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「はぁ……はぁ………」
翌日。
結局あの夜、ほとんど眠れなかった。
昨日の疲れと混乱を引き摺ったままで個性の安定もしないまま、ずるずると訓練をする。
何とかやり切ってはいるが、個性の制御までは程遠く、零仔の練習場にはドロッドロに熔けたセメントや幾つものクレーターが見受けられた。
(必殺技って絶対零度とか、そういうのでいいのかなあ…でもアレは脳無だから撃てたのであって、人に撃つには…)
温度の操作というのはどうも難しい。
派手さが無いから必殺技というと本当に必(ず)殺(す)になってしまうのも。
ミッドナイトが言っていたように、必殺技を持たない絶滅危惧種となってしまうのか。
(いや、絶対零度でなくても『冷凍する』っていうのはとても強力ね…)
空気中の水分を凍らせれば簡易的な氷結攻撃も出来る。
熱は容易く致命傷となるから、やはり冷却や冷凍、氷結が好ましいだろう。
そもそも温度を操作できるというのは、物質の状態変化も自在という事だ。
局地的に気温を変化させ気圧差を生じさて、周囲の空気を熱したり冷やしたりを繰り返す事で簡易的な雲を作れば、天候の操作だって簡単な事だ。
天候さえ掌握できれば出来る事は大幅に増える。
(……まずは、雲を作る事から始めましょう)
***
そうして雲を作ったり色んな事を平行して行っている間にその日の訓練が終了した。
疲労度合いはMAX。
寮に帰って疲労困憊のまま夕食をとり、また皆が風呂に入った後を見計らって一番最後に風呂に入った。
この寮は大浴場だから、皆と被らない時間帯にしなければならない。
今度は髪をしっかりと乾かして、ホットミルクを飲みながら共有スペースでぼーっとしていると。
「お疲れ零仔ちゃん」
「梅雨ちゃん…」
「お隣いいかしら」
頷くと、「ありがと」と蛙吹は隣に座った。
風呂上がりにゼリーを食べるのが好きらしい蛙吹、今日は桃のゼリーを食べている。
桃の甘い香りを楽しみながらホットミルクを一口飲む。
「今日何だか調子悪そうだったわね。行き詰ってるの?」
「うーん、それもあるんだけど…単純に寝不足が祟って体調がそこまでよくなかったというか…」
「それって、昨日のお手紙が理由かしら?」
「うっ…」
理由はそれだけではないが、決して間違ってはいない指摘に息を詰める。
図星ね、と蛙吹はゼリーを一口食べた。
蛙吹は鋭い。人や周りをよく見ている。今日の訓練蛙吹だって大変だったろうに。
「あの呼び出しは、結局は何だったの?」
「……二年の先輩から。………私の事、好きだから、…付き合って欲しいって、言われた」
「………零仔ちゃんはそれに、なんて答えたの?」
「……考えさせて、欲しい、って…」
あの時、その場で答えるだけの余裕がなかった。
考える時間が欲しいと切り出したのがあの時の唯一の打てる手だった。
「その人にオーケーを出す気はあるの?」
「……わからない。私は先輩の事を何も知らないし、先輩も本当の私を何も知らない。……ビジョンが浮かばない。……多分、自分でも考えないようにしてるんだと思うの、そういう事」
仮免の事もある。
今はその事について余裕をもって考えられる時期じゃない。もっと集中しなければならない事がたくさんある。
父親の呪縛を克服する糸口が掴めてからまだ、心が追い付いていない。目まぐるしく動く状況に目が回ってしまっている。
「…じゃあ、私一つ聞いていいかしら」
「何?」
「零仔ちゃんは、轟ちゃんの事、本当はどうなのかしら?」
「――――…」
轟の事。昨日の今頃、この場所であった出来事を思い出す。
彼への想いを自覚したのは合宿でだ。
そしてそれを自覚させたのは蛙吹でもある。きっと彼女には、嘘はつけないのだ。
彼女へ発した声は酷く弱弱しいものだった。
まるで罪を告解して懺悔するような。
「……好きよ」
でも、ハッキリと告げた。
友達としてじゃない。
友愛や親愛ではない。だって零仔は彼を愛しているのではない。『愛』の類なんかではないのだ。
『恋』というどこまでも自己完結のできない独善的な感情に他ならない。
「…先輩は、私の事好きだって言ってくれたけれど…私は、轟くんの事を多分、これからずっと好きでいる。だから、多分彼の想いには応えられないんでしょうね」
「轟ちゃんには何も言わないの?」
「……多分」
「どうして?」
「…今の関係が変わってしまうのが、怖いの」
声は情けなく震えている。
本当に自分は臆病な女だ。何もできない、何かをする事で何かを失う事に酷く怯えている。
――――彼との思い出がずっと零仔を支えて来た。彼だけだった。その彼を、轟を失うのが怖い。
彼を失うくらいなら、此の恋心なんて叶わなくたって全然いい。少し前のように、ただの幼馴染として笑い合っていたい。
あの時のままでいい。
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