「リボルバー?」
「ハノイの騎士か…!」
リボルバーが現れた。
目の前に佇むこの男の気迫は薄い意識の中でも十分すぎる程に伝わってくる。
何故この男がこんな所に。駄目だな、睨みつける気力もない。
「PlaymakerとLaughingpixyを放せ」
「……!」
「この男たちの相手をするのは私だ」
「そんな事は出来ん!」
財前は突如現れたリボルバーの言葉に食って掛かる。
突如閉鎖エリアに大胆にハッキングして来て言う事が其れか、この男は。
リボルバーは要求を呑まない財前に言葉ではなく力から示す事にしたらしい。掌を空に掲げると、ふと髪が風で揺れた。
(風…?)
その時、空が砕けんばかりの暴風が生まれた。
凄まじいデータ量に頭が割れそうだ。身体が拘束されていなければこの風で完全にアバターがお陀仏だった。
風は教会を半壊させながら勢いそのままに外へ放たれていった。
「なっなんなのコイツ…!」
(LulzSecと同じ…データストームを自在に操る能力…!!)
「私がLINKVRAINSを破壊するなど容易い事だ。…だがそんな事はどうでもいい。私の目的は、Playmakerが持つAI!」
「だからといって、渡せると思うのか!」
「お前は渡すさ。我々がブルーエンジェル、お前の妹に電脳ウイルスを仕込んだ。あのウイルスは我々でしか除去できない」
「…!」
そっちから明かしたか。明かしてもらわないと拷問が続きそうだから助かったが。
「何故妹を!」
「人質だよ」
「人質だと!?」
「誰でもよかったのだ。PlaymakerとLaughingpixyの正義感を煽り、誘き出せる者。だが無名の誰かでは効果が薄い。そこでブルーエンジェルを利用したまでだ」
「…ッ、除去プログラムを渡せ…!!」
「それは、お前次第だ。SOLテクノロジーセキュリティ部長、財前晃」
リボルバーは財前に要求を突きつける。要求はこうだ。
このままPlaymakerとLaughingpixyを拘束し、リボルバーの要求を無視すれば財前の本来の仕事であるイグニス回収という責務を果たす事は出来るが、財前葵が目覚める事は永遠にない。PlaymakerとLaughingpixyを開放し、そのどちらかがリボルバーとデュエルで勝利すれば、財前に除去プログラムを渡す。
財前からしたら、正体不明の怪しい男に妹の人生を賭けるなど正気の沙汰ではないだろう。
だが、妹の命と己の不信、どちらに天秤を傾けるかなど、決まっていた。
「…っ、…妹の命には、代えられない…!」
「…っぅ、」
「!pixy!!」
締めつけがふと消えて、身体が空中に投げ出された。
あ、やばいこれ、地面に激突する。覚悟を決めて衝撃に備えると、予想していた衝撃とは違うものが俺の身体を受け止めた。
「…!」
「随分と甚振られたようだな。SOLテクノロジーセキュリティ部長は随分と高尚な趣味を持っているらしい」
俺の身体を受け止めたのは、まさかのリボルバーだった。
バイザー越しの黄色い眼と視線が合う。目が合うだけで、この覇気だ。この男は強者であると本能が警告を鳴らす。
リボルバーはくつりと笑っていた。意地で睨みつけるも、バイザーに反射して映る俺のアバターの損傷度から、あまり覇気は感じられない。
「私達の目的はイグニスの捕獲だが、お前の身柄も目的の一つでもある。Laughingpixy」
「pixyから離れろ、リボルバー…!」
「勇ましいなPlaymaker、彼も賭けるか?このデュエルに」
リボルバーはぐったりとした俺を抱えたまま、Playmakerに提案する。
提案というよりは、ほぼ脅しだな。最高に悔しい限りだが抵抗する力もない。
自衛の術も無くなれば、こうも為すがままなのか。改めて無力感を叩きつけられるようだ。
背後からPlaymakerの突き刺さるような怒気を感じる。
「……だが、何事にも順序というものがある。今回はお前を開放しよう」
「……!」
リボルバーが俺を地面に降ろした。
無駄に降ろし方が気遣われている感じで屈辱を感じる。貸しを作る形となってしまった。
「待っているぞ、Playmaker」
リボルバーはニィ、と笑むとデータストームに乗ってこことは違う場所へと消えて行った。
重ねて情けない限りだが一気に重圧から解放された気がして、身体の力が抜ける。崩れ落ちそうになるのを咄嗟にPlaymakerに支えられた。
「大丈夫か!?」
「……悪い…情けない兄貴でさ…自分の身は自分で守る、って言っといて…お前すら守れなくて、この、ザマだ…」
「…違う。俺が未熟なばかりにお前の事を考えていなかった俺が悪いんだ。……すまなかった」
「………はは、俺ら、初めて喧嘩したね」
彼の頭を引き寄せて額を摺り寄せる。
前の戦いではできなかったルーティン。互いが生きているという確認のための仕草。
彼のアバターの目の色は現実世界と変わらず、綺麗なペリドットだ。小さい頃から純粋なまま何も変わっていない、いつまで経っても可愛い俺の大切な弟。
「お前の事だから、…彼女の事、責任感じてたんだろ?…いっておいで。…待ってる、からさ」
「………ああ」
「…アイ、Playmakerを宜しくな」
『俺らの心配より自分の心配したら?』
中々痛い指摘だなと苦笑いする。
俺がなるべく入る限りの力を込めてPlaymakerの背中を叩くと、彼は直ぐに立ち上がった。
一瞬だけ俺を一瞥すると、教会の瓦礫を飛び越えてLINKVRAINSの街並みに姿を消していく。
薄く笑みながら彼を見送る俺に、財前が声をかける。
「…君達は、戦ってくれるのか」
「……?」
「私は君達に酷い事をした。それでも妹の為に、…憎まれて当然のこの私の為に、戦ってくれるのか」
彼の目に、あの時の敵意はもうなかった。
俺を散々嬲った事にキレ散らかしてやろうかとも思ったが、結局それをする気も無くなった。
と言っても、最初からきっとできなかったんだろうが。
「…俺達は、…貴方の事を、憎んでなんかいない」
「…!」
「俺達が憎むのは、ハノイの騎士だけだ」
財前は、その言葉に押されたように黙った。
だが俺は、別に彼に押し黙って欲しかったわけじゃない。
彼に言ってやりたかったのはそういう事ではない。憎しみの言葉に込められた怒気を振り払うように「それに、」と続ける。
「妹の為に、…必死だった気持ちも、わかるし」
「…君は、兄なのか。彼の」
「……………愛情は、伝えられるときに、然るべき、伝え方をしないと……絶対、後悔する、から」
大事なんだろ、妹さん。
財前の質問には答えず、そう伝えると、彼は静かに頷いた。
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