロイメア・ユニコーン』を特殊召喚する!」

『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』の効果によって攻撃力1400となった『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』一体に対し、攻撃力3900の『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』と攻撃力2200の『トロイメア・ユニコーン』。
一気に形勢は逆転し、ハノイの騎士の顔色が無くなっていく。
その一方で、Laughingpixyは笑みを浮かべ、深めていく。

「エクシーズだなんて聞いてない、きいてない…!」
「『トロイメア・ユニコーン』で、『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を攻撃」

狼狽えるハノイの騎士を他所に、ユニコーンは一声嘶くとその全身に刻まれた文様と背負った幾本もの剣が光り輝き、波導を放つ。
波導がレッドアイズにぶつかった瞬間、レッドアイズは大きく悲鳴を上げて粉砕された。それと同時に、不動の4000だったLPが3600に変動する。
直後。

「ぅ、ぐ、ぁああああああああああッ!!!??????」

レッドアイズ以上の悲鳴を上げて、ハノイの騎士が崩れ落ちる。
Dボードにしがみついたのは意地だろう。
彼は仮面越しに動揺と苦痛に視界を揺らがせながら、何が起こったのかもわからないだろうに薄く笑むLaughingpixyを睨みつけた。

「はぁ、はっ、貴様、何をした…!?」
「別に?お前とて覚悟の上だったんだろう?」
「何の事だ…ッ!?」
「何の事とは惚けないでいただきたいものだ。―――俺に全てを『奪われる』覚悟だよ」

彼は真珠色の瞳をうっそりと細めて、ひどく美しく微笑んだ。
激痛の中で揺らぐ視界でも、彼の笑みは見惚れる程だ。だが全身を蝕む激痛が正常な認識を拒む。
全てを奪われる、というワードに、恐ろしい何かを感じるだけだ。

「お前達は俺を連れ去りに来たんだろう?その上でデュエルをした。負けたら俺は、お前達に俺という『全てを奪われてしまう』。―――なら、俺が勝ったらお前の全てを奪ってもいいんだろう?お前は奪われる事を覚悟の上で来たのだろう?」
「、は――――」
「デュエルは勝者は与えられ、敗者は奪われる!勝つ事が全て!例え悪であろうが勝者が正義を語る事を許され、正しき者であろうと敗者は愚者として罵られる、それが世の摂理!――――お前のお陰で思い出す事ができたよ。そしてお前は、今から俺に奪われる」

目の前の少年の姿をしたアバターが、何を言っているのか理解が出来ない。
ひとつわかるのは、少年は今、己に死刑宣告を下したのだ。
今から貴様は『死ぬ』のだと。酷く嬉しそうに、愉しそうに、その名前を象徴するような笑みを浮かべている。

「今お前を蝕んでいるのはれっきとした『痛み』さ。デュエルに於いてLPとはその名の通り正しく命も同然。それが削られると、その数値分に適応した『痛み』がプレイヤーを襲う。…『俺』とのデュエルとは『奪う』か『奪われる』か!その痛みは全て『俺』とのデュエルに於いてのルールとして適応される」
「そんな、馬鹿な事…!!狂ってる…!!!!」
「狂ってる、狂っているか!どの口が其れをほざく?戦いとは本来そういうものだ、覚悟無き者に、カードの剣を抜く資格などあるまい!奪われたくなければ奪え!負けたくなければ勝て!同じことだろう?」

―――――愉しそうに笑うこの男は、正気じゃない。
あの瞬間までのLaughingpixy、ではない。あのマゼンダの瞳を持つ男とはまるで『違う』。

「………、誰だ、貴様は…!」
「『誰だ』、か。また随分と曲折的な問いをする。俺は『俺』だ。お前達がLaughingpixyと呼ぶのと同じモノだよ。……だが、『俺』は確かに、お前達が生み出した怪物だ。ならばお前達は『俺』を俺とは認識できまい」
「何を言って……」
「『LulzSec』、そう呼ぶと良い。俺であって俺でないものの名前だ」
「、まさか、貴様は――――!」
「さてここで問題だ。このデュエルでは削られたLPの数値に応じた苦痛が俺達を襲う。先程お前は800LPを削られてあの様だったが……ここで、LPを3200から0に削られる際の苦痛は、一体どれ程のものなんだろうな?」

LPは、命も同然――――その言葉が、瞬時にハノイの騎士の脳裏に蘇った。
たった800でも、壮絶な苦痛だった。それが、あの『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』の攻撃力3900をまともに、浴びたら?
もしログアウトできたとして、そのフラッシュバックは――――

(―――――――『奪われる』)

「ま、待ってくれ…!やめろ、やめろ……!!嫌だ…!!」
「―――――『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』で、ダイレクトアタック!――――「ナイトメア・インフィニティ」!」

『デストロイメア・エクシーズ・ドラゴン』の口から放たれた光線が、ハノイの騎士をその絶叫ごと飲みこんだ。
いつまでもビル群にその悲鳴が響き渡り、まるで光線で消し飛んだかのようにハノイのアバターが消え失せる。
ディスクに『You Win』と文字が表示され、漸くデュエルが終わったのだという実感が湧いて来る。

(――――遊作の方も終わったみたいだな)

Playmaker達のデュエルを中継していたカメラをハッキングして覗いてみると、彼は既にデュエルを終えて地上に降りていた。
彼の傍らには意識を失ったブルーエンジェルが横たわっており、PlaymakerはSOLテクノロジーのセキュリティ部隊に囲まれている最中だった。

(これはいけないな。…ログアウトすれば、俺は暫く意識が戻らないだろうが…まあ、仕方がない)

Playmakerの座標を特定し、設定を打ち込むとその場に素早くログインする。
目の前にセキュリティ部隊が群れを成していた。当たりだな。

「待たせたPlaymaker、ログアウトする」
「pixyお前、目が、…」
「行くぞ」

素早くブルーエンジェルからログとアバターのコピーデータを盗み取ると、Playmakerの腕を掴んで颯爽とログアウトした。
さて、意識のない自分のデュエルディスクを調べてログを見つけてくれる事を祈りつつ、浮上していく意識に身を委ねた。





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