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控室に来ると、まだ誰もいないのか伽藍洞だった。
テーブルの上には食事や飲料が置いてあった。
ラッキーと思って今の内にカロリーを取っておこう。
オレンジジュースを飲みながらドーナツを頬張っていると、再び放送が入る。
《うお!?脱落者120名!!一人で120名脱落させて通過した!!》
「!?」
その数にジュースを咽そうになった。
一人で120名って。うわあ。
だが、そういう『面制圧』力が高い個性の持ち主なのだろう。怖えなあ。
目良も目が醒めただろう。よかったな。
口からこぼれそうになったオレンジジュースを何とか飲み干しながらドーナツを食べていると、控室の扉が開いた。さあ誰だ、120人斬りをした猛者は。
「あ!!!栂野か!!!」
「夜嵐くんかぁ………」
夜嵐だ。お前か120人斬り。
相変わらず末恐ろしい男だ。こんな男とライバル校だなんて本当に肝が冷えるばかりだ。
対峙しなくてよかった。
こっちに駆け寄ってくる夜嵐に飲み物を渡すと、直後そのでかい口は一気に飲み物を消化した。はえーよホセ。
「すごいわね120人斬り」
「ああ、勝てた!!栂野こそ24人も一人で落としたんだろう?すごいな!!あの爆発やっぱり栂野か!!」
「ちょっと制御ミスったんだけどね…死人が出なくて本当に良かった……」
ついでにお前と対峙しなくて本当に良かったよ。フィールドの一部が更地になるところだったかもしれないからな。
「強くなったんだな、栂野は!体育祭の時も見てたけど、すごく成長したと思う!!」
「そう、かしら」
「ああ!!」
「でも、夜嵐君もすごく強くなったと思う。受験の時より、ずっと」
「…そっか!!それなら嬉しい!!」
しっかりとその実力は見ることができなかったが、格段に力をつけている事は確かだ。
「栂野と肩を並べて戦う事は出来なかったが、栂野と競い合える事はすごく誇りに思う!次の試験が楽しみだな!!」
「そういう人よね、夜嵐君は…」
零仔は、対峙しなくて良かったと安堵する。
夜嵐は、対峙する事を警戒するほどに力あるものと競い合えることを誇る。
考え方の違いであり、世界の違いだ。以前なら眩しいと思っていただろう。だが今は、またそれも自分と違う考え方だと一種の差別化が出来た。
自分もまた成長できているのだと信じたい。
だが、やはり気になったのだ。―――肩を並べて戦う事が出来なかったというなら、どうして雄英の推薦入学を蹴ったのだろうと。
どうしても譲れないものがあった、というのは分かっているけれど。
雄英が大好きなのに、それでも入学を蹴る程の何かがあったのか?それは彼にとって余程の事なのではないだろうか。
だが、それを聞くのは無粋ではなかろうか。
彼は今の状況と学校に満足しているのだ。態々掘り返す必要はない。
「…夜嵐君、士傑は楽しい?」
「?ああ!とても!!雄英はどうだ?」
「同じよ。とても楽しい。それに……」
「?」
「…ふふ、まあ、この予選が終わるまで少しお話でもしましょうか。士傑の話、聞かせて」
まず、腰かけてジュースでも。
そう言ってカップを差し出した零仔にニッと快活に笑って見せた夜嵐は、零仔の隣に座ると士傑での毎日を語り始めた。
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