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―――――――痛い。
―――――――痛い。
ここはどこだ。ここはなんだ。
痛い。胸が痛い、腕が痛い、足が痛い。
息をするだけで全身の内側から針が突き出るかのような鋭い痛みだ。
喉に冷たい何かが覆い被さり、ぎりぎりと喉を絞め上げていく。
『おまえさえ、いなければ』
『おまえさえうまれなければ』
『おまえさえ―――――!』
(いやだ)
嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!
ここにいたくない。ここで死にたくない。
ごめんなさいお父さん許してもう泣かないからもう暴れないから我がままなんて言わないから視界に映らないから許して、私は、私は私は
ふと、痛みが消えた。
喉の冷たい苦しみも嘘のように、名残の一片も残さず消えた。
『目を開けろ。前を見ろ。もう怖いものはどこにもないぞ』
優しい声がする。
私はこの声を、知っている気がする。
誰の声だったっけ。誰だ。顔を上げた。
ぼんやりしていて見えないけれど、その誰かが手を差し伸べている。
『もう大丈夫だ』
―――――誰、
『俺がいる』
***
意識が浮上する。
長い、長い夢を見ていた気がした。何の夢だったか覚えてはいないけれど。
瞼を開けば白い天井が見えた。鼻を突く消毒液の匂い。―――病院?
耳元で規則正しい機械音が聴こえる。心電図だろうか。
(……たすけてもらったの?)
記憶が曖昧だ。
夢現の中破壊音とか、誰かの声とか、誰かの鳴き声とかが聴こえた気がしていた。
あの泣いていた誰かは、一体誰だった?
声を殺して傷だらけで泣いていた。
誰も助けてくれなかったのだと、傷だらけの足を抱えて蹲っていた。
だから思わず、手を差し伸べていたのは覚えている。それ以降の記憶が全くない。
「っつ………」
怪我は治っているようだが、全身の気怠さがすごかった。
一体どれだけ意識がなかったのだろう。首を動かすも日付を確認できるものはなさそうだった。
(これは…ちょっと、困ったな…)
カララ、とドアが開く音がした。
誰か来たのだろうか、病院の先生だろうかと首を少し動かして視線をやる。
だがその視線がドアへ向く前に何かが落ちる音がして、その後急いで駆け寄ってくる足音がして。
「零仔…っ!!」
ああ、この声は。
視界いっぱいに、祖母の顔があった。
いっぱいに見開かれた目にじわじわと涙が溜まっていくのを見るより先に、きつく抱きしめられた。
肩が冷たく湿っていく。
「ああ零仔、零仔…!!目が醒めたの、おばあちゃんのことが分かる!?」
「おばあ、ちゃ、」
けほ、と咳込む。
喉が酷く、乾いていた。でもそれ以上に、
「おばあちゃ、」
「なに…?」
「あいたかった、」
それしか言えなくて、それでも必死に伝えたそれに祖母は一層涙を溢れさせた。
「おばあちゃんもよ、零仔…!!ああよかった、よかった…!!」
「ごめんなさい…ごめんなさい、わたし、…」
「あなたは悪くないわ、頑張ったものね…!クラスのみんなを守ったんだものね…!」
ただ泣いて抱きしめて、許してくれた。
帰ってきてくれたのだから、目を醒ましてくれたのだからいいと言ってくれた。
こんな優しい人に本当に恐ろしい思いをさせたのだ。
「娘を失うかと思った…!!」
ああ、そうだ。
あの時、攫われる直前に零仔は死柄木に「もう殺して」と言ったのだ。
祖母の気持ちを蔑ろにした。最低だ。
こんなに想ってくれる人がずっと傍にいたのに。
「おばあちゃん、ごめんなさい…!!」
(ごめんなさい、お父さん)
私は、もう、貴方の為に死ねないの。
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