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―――――そして。
雄英敷地内。
校舎から徒歩五分の築三日。
A組メンバーは、これから住む事になる新しい家、『ハイツ・アライアンス』前に集まっていた。
「でけー!」
「恵まれし子らのーーー!!」
ぶっちゃけ言って何だこの豪邸は。すげえ。
(でっけえ…)
呆気に取られているのは他の面々も同じようだ。
何というか、寮というより小さなホテルか?と思えてくる。
築三日という超新築なだけあって染み一つない綺麗な壁だ。今日からここが家なのか。
慣れるだろうか。新しい生活。
辺りを見回していると、寮の中から相澤が出て来た。
それに合わせて皆も自然と集合する。軍隊かな?
「とりあえず1-A組。無事にまた集まれて何よりだ」
「みんな許可下りたんだな」
「私は苦戦したよ…」
「フツーそうだよね…」
「二人はガスで直接被害遭ったもんね」
葉隠の所は大分苦戦したようだ。
葉隠と耳郎はガスで昏睡状態だったから、それも踏まえて両親は中々折れなかったのだろう。
耳郎の様子を見ると、耳郎の方は意外とそうでもなかったのかもしれないが。
「無事集まれたのは先生もよ。会見を見た時はいなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
「うん」
会見。零仔と爆豪が攫われている間に雄英が開いたのだという。
相当メディアから批判されていたのだという。
相澤も頭を下げたと聞いた。
「………俺もびっくりさ。まァ…色々あんだろうよ」
「…………」
相澤は合宿時、まだ免許もない彼らに戦闘許可を出した。その責任は決して軽くはないはずだ。
それでも現在こうしてここにいるのは。
(……内通者、か)
USJの件といい合宿の件といい、間違いなくこちらの機密情報が漏れていた。
合宿の件で内通者がいる事はほぼ確定しているのだろう。だからこそ誰も外部に出て行かないように全寮制にした。
全寮制にすれば常に学校内で生徒達の監視ができる。相澤が今もここにいるのは、今は誰も外部に出したくないからだろう。
(…当然私だって、疑いがないわけじゃあないわよね)
敵が何故零仔に執心しているのか。
零仔の情報も漏れていた以上、雄英として零仔の周辺は最も気を付けなければならない部分の一つだ。
「さて…!これから寮について軽く説明するが…その前に一つ」
手を叩く事で皆の注目を集める。
「当面は合宿で取る予定だった『仮免』取得に向けて動いていく」
「そういやあったなそんな話!!」
「色々置きすぎて頭から抜けてたわ…」
「大事な話だ、いいか」
相澤の声があまりによく通っていた。
いつもはけだるげなその中に、真剣な色が見え隠れしていた。
「轟、切島、緑谷、八百万、飯田。この5人はあの晩あの場所へ、爆豪・栂野救出に赴いた」
「……え?」
思わず、声が漏れた。他の誰かの困惑の声もだ。
…救出に来ていた?そういえば、零仔はどう救出されたのかを耳にしていなかった。
まさか。
「…その様子だと、行く素振りは皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。…オールマイトの引退が無けりゃ俺は、爆豪・栂野・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる」
――――そうだ。零仔の意識のない間の話だった。
なんとオールマイトが、引退したのだ。
録画されていた一部始終のものを見た時は、あの筋肉隆々のオールマイトが血を吐きながら徐々に、目に見える速度で衰えていき―――骨と皮だけのような、弱弱しい姿になっていくのを見た。
その上で、衰えて行きながらも強大な敵へ挑み――――勝った。そして、それがオールマイトの最後の戦いになった。
彼は、引退した。…彼にはまだ、会えていない。
「彼の引退によって暫くは混乱が続く…敵連合の出方が分からない今雄英から人を追い出す訳にはいかないんだ」
やはり。全寮制にした理由だろう。
「行った5人は勿論止められなかった12人も、理由はどうあれ俺達の信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい。………以上!さっ!中に入るぞ元気に行こう」
(いやいやいやいやいや無理でしょ)
全く声の抑揚もなしにテンションもそのまま元気よく寮の案内をする為相澤は寮に入っていくが、全員全くそんな雰囲気ではない。
皆の様子を見れば、止めたのだろう。
それでも、あの5人は向かったのだろう。皆に内緒で。
その大本の原因といえば、零仔なのだ。表情は曇った。
そんな中。
「来い」
「え?何やだ」
爆豪が徐に上鳴を近くの茂みまで引き摺って行った。
数秒後、茂みから大量の放電が確認される。
一体何が…?と全員が注目していると。
「(ガサッ)うェ〜〜〜〜い…」
「!!」
茂みからアホになってしまった上鳴が出て来た。
顔が。顔が、まずい。色々と。耐えきれず耳郎が噴き出した。
上鳴をあんなにしておきながら捨て置き次に爆豪は切島の所に。カツアゲか?
「切島」
「んあ?」
間抜けな声を出した切島に爆豪がメンチ切りながら手を出す。
その手に握られているのはなんと5人の諭吉様だ。
カツアゲか??
「え 怖っ何カツアゲ!!?」
「違ぇ俺が下した金だ!いつまでもシミったれられっと、こっちも気分悪ィんだ」
何かしら切島は零仔と爆豪の為に5人の諭吉様に相当する大きな買い物をしたらしい。
え、これは私も払う流れか?と財布を出そうとしたら切島に必死で止められた。
後ろでは、耳郎が死ぬ程爆笑している。いつものA組みたいだ。
「テメーもだロン毛」
「えっ?」
「いつまでもシケたツラ晒してんな。いつものスカしたツラより腹立つんだよ」
「ほんっっとうに口悪いわね……」
コイツ。…だが、この暗い空気を彼なりに打開しようとしていたのだろう。
結果、空気がやや戻りつつあった。
いつもの騒がしいA組に。騒がしくも心地の良い空気に。
視線を動かして彼を探す。すぐ近くにいた。
「……轟くん」
「栂野」
彼はやっぱりいつも通りだった。
気にしてない、というよりは。
(微塵も後悔なんてしてないんだって、顔して)
保須の時と顔つきが違う。
彼は彼なりに考えて、行動して、助けに来てくれていたのだ。
零仔と爆豪の為に。
「………ありがとう。助けようとしてくれて」
例え、決して褒められる事ではない行為だったとしても。
大人たちは彼らを叱るだろう。それでも、零仔は。零仔だけは、礼を言うのが筋だと思った。
「…気にすんな」
「…じゃあ、そうする」
「おう、そうしてくれ」
この軽いやりとりも随分久しぶりな気がして。
そしてとても、心地よかった。
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