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病院を退院すると、直ぐに荷造りを始めた。
随分長い間入院していたのだとしみじみ思う。
相澤に予め渡されていた部屋割り表をたまに眺めながら荷造りを進めていく。
「焦凍くんとお向かいかぁ…隣は梅雨ちゃんね」
八百万も同じ階だ。推薦枠でまとめられているのだろうか?
そういえば自分推薦だったな…とここ最近のドタバタですっかり忘れていた。
ほぼ一日かけて服や本などを段ボールにせっせせっせと詰めていき、後は小物だけになった。
13号やテディベア群、クッションなどもみんな持っていくつもりだ。
今日一晩は一緒に寝られないな…と少し名残惜しく思いながら愛しいテディ達を段ボールに詰めていき、後はもうないかとあたりを見渡す。
(あ……)
ベッド脇に置いてある、ギャングオルカのジャンボぬいぐるみ。宝物だ。
あれは大きすぎるから、置いて行こうかと一瞬考えた。でも。
(……もう一個、段ボール用意しよう)
やっぱり持っていきたかった。
本気で欲しいと思ったものだったこともある。それに、それ以上に轟が取ってくれたものだから。
…『好きな人』が取ってくれた、零仔の宝物だ。
ぬいぐるみをぎゅぅうと抱きしめる。胸に温かいものが満ちていく。愛おしさだとか嬉しさだとか、形容できない喜びに似たもの。
彼にとっては、特に他意なんてなかったんだろう。ただの親切心だったのだろう。
彼の優しさが為したことだ。でも、例えそうでも、それが零仔にとってどれだけ嬉しい事だったか。
(あの時の気持ちは、今でもはっきり思いだせる。…それくらい、嬉しかったの。……それくらい、好きなの。好きだったの)
想うだけで幸せだ。
きっと、そうだ。そうである筈なのだ。
(好きよ、焦凍くん。大好きよ)
このぬいぐるみと一緒に、この気持ちも宝物にしてしまおう。
綺麗な思い出のまま、大事に仕舞い込んでしまおう。
初恋は叶わないと絶望していたのが随分昔のように思える。彼を想う度高鳴る鼓動が、この間まであんなに怖かったけれど。
今では、この胸の痛みでさえも綺麗なものだと割り切れる。
(私は、これと一生生きてく)
死ぬときに、ああ綺麗な想い出だったと笑えるようになれるなら。
それがきっと、理想の未来なんだろう。
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