俺がホットドッグを食べ終わった頃。
少し暗くなった雰囲気を払拭するように話題を転換する。
「それより、何か動きがあったのか?」
「デンシティのネットワークセキュリティが強化されている。どうやらSOLテクノロジー社は、何かを探しているらしい」
「何かって?」
「AIプログラムだって情報がある」
AIを探しているとは、また何とも不思議な話だ。
「プログラムが逃げ回るなんて聞いた事がないな」
「人間のように意思を持ってるわけでもあるまいし。でも、SOLテクノロジーがそんな大規模なセキュリティー強化なんて予算のかかる事を無駄にするわけもないしな」
「ああ。なんでも、ソイツを見つける為に大規模なスキャンをかけるかもしれない」
「そんな事をしたらハノイのいい的だ」
「遊作、SOLテクノロジーがハノイの奴らに対してリスクの高い行為を腹芸無しでするとは思えない。アイツらだって一枚岩じゃない」
「……!そうか!」
遊作が何か閃いたようにバンに駆け寄り飛び乗った。
俺が突然の動きについて行けないでいくと、「夜鷹!」と遊作が呼んでくる。
とにかくバンに車椅子を向けると、遊作が抱き上げてバンの中まで運んでくれる。
「わり、重いだろ」
「そこまでヤワじゃないからな」
お前が重さを語るなど100年早いとでも言いたげに颯爽とバンの中の食器棚の前の椅子まで運ばれる。
ここの食器棚、なんとコンピュータの液晶になるのだ。科学の力ってスゲー!
仕込みで忙しいだろう草薙さんまで引っ張って閉店し、遊作はモニターを起動した。
「罠を作ってくれ、そのAIを捕まえる」
「は!?」
「SOLテクノロジーだけじゃない、ハノイもそいつを追ってるんだ。そのAIを捕まえれば、ハノイへの切り札になるかもしれない」
「正気か?SOLテクノロジーとハノイが追ってても捕まってないんだぞ」
草薙の言葉を脳内で反芻する。
確かにSOLテクノロジーとハノイが追いまわしても捕まっていないAIをたった3人で捕まえるなんて土台無理な話だ。
ただ乱入しては双方とかち合って最悪全面戦争になりかねない。
この二つの勢力を相手にするのは骨が折れるなんて騒ぎではない。
だから、この際の的確な解は。
「なるほど。スキャンでもしたらAIの逃げ道は無くなる、スキャンの際現れるファイアウォールに抜け道を作ってネットワークそのものから脱出させて俺達の所まで誘導する訳か。だがどこに?」
「コイツの中だ」
遊作が指したのは自分のデュエルディスクだ。
彼のデュエルディスクは旧型だからLINKVRAINSにクラウドが接続されていない。最新型なら断念する案だろう。
「無理だ、時間が無いだろう」
「できるさ。俺達とアンタが力を合わせれば!」
「草薙さん、俺もいるんだぜ?不可能なんてない」
トン、と俺が自分の胸を叩くと、草薙の険しい顔が不敵な笑みに代わる。
彼とて己が優れたハッカーである自負がある。
俺達は全員が突出した力を持ったハッカーだ。
「…ヨッシャ!」
「そうこなくちゃ」
全員のやる気に火が付いた。
そうと決まれば準備をしなければならない。俺達は画面に齧り付いた。
暫くして、俺が担当しているカメラ映像に変化が訪れた。
LINKVRAINS内部の建物が青白い光に透過されていく。
その中で空の映像内に含まれているファイアウォールの異常を検知した。
「急げ、SOLテクノロジーのスキャンが始まったぞ!」
「ファイアウォールが突破された!このプログラムはハノイだ!!」
「そっちがきたか!」
ファイアウォールが破られ、黒い鋼のような体躯のドラゴンが空を泳ぎ始める。
その時、ズキリと頭が針につつかれるような鋭い痛みを訴える。
だがそれも一瞬の事ですぐに頭の隅に追いやり、画面を注視する。
LINKVRAINSのアバターたちがドラゴンが吐く炎に焼かれて次々とデリートされていくのが見えた。ハノイの攻撃が始まっている。
(なんだこの感覚は。…AIの気配か?頭の中で、何かが泳いでいるような感覚がする)
追い立てられるような焦燥感の中で、ずっと頭の中でひりひりとした痛みと頭の中で何かが泳ぐような奇妙な気配がしていた。
「これはクラッキングか?アカウントが次々消滅していくぞ!」
「もうすぐ終わる!AIを手に入れればそいつが救世主になってくれる」
「本当に捕まるのか…!?」
「ああ、感じるんだ。そいつの気配を!」
「俺も何となく感じるんだ。大丈夫、必ずAIは俺達の下に辿り着く」
「ッ、完成した!いくぞ!」
嵐のような状況変化の中遊作が完成したデータを投入する。
遊作に抱えられて外に出ると、既に遊作のデュエルディスクがプログラムデータの高速演算で青白く発光していた。
「遊作、これは…」
「ああ。…来い!俺の下へ!」
デュエルディスクが放電を始める。壊れないかこれと注視していると、遊作が強く俺の肩を抱いた。
祈るような力に俺もディスクを注視していた。
――――来る。
直感に似たそれと同時に、遊作のデュエルディスクは放電をやめ静かになった。
ディスクのラバーの部位が、まるで目のような形状に変化したかと思うと、それがゆっくりと開いた。
『うーん…………はっ!!?』
「よく来たな。お前には救世主になってもらう」
『えっ!!?何!?』
「いやまあそうなるよな。最近のラノベかと思う程にぶっ飛んだ勧誘だよ」
本当にAIが遊作のデュエルディスクに収まった。
突然の事に大きな一つ目がキョロキョロと忙しなく動いている。目だけなのに表現の豊かな奴だ。
「無駄だ、ディスク内部からのプログラム変更は出来なくしてある」
『えっっ俺捕まったの!!?』
「お前が連中が探してるAIだな?」
『う〜オラはただの通りすがりのAIですだ〜〜〜!!!』
「なんだこいつ、なんかかわいいぞ」
泣き真似だとは分かっているがなんというか、愛嬌がある。
目の部分をチョンチョンとつついていると、外のディスプレイから騒音が聞こえて視線をそちらにやる。
ディスプレイにはブルーエンジェルがドラゴンから必死に逃げ回っている姿が映っていた。
「時間がない、行こう!」
「おう!」
『行くってどこへ!?』
「LINKVRAINSだ!」
『俺そこから逃げて来たのに!!!???』
「お前の意見など聞いていない!」
「災難だったな、ちょっと付き合えよ!」
バンの中に戻ると遊作と一緒にポッドの中に入る。
ここで全てが始まる。
「「デッキ、セット!IN TO THE VRAINS!!」」
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