「この風……これがスピードデュエル!」
頬を撫ぜるそれは現実世界の風に近い感覚だ。
不思議な感覚を覚えていると、音声回線をONにしたAIの声が頭に響いて来る。
『ところでPlaymaker様とLaughingpixy様はスピードデュエルとマスターデュエルの違いは分かってるのか?』
「勢いづいて始めたはいいけど知らん!教えてくれ!」
「手短に話せ」
『相方はともかく、教えてもらうのに偉そうだな…』
「お前こそ、人質だってことを忘れるなよ」
『あーはいはい、じゃあ手短に』
なんかあそこの二人(?)、心配だな。大丈夫かな。
一抹の不安を覚えながらAIの説明に耳を傾ける。
『まず違うのは、メインモンスターゾーンと魔法罠ゾーンが三つだってこと』
「!」
その説明に、夕方の事を思い出す。
遊作が一瞬呟いていた、「メインモンスターゾーンが三つのレギュレーション」の有無。
偶然か?遊作は、スピードデュエルを知っていたのか?
『そして最初の手札は四枚。メインフェイズ2はない』
「マスターデュエルよりシンプルだな」
「分かりやすくて良いじゃないか」
『そういうことだ』
AIの説明が一段落した直後、俺の目の前に新手のハノイが現れる。
奴もスピードデュエル用のボードを使っている。
どうもあちらにはスピードデュエルの心得があるらしい。俺は不利だな。
「イグニスを持たぬ貴様に用はない。手早く処理させてもらおう」
「然うは問屋が卸さない、ってな。悪いが徹底的にお前達を妨害させてもらうぜ」
「小癪な…」
「そりゃどうも」
Laughingpixy(笑う妖精)の名の通り、にぃと笑って見せる。
こちらはAIこそ持っていないが負ければPlaymakerに火の粉が降りかかる、こちらはこちらで何としても処理しなければならない。
互いにディスクを構える。
「「スピード・デュエル!!」」
***
デュエルを開始して暫くした頃、戦線と精神が安定し始めた。落ち着いてフィールドを見渡す。
相手のフィールドには、クラッキング・ドラゴンという名の効果モンスターと伏せカードが一枚。
攻撃力は3000。並みのモンスターでは歯が立たない。
こちらには伏せカードが2枚とフィールド魔法として『天空の聖域』、メインモンスターゾーンに『星杯の妖精リース』が一体存在していたが、クラッキングドラゴンによって破壊された。
リースが墓地に送られる前はクラッキング・ドラゴンの効果によりリースの攻撃力はレベル×200ダウンし0となり、俺のライフも同数値のダメージを受けて3600となっている。
墓地のリースの効果で手札のモンスターを墓地に送り、リースは再び手札に戻っている。
「俺のターン、ドロー!…俺は手札から、『レスキューラビット』を召喚!」
「ハッ、クラッキング・ドラゴンの効果発動!相手がモンスターを一体のみを召喚・特殊召喚した時、そのモンスターの攻撃力はターン終了時までそのレベル×200ダウンし、ダウンした数値分だけ相手にダメージを与える!」
「…!」
その効果でレスキューラビットの攻撃力はレベル×200により800ダウン、攻撃力は0になった。
そして俺のライフも3600から2800に減る。
あの効果は実に面倒だなと内心舌打ちした。…だが。
「俺は『レスキューラビット』の効果発動。このモンスターをフィールド上から除外する事で、同名のモンスター二体をデッキから特殊召喚できる。俺が選ぶのは『ジェムナイト・ガネット』2体!」
デッキから引き抜かれたガネット二体を特殊召喚する。
同時に特殊召喚された二体のガネットは、クラッキング・ドラゴンの効果の対象にならない。
そして、俺はとにかく鉄壁の布陣を一刻も早く完成させなければならない。
その為に俺は。
「――――現れろ!未来を示す道しるべ!!」
手を天に伸ばす。指先から放たれた光が空に光を描き、巨大なアローヘッドを構築した。
「アローヘッド確認!召喚条件はトークン以外の通常モンスター一体。俺は『ジェムナイト・ガネット』をリンクマーカーにセット!サーキットコンバイン!現れろ、『星杯竜イムドゥーク』!―――バトル!クラッキング・ドラゴンをイムドゥークで攻撃!」
「血迷ったか!クラッキング・ドラゴンの攻撃力は3000!貴様のモンスターはたったの800…!」
「知ってるさ、イムドゥークの効果発動!このモンスターは自分のリンク先の相手モンスターとの戦闘でのダメージステップ時、相手のモンスターを破壊する!イムドゥークのリンク先はお前だ、クラッキング・ドラゴン!!」
「なんだと…!」
イムドゥークの効果でクラッキング・ドラゴンが破壊される。
相手のライフは減らないが、相手の手数はこれで封じた。
「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド」
相手も派手な破壊をされれば次は持ち直しで再び下積みから始めるだろう。
だがあの伏せカードが気がかりだった。あのカードを一度も使用しなかった。
嫌な予感が過ぎるまま、相手のターンを迎える。
相手は――――笑っている。
「私のターン!スキル発動、『ダブルドロー』!!…フフ、私は手札から魔法カード、『ブラックホール』を発動!自分相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」
「!なっ…!」
相手フィールド上にモンスターはなく、実質こちらだけのモンスター破壊。
ガネットとイムドゥークが破壊され、俺のモンスターゾーンはがら空きになる。
いやそれよりアイツ、スキルといったか?なんだそれは?ダブルドローだと?
