「お前が涙を流すところを、っ、こんな場面で見るとはな…!」
「ぅ、るさ…!ぁあッ!」
苦しいのと熱いのと気持ちいいのでごちゃ混ぜになり、キャパオーバーした身体が悲鳴を上げている。
いっそ痛くしてくれたら、乱暴にしてくれたら耐えられるのに、リボルバーは徹底的に痛みを与えなかった。
何度も絶頂させられて、腹に飛び散った精液は少し薄くなっている。
もうどれくらい時間が経っただろう。広い窓からは西日が差し込んでいる。現実世界とリンクしたLINKVRAINSの空はすっかり焼け落ち始めていた。
ふとリボルバーは、耐えるように固く閉じられていた彼の瞳を垣間見る。
その色が先程までの蛋白石ではなく、浮かび上がるようなマゼンダをしていた。
ああ、いつものお前に戻ったのかと。別人ではないもう一人の彼の涙で濡れた目元に軽くキスをして、涙をなめとった。
そうして腰の動きを大きくすると、最初よりずっと悦が強くなった声が再び抑えようと呻き声を上げ始める。
ああ、またそうやって唇を噛む。咎めるように舌で唇を割り開き、上あごをなぞった。
「ふぁ…っ、やめ、ン…、む、」
「ン、ん……は、声を抑えるな、息が詰まるだろう」
「ぅ…!っ、なんで、ぁっ、キス…!やめろ、って…!」
「キス?」
思わず鸚鵡返しに呟いてしまった。あまりにも可愛らしい事を嫌がるものだ。
まあ、男にされたら普通は嫌がるものかと思い返す。そんな事を考えればこうしてセックスしているのだから随分と今更だが。
飲み切れなかった唾液を口から零しながら、息も絶え絶えにそれでも彼は言う。
「ぁ、…好きな、人に……してやる、もんだろ、…」
「…、」
「大事にしろよ、…そういう、のは。…間違っても、敵なんか、に、っ、するもんじゃ…ない」
いるかもしれない、いつか出来るかもしれない大切な人の為に、そういうのは大事にとっておけと。
いつか打倒せねばならない敵に、自らの夢と記憶を奪った憎き敵の親玉に強姦され、凌辱されながらも、彼はそう言うのだ。
そこに含まれた圧倒的な矛盾に、思わず呆気にとられた。今自分は腑抜けた顔をしていないかという事さえも吹っ飛びそうになった。
「…なんで、優しくするんだ。…俺は敵だろ。お前が殺さなくちゃいけない、敵だろ。……いっそ痛くしてくれ。乱暴に、物を捨てるみたいに扱え。……わけがわからなく、なる」
LulzSecは、其れを敢えて呑み込んだ。Laughingpixyのプライドと暴力の象徴である彼は、理解できない其れを敢えて何も言わなかった。
だが、優しくされる事にもう耐えられそうになかった。
自分の中に嫌悪感すらないのが既に頭がおかしくなりそうなのに、リボルバーがまるで恋人を抱くようなセックスをしてくるものだから、もう何に縋ればいいのかもわからないのだ。
抑えていたのだろう、生理的なものとは違う涙がマゼンダを濡らした。
優しくするな、この涙を拭ってくれるなと、Laughingpixyは顔を背けた。
「……それは出来ない相談だ」
だがリボルバーの返事は予想とは明確に異なっていた。
何故?背けていた顔をリボルバーへ向けると、彼の顔は随分と薄暗くなった西日に照らされて、どこか寂しくなるような表情を湛えていた。
―――どうしてお前がそんな顔をする。Laughingpixyは叫び出しそうになった。
リボルバーはやはりLaughingpixyの涙を拭ってみせた。
「Laughingpixy。…お前が私達に、私に復讐を望むように…私も成し遂げなければならないものがある。……私は、お前を『殺さなければならない』」
それは今を生きる意味でもあった。それは生きている限り為さなければならないタスクである。
それに縋らなければ生きて行けないのだ。
リボルバーは、Laughingpixyを殺す事をタスクとしているのだ。
「『お前』が言っている事は正しい。―――全ては勝って得るか負けて奪われるかのどちらかだ。だが私は、…勝って得るか負けて死ぬかの瀬戸際に立って、もう何処にも行けないでいる」
「リボルバー、」
「お前もそうだ。私から奪え、私もお前を奪う。奪わなければならない。……奪わなければならない」
(―――――ああ、リボルバー。…これは、お前の夢なのか)
望みだなんて確固たるものじゃない。これは、均衡が崩れればたちまち消えてしまう儚い夢だ。
タスクに雁字搦めにされていた、リボルバーという『敵』ではなく、『個人』の夢なのだ。
今こうして睦み合っている間だけ、互いは使命に突き動かされるのではなく思いのままに行動ができる。
硬い外殻に守られていたリボルバーという男の内側を、見た。見てしまった。暴いてしまった。
(……くそ。やっぱり、言うんじゃなかった)
自分のした事への後悔はある。
だが、今からする事は彼への詫びのつもりだった。
「リボルバー。……腕を開放してくれ」
「暴れるだろう」
「もう暴れない」
言い切ると、リボルバーは断じていた割にはあっさりと拘束を解いた。
ドラッグが大分効いて痺れる腕を無理やり動かし、Laughingpixyはリボルバーの頭を抱き寄せた。
ああ、やった。やってしまった。あとで絶対後悔するはずだ。だがやらなくても後味が悪い。瀬戸際に立って何処にも行けないのはこっちだって同じだった。
「Laughingpixy、何を」
「……言わなきゃよかったよ、やっぱり」
「…」
「そしたら、きっと俺は、お前の事をずっと蟠りなく憎めたんだ」
嫌いだと言う事は出来るのに、もう真っ直ぐ憎む事も出来ないなんて不毛過ぎる。
何度も戦ったくせに、こんなに痛かった事なんてなかった。
リボルバーはゆっくりと身を起こして、泣きそうな表情のLaughingpixyにキスをした。
深くもない、啄むような其れを拒む事も諫める事も出来やしなかった。このキスの意味なんて、深く考えたらそれこそもうどうしようもなくなって泣いてしまいそうだったから。
「動くぞ」
返事を待たずにリボルバーは行為を再開する。
すぐに熱は呼び戻されて、Laughingpixyは散々啼かされた。
だがもうやめろとも嫌だとも言えなくて、その代わりに汗ばむリボルバーの身体に只管縋った。
互いに何度もキスをして、何度も絶頂した。
その度に膨れ上がる感情のようなものが身を引き裂く程の痛みを訴えるのに、Laughingpixyはもう「優しくするな」などとは言えなかった。
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