何とか痛みが引いて草薙にメールを送った後、遊作を迎えに草薙のキャンピングカーへ向かった。
店じまいは済んでいる事を確認してノックする。
中から草薙が顔を覗かせた。
「夜鷹!」
「草薙さん、遊作は…」
「ああ、今ちょっとお休み中だ。中に入ってくれ」
車の中に入ると、草薙がアイの解析の努力をしている形跡が見て取れた。
『あっ夜鷹チャン!』
「アイ!お前も災難だったな」
『夜鷹チャンは平気?ボロボロのズタズタだったけど〜』
「俺はこの通り」
本当は数十分前まで激痛に悶えて転がり回ってたんだけどな。いう必要はない。
椅子に腰かけた態勢ですっかり夢の中の遊作の顔にも疲労の色が濃く出ている。その表情は随分あどけない。
俺は草薙と遊作の間に陣取ると、草薙を手伝うべくキーを叩き出す。
アイの解析はまたあの難解で意味不明のアルゴリズムの羅列との戦いだ。
「本当に意味不明だな」
「だけど、こことこれ、それとこれが…ほら、繋がったぜ」
「はえーよ!…本当にお前、解析は一流だな」
『夜鷹もリンクセンスがあるんだっけ?』
「ああ…ネットワークの気配を感じる、ってやつね。まあ、そうだな。あとはデータストームの中にいるモンスターの鼓動が聞こえたりとか、声が聞こえたり…」
『モンスターの声?』
「?ああ。リボルバーの『トポロジック・ボマー・ドラゴン』や遊作の『ファイアウォール・ドラゴン』の声も、はっきり聞こえた。あんなに痛いくらいの声だったのに、聞こえなかったのか?」
俺は実際にリアルダメージを受けたというのに、アイには心当たりがないらしい。
その時の遊作の様子からして遊作も聞こえていなかったらしい。少なくとも気にした様子ではなかった。
俺にしか聞こえなかったのか?あれだけの声を。
『これは俺の予想だけどさぁ、夜鷹のリンクセンスは遊作のやつより強力なものなのかもね。若しくは性質が異なるものなのか。いつから発現したの?』
「覚えて無い。少なくとも………」
「……ん…」
「!」
寝ていた遊作が少し呻いて、目を醒ました。
虚ろな寝ぼけ眼を彷徨わせて、俺を認識するや否やはっとしたように覚醒した。
「夜鷹!?身体はどうだ、大丈夫か!?フラッシュバックは」
「だーいじょうぶ大丈夫何ともないから一旦落ち着け!遊作だってフラバ大変だったろ?俺と草薙さんでアイの食ったデータの解析してたんだ、もうすぐ終わるから」
「何か分かったのか?」
「残念ながら。草薙さんは?」
「お前が分からないなら俺はお手上げだよ。遊作も気になるのか、リボルバーの言っていた事が」
「?リボルバー何か言ってたのか?」
「ああ、そういや夜鷹はその時バイタ…」
おっとそこまでだと俺は草薙の足を無音で踏んだ。
俺のバイタルサインが消えかけていたなんて今言ってみろ。あのやり取り全部ウォーターバブルにリターンすんだぞ。
それはまずい。遊作に軽いヤンデレの素質があると知ってしまった今その流れはまずい。
俺がマジで遊作に軟禁される。デッキとディスク取り上げられたら俺は正真正銘無力だぞ。
「い゛…っ!…あ、あー音声の調子が悪かったんだったな!んで聞こえなかったんだろ?」
「そうなんだよ。リボルバーは何か言ってたのか?」
「ああ…アイは意思を持つAI…意思こそが命だとリボルバーは言っていたんだ」」
意思を持つAIなんて眉唾物だ。
命を持つAI、と言い換えてみてもやはり引っかかる。
そもAIとは生き物ではない、プログラムだ。思考するAIももちろんいるが、それは人工知能という作られた知能であり、すべて人間が組んだプログラムに過ぎない。
「もしアイツの言っている事が本当なら、コイツは生きているってことになる。だからハノイは躍起になってコイツを追ってるんだ」
「だがそんな事どうやって証明する?コイツには心臓があって、それが動いてるわけじゃない!」
「人工知能とはまた違うのか?思考し、外部からの干渉をデータとして吸収し学習する。それとはまた違うのか」
『何?一体何の話だ?』
「お前が生きてるのかって話だ」
どうやらアイも『天火の牢獄』が発動している間意識がなかったらしい。変なタイミングだな。
「俺は生きてるに決まってんじゃん!」と顔芸(?)しながらうごうごと動くも、残念ながらそれは証明にはならない。そもお前目玉だけじゃん。
その時、俺達が解析を続けていたデータが遂に一つにまとまって、画像データのようなものに変わって画面に映し出された。
ノイズだらけで殆どわからない。
「アイ、お前から出たデータなんだけど解析終わってるか?」
『ン?うん、俺はとっくに解析済み〜!何なのか教えて欲しい?』
「勿体をつけるな。お前のプログラムをバラバラにするぞ」
「様式美かな?」
おなじみ過ぎて突っ込まずにはいられなかった。
「ふえええ怖いよ夜鷹〜!」とアイが泣きついてきたので撫でてやった。遊作の軽く人一人殺せそうな視線が痛い。
アイ、遊作が怖いから頼む。『モ〜夜鷹チャンに免じてやるよ!』と息巻いたアイは視線での訴えを察してくれたらしい。
『ホントは人間に見せんのはどうかなって思ってるんだけど、お前達は特別だ!有難く思えよ!』
そういうと遊作のディスクからアイの特徴的な目玉が消え、その代わりにディスクが金色の光を放ち始めた。
光の中でディスクからうねうねとした黒いスライム状の物体がひり出し、全体を引き摺りだす。
黒い物体はヒトの形を形作り、最終的に俺の掌くらいのヒト型のナニカになった。
なんだ、これ。ナニカは『じゃじゃーん!!!!』と言っているのでこれはアイなのか。
『どうよ!これが俺の本当の姿〜!!ハノイの騎士から俺の身体のプログラムを取り返したぜ〜〜!!』
「…………」
『どう?どうどう??キュートでカッコイイでしょ〜???』
「それだけか?」
「他に何か思い出したりしてないのか?」
この仕打ちである。
アイが身体を取り戻した以外大した進展がないと見るや遊作と草薙は解析に戻った。
最早何事もなかったかのような切り替えの早さだ。
終いには「夜鷹、そこの冷蔵庫の中に入ってる材料で晩飯作ってくれないか?」「俺スコッチエッグが食べたい。半熟の」と夕飯の事を考え出す始末である。いや材料あるけど。
『エ〜ン夜鷹〜〜!!!二人が人の心で俺に接してくれない〜〜!!!』
「ええと、前の3割増しくらいで可愛くなったんじゃないか?俺は好きだぜ」
『夜鷹〜〜〜!!!好き〜〜〜!!!!ケッコンして〜〜!!』
「草薙さんミュートにしてくれ」
「様式美かな?」
prev next
back