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頭の中で何かが割れる音がした気がした。
頭痛が消えて、涙が流れる。

鮮明に、今でも思い出せる。

茹だった父の身体、身体にかかった熱された血。
噎せ返るような、血の匂い。


「っっ、ぁ、あぁああ、ぁぁああああああ……!!!!」

泣き叫ぶ零仔に荼毘が満ち足りたような表情を浮かべた。
それがどこか憐みをも感じさせたが、零仔にはもう何もわからなかった。

「辛かったよなあ。痛かったよなあ。…生まれなければよかったなんて、勝手に産んどいて何様だって話だよ」
「うぅう、っ、あ、ぁあ、」
「親族はあんだけ責め立てといて、お前に与えられたのは中途半端な赦しだけ。生殺しっつうんだよそういうのは。いっそ徹底的に糾弾して否定して裁いてくれれば、こんなに苦しい思いしなくても済んだのになあ」

壊れた心に荼毘の言葉が入り込んでくる。
心の奥にずっと仕舞い込んで吐き出せなかったそれを口に出されて、荼毘に身体を縫い留められていなければ自分で自分の首を絞めていたところだ。

「一体そんな哀れなお前を誰が裁く?誰もお前を理解しちゃくれない。与えられんのは中途半端な赦しと裁きだけだ。………そんなの、もう馬鹿馬鹿しくなっちまうよなぁ」

それはまるで、悪魔の囁きのようだ。

「俺達ならお前を理解してやれる。受け入れてやれる。ここはそんな奴らばかりだよ、零仔。外の世界は、誰もお前に優しくないんだ」
「ぅ、ぁ、……あ、いや、いや…っ」

泣きじゃくる零仔に一度荼毘は言葉を切った。
もう零仔は冷静に言葉を聞ける状態ではない。荼毘が思っていたよりも彼女の傷というものはどうやら深かったらしい。

「…なんか、こうしてると俺がお前を強姦してるみてえな絵面だなァ…悪くはないが、まだ早いな」

荼毘はそう言って、傍に置いてあった零仔の水分補給用のペットボトルの蓋を開けた。
中の水をあおると自分のポケットの中から薬を一錠取り出し、口に含んだ。
零仔の頭を片手で固定すると、そのまま口を合わせて水と一緒に薬を流し込む。零仔の喉が動いたのを確認すると、口を離した。

零仔の目蓋がとろりと下がり始める。
即効性の睡眠薬だ。まだ熱が高いし、精神的にあまりに不安定になった。余計な体力を消耗させて衰弱させるわけにもいかない。
だが、堕ちるのは時間の問題だ。
ゆっくりと眠りに落ちていく零仔の涙に濡れた頬に触れる。

半狂乱だった先程よりは呼吸も安定し、顔色もこれからゆっくりと落ち着いていくだろう。
容赦なく心の奥に踏み込んで、暴いた。
立ち直れるかどうかは微妙な所だが、堕ちてくるならこれ以上ない最高の逸材になるだろう。


「はやくおいで、零仔」




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