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吐き捨てるように、吐き出すように。懇願するようにも聞こえるそれで、確かに轟を突き放した。
触れたら傷つけるだろう。これからもずっと。
自分はそういう女なのだから。

(もう、終わりだ)

縋るのも甘えるのも。
彼を自由にしたかった。彼の歩みを止めたくはなかった。
どうか嫌って。どうか離れて行って。
この胸の痛みなんて、頑張って無視するから。歩み寄ろうとしてくれていたその事実だけで、きっとまた立ち上がれるから。

だからどうか、


「…っ、逃げんのも大概にしろ!!」
「っ!」

轟が激昂した。
振り払ったはずの手でもう一度、今度は零仔の両手を掴む。
痛いくらいにきつく。もう振り解けないように。

「いつお前が俺を傷つけた!?いつお前が俺を不幸にした!?俺はお前に傷つけられた事なんて一度もねえぞ!」
「っ、嫌、放して!いや、」
「俺の目を見ろ!目を逸らすな!!」

空いた方の手で零仔の顔を向けさせた。
そのあまりの気迫に、息が止まる。
轟は本気だ。怒っているのだ。自分を大事にしようとしない、大事な少女へ。

「人殺してるから何だ!?お前が望んでやった事か!?お前がやろうとしてやった事か!?違うだろ、あれはお前が望んでやった事じゃなくお前の『親父が』望んでやらせた事だろ!!加害者面して事実を蔑ろにしてんのはお前だ!!」
「でも、……おかあさんは、わたしが、」
「赤ん坊のお前が何をできた!?それがお前が生きちゃいけねえ理由になんのか!?違うだろ…!」

―――――誰もが、理解はしているのだ。
赤ん坊に何ができる?個性の制御なんて出来るはずもなく。
出産時の個性事故など、誰もがリスクを承知の上だ。そんなこと誰もが分かっている。
だから、例え零仔の個性で母親が死んでも彼女を責める理由にするには不十分すぎる。
…それでも、事実上母親の死の原因は零仔なのだ。だから、やり場のない怒りも悲しみも零仔に全て向かったのだ。
八つ当たりにも等しいものだと誰もが分かって、誰もがそれに逃げていただけの事だった。
幼い彼女が逃げる術など、無いと分かっていたうえで。逃げられるはずもないから都合がよかった。
彼女が苦しもうと悲しもうと悔いようと、自分の苦しみが少しでもマシになるのだから。

「お前がそれでも自分を人殺しだって言おうが、俺は確かにお前に救われて守られてきた!人殺しだろうが知るかよ、お前は俺のヒーローだった!!」
「……!!」
「お前が俺に言ったんだろ、『傷つけたくないって思ってる人間が誰かを傷つけるはずがない』って…!俺はお前に傷一つ付けられちゃいねえぞ!!俺から逃げんな!!」

手を掴む力は痛いくらいなはずなのに。
少しも攻撃的なものを感じないのは、彼がその優しさを全力でぶつけてくるから。
その怒り全てが、零仔に差し伸べている腕だからだ。


「お前は!誰も傷つけてない!!」


ありったけの怒りと思いをぶつけられて。
熱を持った目尻から零れたそれは、とめられそうにもなかった。


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