5
零仔の意識が戻ってから、警察が話を聞きに来た。
何をされたのか、何があったのかなどを根掘り葉掘り聞かれたが、意外に冷静に零仔は答えることができた。
一日は警察に拘束されて事情聴取をし、二日目は憶田が来た。
「…すまなかった」
頭を下げられる。
その理由が分からなくて狼狽えていると、彼は静かに頭を上げた。
「…君の記憶を、消した事が……君の為に、なると思った。…却って君を追い詰める結果となってしまった」
「……先生、…いえ、先生には、感謝しているんです」
身体と心が鉛のように重いけれど、それでも伝えなければいけないことは山ほどあった。
この人が自分の為にどれだけ心を砕いてくれていたか、知らない振りなどできるはずもない。
「先生は私の事をたくさん聞いて、知って、一緒に背負ってくれました。…寧ろ私が謝らなければならない。…先生が頭を下げる必要なんかありません」
「君は僕の患者だ。君が責を感じる必要はない。…君は間違いなく、被害者なのだから」
彼は優しい。一人の患者にここまで心を砕いてくれる。
それにずっと安堵していたのも事実だった。
「……もうすぐ、君の面会謝絶が解除される。そうしたら、クラスメイトの子達がたくさん来るだろう」
「…!………」
それを聞いて身体が強張った。
来る?皆が?今更、どの面を下げて皆に会えば?
両親を殺した人間が、ヒーローを志す者達に、一体どんな顔をすればいい?
「…せんせい、」
「…どうしたんだい」
「私、……もう、雄英に、いられない」
「…!」
「わたし、……もう、皆に、どの面下げて会えばいいのか、わからない」
彼が息を呑んだ音がした。
どんな顔をしていたのか、零仔はぎゅっと目をつぶっていたからわからなかったけれど。
「……A組の子達は、もう、君の事を知っているよ」
憶田の静かな言葉に、心臓の音も、呼吸の音も一瞬聞こえなくなった気がした。
「……え?」
「この間、全てを彼らに話した。その上で彼らは君に会いたいと言っているんだよ」
全てを話した、と、彼は言ったのだろうか。
零仔の事も家族の事も、何もかもを。
心臓が凍り付いたような錯覚に陥った。全身が冷え切っていく。眩暈すらするほど気が動転しているのに、どこか冷静な自分がいた。
それが諦めだと、零仔は分かっていた。
そんな零仔を呼び戻すように憶田が呼びかける。
「よく聞いて、零仔ちゃん」
「…、………」
「彼らは全てを知った。その上で誰一人として君を疎まなかった。君に会って話がしたいと言った。もう一度買い物に行ったりお喋りしたいと泣いていた女の子もいた。大切な友人だと言っていた。皆君に帰ってきて欲しいと言っているんだ」
「でも、せんせい、わたし、……人殺し、なのに、」
「『君という友人一人救えないで、ヒーローになんかなれるか』と。皆がそう言ったんだよ」
「……!!」
皆が。
誰一人例外なく、零仔を受け入れた。
胸が張り裂けそうだった。
本当に。本当に、もしそうならという希望と、即座にそれを切り捨てようとする自分がいる。
期待なんて、するだけ無駄だと。
「………」
「…零仔ちゃん。あんな素敵な友人達は、世界中どこ探しても絶対にいない。…自分から、手放していいのかい?誰もそれを望んでいないのに」
「………それでも、…わたし、」
あんなあたたかい所に、血生臭い自分が、いていいはずがない。
憶田は目を細めて、椅子から立ち上がった。
「……そしてね。君を誰よりも案じている子がいる。君を何よりも大切に想っている子がいる」
「…え?」
「もう入ってきていいよ」
その言葉は、零仔に向けたものではない。
そして、それを合図とするように扉が開いた。
「………ぁ……」
『彼』は静かにそこにいた。
ただ、その表情は今にも爆発しそうな感情を抑え込むような苦しげなそれで。
憶田は微笑んで、彼に全てを託すように歩み寄り、肩を叩き、病室を出ていく。
「彼女を頼むよ、轟焦凍くん」
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