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空気も戻った事で、気を取り直して。
寮内の案内に入った。
1棟1クラス。右が女子棟左が男子棟と分かれているらしいが、一回は共同スペースのようだ。
食堂や風呂、洗濯も一階で出来るそうだ。
…共有スペースが驚くほど広くて豪華だ。屋敷か?
後ろで麗日が「豪邸やないかい」と卒倒している。苦労してんだな。
「聞き間違いかな…?風呂・洗濯が共同スペース?夢か?」
「男女別だお前いい加減にしとけよ?」
「はい」
峰田ェ。懲りねえ奴だ。
エレベーターで二階に移動する。
部屋は二階から。1フロアに男女各4部屋の5階建て。
しかも部屋は一人一部屋、エアコン・トイレ・冷蔵庫・クローゼット付き。贅沢過ぎる。
何でこんなに雄英に金があるのかが寧ろ疑問だ。
なんか脇で「我が家のクローゼットと同じくらいの広さですわね…」という八百万の衝撃発言が聞こえた気がしなくもないが聞かなかったことにする。
生まれの違いを再び叩きつけられた瞬間である。零仔にとっては普通に贅沢だった。
各部屋にすでに荷物は運びこまれているそうなので、この日一日は荷解きに使うそうだ。
各々部屋に戻ると、運び込まれた段ボールたちと格闘する時間に入るのだった。
***
夕方。
「できた…我ながら完璧な部屋だ……」
完璧な『趣味』部屋だ。
フカフカのソファ、お気に入りのクッション群、部屋の至る所に配置されているテディベア群。
ベッドには一番気に入っているテディとギャングオルカのぬいぐるみ。
ウサギとネコのスリッパ、ベビーピンクのフカフカ絨毯。あと天井からぶら下がっている異物。これに関しては何も言わん。
少女趣味?言いたければ言え。どうせ誰も見ねえ。
段ボールも片づけ終え渾身のドヤ顔も終え、暇だし茶でも淹れるかとマグカップを出そうとした矢先、部屋の扉がノックされた。
「…?」
「栂野。いるか」
轟の声だ。
マグカップを仕舞い小走りで玄関まで向かう。
そして限りなく部屋が見えないような角度でドアを開けると、ジャージ姿の轟が立っていた。
「荷解き終わったのか?」
「ええ、丁度ついさっき終わったからお茶飲もうとしてた所よ。轟くんも終わった?」
「おう、俺も終わった。実家から菓子持ってきたんだが食うか?それで聞きに来たんだg「行くわ」おう、早ぇな」
仕方がない。本当は夕飯が近いからおやつは控えようと思っていたんだがどうしてもと言うなら(言ってない)食べてあげよう。
ついでに轟のお部屋チェックだ。
轟はさっさと部屋に入っていくので、零仔も「お邪魔しま〜す…」と続いて中に入った。
「……ン???…こ、この部屋は…?」
「あ?普通の和室だろ」
「いや…なんか、造りから違くない…?リフォームしたの…?」
「おう。頑張った」
「その熱意は一体どこから……」
その部屋はもう何処からどう見ても完璧な和室だった。
畳、障子、箪笥。ロッカーはどこ行った?
照明すら最早違う。
「お前の部屋は実家と似たようなアレか?すげえ女子っぽいやつ」
「あー…まあ……そうね…うん……」
この部屋を見た後だと死んでも見られたくねーなあの部屋。絶対誰もいれないと心に誓った。
彼の部屋は徹底して和室にリフォームした為か家具もすべて和で統一されている。実家が日本家屋の零仔にとって、非常に落ち着く空間だった。
「悪ぃ、緑茶しかねえんだがいいか」
「気にしなくていいわよ」
「そうか。ああ、その辺に座っててくれ」
言葉に甘えて、座布団に座る。
いくつか部屋隅に積まれていたのは、誰か来ることを想定していたのだろうか?
「どうした。部屋の隅になんかいたか」
「あ、ううん。座布団、あれお客さん用?」
「いや、お前用」
「…えっ?」
「お前が部屋来た時の為に持ってきた。座椅子の方が良かったか」
「い、いえ…そんな事は、ないけど、」
まるで当然の事を言っているような様子で言ってのける轟に、零仔は一瞬言葉に詰まった。
轟の日常に、当たり前のように零仔の存在がいる事に胸に何かが込み上げてくるようだ。
お茶を淹れて来た轟が向かいに座った。
特に話す事もなくお茶を啜り、轟の持ってきた饅頭や煎餅を有り難く頂く。
最初は互いに無言なのが気まずかったが、今はこの無言の間も心地がいいと感じるようになった。
「そういや、もう身体は完全に大丈夫なのか」
「?身体?ええ、後遺症も特にないそうよ。先生は奇跡的だって言ってた」
「…傷痕は残ったりしてねえのか?ひでえ怪我だったろ」
その問いに、一瞬心臓が跳ねた。
図星だ。脳無から受けた傷の殆どが、これから一生、零仔の身体に刻まれるだろう。
そうだ。身体に痕は、残って――――
「大丈夫だったわ。今は完全に綺麗にとはいかないけれど、直ぐに消える程度だって」
「…そうか」
(どうして私、今、嘘ついたの)
本当は身体は傷だらけ。綺麗な身体だなんてとても言えない。
緑谷も身体は傷だらけだが、きっと零仔の身体は、それ以上だ。
ああ、でも。何も知らなくていい話。
(私だけの話なんだから)
胸は痛いけれど、きっといつか自然に諦めがついて、消えていく日が来る。
きっと来るはずなのだ。
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