リボルバーに連れてこられたのは、上質なホテルの一室のようなレイアウトをしたワンルームだった。
スイートかと思う程に広々とした部屋の割に極めてインテリアの数は少なく、壁の一面がギッシリと本の詰まった本棚でなければ、殺風景だという印象すら抱いていただろう。
座標は極めて巧妙に隠されていて、場所が特定できない。ここはリボルバーのセーフハウスといったところだろうか。
リボルバーは果たして使用しているのかさっぱりわからない、キングサイズのベッドに腰かけて何やらパネルの操作をし始めた。

こちらもどこか適当な所を陣取ろうかと足を一歩出した矢先、突如踏み出した足の力が抜け、座り込んでしまった。

「う、…」
「!…思ったよりウイルスの回りが早いな」
「実害は、そうないみたいだが……は、アバターの四肢のプログラムが機能不全を起こしている、みたい…」
「ざっと見た所現在で回っている違法プログラムの幾つかを掛け合わせてアップグレードした粗悪品だな。アカウントを保護しているプログラムとの相性が極めて悪いからこうなっているんだろう。電脳ドラッグも多分に含まれているようだ」
「はは、道理で……」

全く馴染みのないプログラムだと思ったら、電脳ドラッグだったのか。
道理で頭がふわふわすると思った。四肢の末端が痺れ、軽い刺激でびりりと軽い電流が走る感覚がする。
恐らくアカウントとアバターを保護しているプログラムと違法プログラムの互換性が悪い事による保護機能が働いている事の副作用だろう。
よくできたプロテクトだが、なるほどこういう風に裏目に出るのか。

「失礼する」
「…?、うぁ、!?」

リボルバーは一言断りを入れて、力の入らない身体を抱き上げた。
何が起こったのか、一瞬で切り替わった視界に頭が追い付く前に身体をベッドに降ろされる。
動かない四肢では碌に動き回る事も出来ないだろう。足が動かないのは慣れっこだが、腕も動かないとあってはどうしようもない。

「借りて来た猫のようだな」
「ひっかく事も出来ないからな、唸って見せようか?」
「それでもいい、かえって可愛げがある」

どうやってもこの男を楽しませるだけか、と今の状況をちょっと憂う。
そも、こうして敵意なくこの男と相対している事があまりにも異質だった。少し落ち着かない。
いつだってこの男と相対する時は敵同士で、カードの剣を抜かずにはいられない時だった。
それが今、お互いデュエルディスクを構える事無く、片やベッドに四肢を投げ出して寝そべり、片や黙々とパネルを弄っている。
何なんだろうな、この状況。面白おかしくさえ思えてくる。
感慨無くキングベッドの天蓋を眺めていると、視界ににゅっとリボルバーが入って来た。どうやら覗き込んでいるらしい。

「終わったのか」
「ああ、回復プログラムとウイルスワクチンの作成を命じた。やや時間はかかるがな」
「で、何してるんだ」
「こうして敵意無くここまで至近距離でいる事などなかったからな。弱っているお前などそう見れるものじゃない」

そりゃあ、電子ドラッグにやられてこちらは成す術もないんだ。
リボルバーはくつりと笑って、とあるプログラムをパネルに打ち込む。
すると、リボルバーの身体とこの身体を先程パネルに打ち込んだプログラムが不思議なアルゴリズムが書き換えて行く。
アバターであるはずのこの身体が突然生身の肉体のような重みを伴った事を訝し気に思いつつ、何をした、とリボルバーを睨んだ。

「やはりこちらの方面に関しては無知か」
「何をした、リボルバー。…アバターに細工をしたな」
「最近興味深い拾いものをしてな。非合法で出回っている電脳体への侵入、侵蝕、直接的干渉を行えるプログラムを使わせてもらった。まあ、元は医療用だったらしいが…」
「つまり?」
「有り体に言えば、バーチャルセックスプログラムだ」
「……は?」

いや、存在を知らなかったわけではない。
電脳世界と言えどその娯楽は極めて豊富であり、飽和した娯楽をもっと極めたがる頭の逝かれた奴らがそういうのを作ってはばらまいてSOLテクノロジーに追い掛け回されるなどよくある話だ。
だがそれを今自分とリボルバーのアバターに使用されたというのが、頭が追い付かないのだ。

「お前の身体を侵すその電脳ドラッグは元々バーチャルセックス用に組まれたプログラムだ。それに、そのウイルスは遅効性だ。今はまだマシだろうが、回復プログラムが出来上がる頃にはどうなっているか保証は出来んぞ」
「、面倒なものを…!あいつら…」
「終わる頃にはワクチンも完成しているだろう。それまで多少楽にしてやることはできる」

薄い腹を指先で撫でられる。
ドラッグとプログラムの所為で明確な指の腹の肉を感じ、意思に反して身体が跳ねる。

「は、…っ」
「流石のお前でも電脳ドラッグを使用されれば乱れるか?LulzSec」
「、理解したくも、ないね…!」
「単なる興味だ」
「、やっぱりお前、あいつらの親玉だな…」

するり、と指が薄い腹の上で動いて、動いた先からはらはらとデータで出来たスーツが解けていく。
セックスプログラムだなんて奇特なものを作った者は随分と凝り性なようで、リボルバーの指がゆっくりと身体を撫でる度に身体が汗ばんでいく感覚さえした。
最悪だ。何が嬉しくて敵の親玉と、しかも男同士でセックスしなければならないんだ。
頭が痺れて意識がおぼつかない中で、太腿に感じたちくりとした刺激が意識を引き戻す。

「んっ…!」

いつの間にかバイザーを外していたリボルバーが足の間に身体を割り込ませ、足を持ち上げて太腿に噛みついていた。
薄く白い太腿に赤みが差し、うすらと歯型が浮かび上がる。

「安心しろ、悦くしてやる」

にぃ、と笑うその面を蹴っ飛ばしてやりたかったが、現実世界でも使い物にならない足はこの電脳世界でも沈黙を貫いていた。


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