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教室に着いて手紙を確認する時間もなくHRのチャイムが鳴ってしまった。
手紙は授業が終わってからだな。と引き出しの中に突っ込む。
チャイムと同時に相澤が入ってきて、そこから自然な流れでHRが始まった。
「昨日話した通り、まずは『仮免』取得が当面の目標だ」
仮免。それはヒーローが持つ、個性を合法的に行使する事ができる重要な免許を取る為の前段階だ。
ヒーローの仕事は無論敵の暴動の鎮圧なども上げられるが、最も割合として大きいのは人命救助。元々人命に関わる仕事は医師や看護師の仕事であり、彼らも医師免許や看護、福祉士の免許を取っている。
ヒーローとして活動するという事は、それらも複合した免許を取らなければならないという事。無論広き門なはずはない。
「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得のための条件はとても厳しい。仮免と云えどその合格率は例年5割を切る」
それは厳しい。
だがそれも当然だ。個性というのはこの人類になくてはならない存在となったが、唯一無二のパートナーにして、それは尤も近くにある死の具象に他ならない。
誰もがモラルを持っているという前提の下、まるでこの世界が平和であると信じ切り外を歩いている。個性とはそのモラルさえなければ立派な犯罪の道具であり、そして凶器となる。
完璧に使いこなせるくらいにならなければ、ヒーローを名乗る資格もないのだ。
人を救うヒーローが人を殺し得る能力を制御できないなんて話にならない。
「そこで今日から君らは一人最低でも二つ…」
相澤が指で合図をする。
直後教室の扉が開いた。登場したのはミッドナイト、エクトプラズム、セメントスだ。
「必殺技を!!作ってもらう!!」
「「「学校っぽくてそれでいてヒーローっぽいのキタァア!!」」」
クラスのテンションが最高潮に跳ね上がる。
賑やかし役の芦戸、瀬呂、切島、上鳴のテンションが特にすごい。すごい、
「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトワリ!」
「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する!今日日必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」
「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え、体育館γに集合だ」
ここの体育館、運動場といい、いったい幾つあるんだ?
コスチュームに着替えたところで体育館γに全員が集合する。
体育館γ。通称。
「トレーニングの(T)台所(D)ランド(L)、略してTDL」
(((TDLはマズそうだ!!)))
マズいですよ!
某夢の国のネズミの笑い声が聞こえる気がする。ハハッ(おいやめろ!)
どうもここはセメントス考案の施設だそうで、生徒一人一人に合わせた地形や物を用意できるのだそうだ。
なるほど、床や壁がセメントで出来ているのはそういう理由だったのか。
その後相澤から仮免試験がどういう者かの大まかな説明を受け、そして仮免でどういう行動をとれるものが『強いヒーロー』なのか、という事をレクチャーされ。
セメントスによってそれぞれの練習場も建設され、エクトプラズムの分身が各々に就いて、必殺技の考案が始まった。
***
(良く爆発してんなあ〜)
爆豪の爆発を眺めながら、こちらも考案中だ。
温度操作の個性が皆に影響を及ぼさないよう、零仔の練習場は高い所にある。
四肢のアーマーを一旦1500度ほどに過熱してみる。周囲の空気がゆらゆらと熱で揺らめく程の高温だ。
「君ノ個性ハ確カ、『温度操作』ダッタナ」
「はい。…戦闘で使うには、あまりに殺傷能力が高すぎるので…人命救助には役立つかもしれませんが、戦闘に置いてはピーキーというか」
もし、この個性が再び誰かを殺してしまったら。
父のように身体中の血液が沸騰して、水風船のように破裂してしまったら?
考えるだけでゾッとした。火傷しそうなほど熱い血の温度さえ思い出せる感覚がした。
顔色が悪くなっていくのが分かったのか、エクトプラズムが「落チ着ケ」と思考を制止させた。
エクトプラズムにも零仔の過去は報告されている。彼女が何を思ったのかすぐに分かったのだろう。
「必殺技トイウノハ、攻撃技ダケノ事デハナイ。救助特化ニ努メルナラバ、ソノ方面デ考エルノモイイダロウ」
「そう、ですか…」
「ダガ、君ハ戦闘センスニ於イテハコノクラスノ中デハズバ抜ケテイル。コレマデ通リ近接格闘メインデ行クナラ、ソレヲ補助スル使イ方ヲ考案シヨウ」
しかし、具体的なビジョンが中々思いつかない。
それはある意味、一番考えないようにしてきた事だからだ。個性を誰かに使う事を明確に視野に入れての訓練。
攻撃力を持たないが、殺傷能力においては――――恐らく、このクラスで最も高い。敵としての立場ならばこれ程使える個性もない。
「ソウイエバ、温度ハ一体ドコマデ操作ガデキル?」
「温度ですか?ええと…冷却の方は、絶対零度…-273度まで。過熱の方は、タングステンを融解させる事が出来ていたので…5000度以上な事は確かです」
「フム…」
人なら一瞬で蒸発する温度だ。
やはり難しい。ううん。
「ヘイ、やってるね!」
「!」
背後から声がした。
聞き馴染みのある声だが、その割にはいつもの、腹に響く程の覇気がない。
振り返ると、まるで骸骨のような姿で腕にギプスを付けた痛々しい姿の男がいた。
「…オールマイト、」
「栂野少女、身体はもう大丈夫なのか?」
言葉が、出なかった。知らなかったわけじゃない、録画で何度だって彼の最後の戦いを見た。
でも、こうして目の前にすると何と声にしていいかわからなかった。
―――零仔が攫われなければ彼は。
「こら、少女。また『自分の所為で』だと考えていないだろうな?」
「…!」
「君はよく頑張った。私はヒーローとして為すべき事をしただけだ、これはその帰結に過ぎない。遅かれ早かれこうなっていたんだ、それが偶然、神野の件だったというだけさ」
「………オールマイト、」
「うん?」
掛けたい言葉も、言いたい言葉も、謝らなければならない事もたくさんある。
でもそれは、彼に掛ける『べき』ものでは、無いように思えた。
だから。
「…あなたは、最高のヒーローです。昔も、今も、これからも。…あなたは以前私に言ってくれました。私なら、素晴らしいヒーローになれるって」
「ああ。言ったね」
「…私、……夢が出来ました。このA組の皆と一緒に、ヒーローに…最高のヒーローになりたいんです」
「………!」
彼の目を真っ直ぐに見据える。
ああ。彼の目はこんな姿になってしまっても尚強い輝きを放っている。この目はあのオールマイトと何も変わらない。
「……ああ、君はとても強くなったね。期末の時とは見違えるようだ。あの時の危うさと影がとても薄くなった」
「ありがとうございます」
「だから、君はもっと強くなる。君は誰よりも命の重さを知っている。だからこそここにいる誰よりも誰かを大切にできる。強さとはそう言う事だ」
「はい!」
うんうん、とオールマイトは嬉しそうに笑った。
その仕草一つ一つに、あの『No.1ヒーロー』の強さがもう感じられない寂しさはあるけれど。彼は何も変わらない。
彼はやり遂げて、やり切ったのだ。
次は自分達が、彼の意志を継いでいく。
強くなりたい。もっと。
これ以上ない向上心が、零仔の心を押し上げて行った。
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