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意識が浮上する。
何度か意識が浮上する事はあったが、その度に何度も気を失うように眠りに落ちていた。
傷が酷いのもある。
死なれては困ると応急処置を施されてはいたし、高熱を出している零仔をあのサングラスのオネエが世話していたのもぼんやりと覚えている。

治療する時に邪魔だったのと、脳無との戦闘でほぼ衣服が機能していなかったのもあるからか、小さな毛布を与えられてはいたが衣服を身にまとってはいなかった。
拘束具は個性上無意味であるからか拘束はされいない。傷が酷いものの、個性を使用でもして脱走されれば困るから、衣服は与えなかったのだろう。
それに、胸の大きな傷を満足に隠せないまま外に出られないというのを奴らは知っている。
零仔は逃げられない。

(…爆豪くんは…)

見渡してみたが、爆豪の姿は見当たらない。
そもそもこの部屋には誰もいない。
家具らしきものもほとんどなく、ただの空き部屋のようで、そこに自分は隔離されているようだった。

(あれから、何日経ったんだろう…)

気がついては気を失ってを繰り返していたからか、日付の感覚が一切なかった。
腹も減っていないが、自分の空腹度合いなど体内時計が狂っている今信用できない。

起き上がろうにも全身の痛みとだるさで身動きが取れそうにもなかった。
この熱は怪我の所為だろう。

(…みんな、無事かしら……)


「ああ、お目覚めか」

キィ、と古い扉が開く音がして、耳に直にブーツが床を叩く音が響いた。
重い動作で目を向ける。
無造作な黒髪、焼け爛れ変色した皮膚を全身で継いだ、継ぎ接ぎの不気味な身体をした男だった。
合宿所にいた開闢行動隊の一人だろうか。
男は転がっている零仔の傍に腰掛けた。

「まだ熱が高いな」
「………、爆豪くんはどこ」
「彼?彼は別室だ。心配せずとも無傷だ」

基本奴らの言う事は5割がた嘘だと思って聞いている。
爆豪に傷をつけてはなくても、拘束はしているだろう。彼を放置するメリットこそない。

「……私に何の用。服でも持ってきてくれたのかしら」
「いや?話をしに。爆豪は会話するにはちと技術が要りそうだからな」

服をくれという暗に要望を言ったのだが明確に無視された。

「俺は荼毘。お前の事はよぉく知っている、栂野零仔。いや、楡金零仔と呼んだ方がいいか?」
「…!?」
「栂野は今のお前の父親の方の苗字だろう?ああ…でもあんな父親の苗字でなんか呼ばれたくねえか」

死柄木の言っていた『周辺、過去、全てを理解している』というのは、本当のようだ。
警察の情報が漏れていた?それとも盗み出したのか?
知りようもないが、だとしたら。一気に体の芯が冷えた気がする。

「……そんな事、今更何。…弱みでも握ってるつもり」
「いいや、まずその認識を改めてくれよ。…俺達とお前は対等だ。俺達はお前の敵じゃあない」
「嘘。皆を傷つけておいて、どの口が言うのよ」
「あいつらはお前の仲間なのか?」
「仲間に決まって、」
「お前がした事を知っても?」

心臓が跳ね上がる。
表情が凍り付いたのを見て荼毘がにぃ、と笑った。
だめだ、勢いに乗らせてはいけない。そう思うのに心臓が痛い程に跳ねて、声が出ない。

「あいつらはヒーローだ。でも、お前がした事を聞いたらあいつらはどう思う?ヒーローを志していた仲間が実はその個性で両親を殺しただなんて聞いたら、…どう思うだろうな?」
「…、…それ、は…」
「生まれた瞬間に母親を殺して、5歳の頃には父親を手に掛けた。どっちも不可抗力だよ、でもやった事には変わりない」
「…父は自殺よ」
「………ああ、そうか。お前の中では『そう言う事になってる』んだったな?」

荼毘の意味深な発言に、耳を疑った。
『そう言う事になってる』とは、まるで真実は別であると言っているようなものだ。
酷い頭痛がした。記憶を掘り起こそうとするときにいつもする頭痛だ。

「……自殺、だって……」
「お前は記憶を操作されてる。父親が死んだその瞬間の記憶だけが現在無い。『父親はお前の目の前で首を吊って死んだ』だったか?お前の情報は」

(やめろ)

心臓が嫌に早鐘を打つ。
頭が割れるように痛い。すぐにでもその場でのた打ち回りたいほどに。
聞きたくない。その先を、聞きたくない。

「、いや…」
「わざわざ消した記憶の詳細を教える馬鹿はいないさ。お前の父親はお前の目の前で首を吊った?じゃあなんでお前はそんなに自分の個性に、『まるで人を殺したことを覚えている』ように怯えている?」
「うそ、いや、いわないで、ききたくない」

此の男の言葉を聞いては駄目だ。
この男の声を聞いては駄目だ。
重い身体を引き摺って後退る。身体の傷なんて関係ない。
此の男から離れないと、と本能が警告を発していた。
離れようとする零仔の身体を荼毘が引き倒した。
タオルケットが取れる。荼毘に上半身を全て晒す姿になって、血の気が引いた。恐怖のあまりに喉が引きつって声が出てこない。
荼毘は静かにその身体の中心に刻み込まれた傷に触れた。

「縄如きであんな立派な破裂死体ができるかよ。だが医者がお前の記憶を封じんのも納得できるくらいに残虐だったな」

(やめろ、言うな)

言うな。頼む。それ以上聞きたくない。
頭が割れる、心臓が潰れる。
恐怖で、心が死んでしまいそうだ。
それらをすべて見透かしているように、荼毘は笑った。
そして、あまりに不釣り合いなくらいに優しい声で告げた。


「お前が殺したんだ、零仔。その個性を使って、お前の母親と全く同じやり方で、お前は父親をも手に掛けた」



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