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シャチの頭部に大柄で筋肉質な身体を包む白いスーツ。あれは…

「ギャングオルカ…!!」

マジか。マジかマジかマジか!!
実物は本当にかっこいいし可愛い……と、今はそれどころではない!!

《敵が姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ救助を続行してください》
「無茶言ってくれるわね…!!!!」

ギャングオルカの番付は10。トップヒーローだ。
しかも大勢手下を引き連れてきてくださっている。この、本気で潰しに来てるな。
ギャングオルカ達敵勢力を制圧しつつ救護所の傷病者を守り、そして新たに運び込まれてくる傷病者たちの治療と看護を全て並行処理する。
ここから求められるのが協調性だ。本当に、オールマイトが引退してからというもの一気に情勢が変わりつつあるな。
カリスマを持つ個を待つのではなく、統率の取れた強力な群で平和を守るという提唱のつもりか。

「ここの救助もまだだけど、あっちを見て見ぬフリは出来ないわね…」
「轟くんは制圧能力が高いわ、あっちへ行って敵の制圧をお願いできるかしら。私もここの救助が終わればすぐに応援に行く」
「…わかった」

轟は直ぐに向こうへとすっ飛んでいった。
嫌な予感はするが、適材適所で言うなら彼が敵の制圧に向かった方がいいだろう。

(何事もなければいいんだけれど…)



***



轟が到着した時にはすでに乱戦だった。
傑物学園の真堂がギャングオルカに動きを封じられたところで、氷結で相手の動きを封じる。

すぐそばで緑谷や尾白たちが集まりつつあった。
何とかなるとは思わないが、心強いのには変わりがない。
その時、轟の頬を風が撫ぜた。
次の瞬間、

「ふぅきィィィィイイイイ飛べぇえええええっっ!!!!!!!」

風が、轟の氷の壁ごと何もかもを呑み込んでいった。
なんて風力だ。ギャングオルカも思わず体勢を立て直すほどの勢い。

「敵乱入とか!!!中々熱い展開にしてくれるじゃないっスか!!!」

空から夜嵐が飛んでくる。
轟と目が合った。双方の表情が変わる。もう印象は最悪だ。
ここで零仔の心配事が現実となった。

「あんたと同着とは…!!」

夜嵐の言葉で轟の脳裏に、あの控室での出来事が蘇る。
こっちの台詞である。気が散る事この上ない。

「…お前は救護者の避難を手伝ったらどうだ。個性的に適任だろ。こっちは俺がやる」
「ムムム…」

轟が炎を放つ。しかし夜嵐は轟を無視して風を再び放った。
炎で温められた空気により風が浮いてしまい、敵に当たらない。

「!?何で炎だ!!熱で風が浮くんだよ!!」
「さっき氷結を防がれたからだ。お前が合わせて来たんじゃねえのか?俺の炎だって風で飛ばされた」
「あんたは手柄を渡さないよう合わせたんだ!」
「は?誰がそんなことするかよ」
「するね!だってあんたはあの―――エンデヴァーの息子だ!」
「……さっき…から、何なんだよお前。親父は関係ね、えっ」

言い合いに発展している隙をついてギャングオルカの部下達の装備しているセメントガンが轟にぶち当たった。
敵もこれを好機と見たらしい。
動揺に飛んでくるセメントガンを夜嵐は避けていく。

「関係あるんだなこれが!ヒーローってのは俺にとっての熱さだ!熱い心が人に希望とか感動を与える!!伝える!!だからショックだった…!!」

夜嵐の表情が歪んでいく。
彼の脳内に蘇るのは―――憧れだったヒーロー像を目の前で踏み躙ったエンデヴァーだ。
サインを求めた手を振り払い、倒れ込んだ自信を見向きもせず、ただただ遠くを憎み続ける『あの目』が。夜嵐の子供ながら抱くヒーロー像を打ち砕いた。

轟は同じ目をしていた。だからすぐに、一目でわかった。あの男の息子だと!

「入試の時あんたを見てあんたが誰かすぐわかった…!」
「同じだと…?ふざけんなよ。俺はあいつじゃねえ…!!」
「あんたら親子はそうやって憎しみで周囲を踏み躙ってくんだよ!踏み躙られた人たちを顧みないような奴が誰かを救えるかよ!!」

もういい。付き合う必要はない。
詰まるところ彼はよくいるエンデヴァーアンチだ。試験に集中しなければ。
そう思っても、ずっとマシになったと思っていた轟の中の、『あの炎』が徐々に形作られ燃え上がっていく。
思い出していく。あの、憎しみを。あの怒りを。思い出せよ、あいつは―――――

(駄目だ、試験に集中しろ…!)

「敵を前に何をしているのやら…」

ギャングオルカがボソリ、と呆れたように首を横に振った。

「俺はあんたら親子のヒーローだけはどーにも認めらんないんスよォ――――!以上!!!」
(試験に―――)

夜嵐がギャングオルカに風を放つ。そして轟は炎を放った。
再び同じ轍を踏み、風も炎も軌道が逸れていく。

「また!!やっぱりあんたは…!」
「!!風で、炎が―――!」
「!!!」

軌道が逸れた炎は、ギャングオルカによって行動不能に陥っている真堂の方へ。
駄目だ。真堂では避けられない。

真堂に炎がぶち当たる、その直前だった。真堂を素早く横切った影が連れ去って炎から守った。

―――緑谷だ。

緑谷が困惑と焦りと怒りに似た何かで満ちた目を彼らに向けて、口を開いた。

「何をして――――」



「ッ何をしてんのよ!!!!貴方達は!!!!」



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