「っイムドゥークの効果発動!このモンスターがフィールドから墓地に送られた場合、手札から星杯と名の付くモンスターを手札から特殊召喚できる。俺は手札から星杯の妖精リースを特殊召喚する!その瞬間リースの効果により俺はデッキから星杯と名の付くモンスター一体を手札に加える」
「フッ、幾つ雑魚を並べても無駄だ!私は速攻魔法『死者蘇生』を発動!」
「!!」
「再び我が前に現れよ!!クラッキング・ドラゴン!!」
死者蘇生により、墓地から再びクラッキングドラゴンが降臨する。
攻撃力3000。今墓地から如何なる方法でイムドゥークを復活させたとして、復活した時点でイムドゥークはメインモンスターゾーンに配置されてしまい、リンクマーカーはクラッキング・ドラゴンを指さない為効果により破壊が出来ない。
クラッキングドラゴンが指すモンスターは当然リース。だがリースは『天空の聖域』の効果によって破壊されてもこちらのダメージはゼロだ。
だが、奴はこちらの思考をまるで読んだかのように薄気味悪く、にたりと笑った。
「私は速攻魔法、『サイクロン』を発動!貴様のフィールド魔法『天空の聖域』を破壊する!」
「!!」
「往け、クラッキング・ドラゴン。星杯の妖精リースを攻撃!」
「チィ…ッ!罠発動、『ダメージ・ダイエット』!このターン、俺が受けるダメージは半分になる…!」
召喚されたばかりのリースが破壊される。
ライフは2800から1350に激減した。この罠がなければ即死だった。
「フン、凌いだか。私はカードを二枚伏せ、ターンエンド」
(…どうする。俺はあの攻撃力をどうすれば突破できる?考えろ、必ず手はある筈だ)
思考している最中、ふと流れの異なる風を感じた。
そういえば周りをほとんど見ていなかったと辺りを見渡せば、手前でデータストームの突風が竜巻を起こしていた。
「なっ……なんだあれ…!」
風を躱せばアレは避けられる。だがあそこには確かPlaymaker達がいたはずだ。
彼らは無事なのか。酷く不安になるが、俺はこっちに集中しなければならない。
キッ、とハノイの騎士を見据える。
「俺のターン、ドロー!この瞬間、墓地の星杯の妖精リースの効果発動!手札の『星杯に選ばれし者』を墓地に送り、俺は墓地から星杯の妖精リースを手札に加える。そして俺は手札から星杯の妖精リースと『星杯に誘われし者』、『創造の代行者ヴィーナス』を召喚!召喚されたリースの効果で俺はデッキから星杯と名の付くモンスター一体を手札に加える!」
手札の星杯モンスターを見つめる。
そしてフィールド上のモンスターを確認すると、再び手を掲げた。
「現れろ、未来を示す道しるべ!召喚条件は星杯モンスター二体!俺は星杯の妖精リースと星杯に誘われし者をリンクマーカーにセット!リンク召喚!現れろ、『星杯剣士アウラム』!!」
「サイバース族だと…!?」
「そして魔法カード、『星遺物を継ぐもの』を発動!自分の墓地に存在するモンスター一体を選び、そのモンスターをフィールドのリンクモンスターのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚する!俺が選ぶモンスターは星杯の妖精リース!更に俺はヴィーナスの効果発動!LPを500支払い、『神聖なる球体』をフィールド上に特殊召喚する!」
ライフが支払われた事で俺のLPは1350から850に減った。
後一撃、クラッキング・ドラゴンに攻撃を受ければ俺の敗北は確定する。
だが、どうする?俺のデッキには、あいつを破壊できる術があるのか?
「……俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド……ッ!!?」
その時、がくん、と足場が揺れた。
はっとなって周囲を見れば、データストームの竜巻がすぐ近くまで迫っていた。
このコースならば、まだ避けられるかもしれない。しかしハノイの騎士はこちらを待ってはくれない。
「ハハハ、私のターン、ドロー!往くがいい、クラッキング・ドラゴン!奴のモンスターを亡き者にするがいい!星杯の妖精リースを攻撃!」
「っ、く、速攻魔法発動!!『コマンド・サイレンサー』!」
「チッ…!…ターンエンド。だが、おまえが此処までのようだな」
コマンド・サイレンサーを指示するその一瞬で注意が逸れ、俺の身体がデータストームに飲みこまれていく。
身体がボードから引き剥がされ、風の厚い壁に身体が叩きつけられる。
「貴様はデータストームに飲みこまれて終わりだ。中々粘ったようだが…」
「ッ、うわ、…!!くそ、ふざけるな…!!」
***
「…!pixy!?」
「ハハハハ!!貴様のお仲間がデータストームに飲まれたか?だが貴様もここまでだ、Playmaker!」
別方面でデュエル中だったPlaymakerも一瞬注意が逸れた隙に脇からやって来た別のデータストームに飲みこまれる。
飲みこまれるその瞬間、脳裏に浮かんだのは。
(遊作。兄ちゃんは負けない。絶対に負けない。今度こそ、遊作を守ってあげるからね)
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