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緑谷の声を遮り尚且つ突き抜けるような怒号がはるか後方から向かってきた。
その声の主、彼らは良く知っている。
そして、轟の脳裏で欠けたパズルのピースがはまった。
(そうだ―――風を使う個性!引っかかってた、あいつだ確かに…!)
どうして思い出せなかった?こんな五月蠅い奴を!
そうして、ああ、とすぐに理解した。
納得に近い。そして同時に深く後悔をした。
―――見えていなかったのだ。本当に。
轟は『エンデヴァーを否定する為に』というただそれだけだった。その憎しみで大切な女の子との大切な約束さえ蔑ろにした。
体育祭から、ずっと有耶無耶にして過ごしてきたツケがここで来た。
過去も。血も。忘れたままじゃいられない。
零仔は呪われた過去と向き合い、苛まれながらも確かに前に進み始めている。
彼女のように、自分も過去を忘れて進む事なんてできないのだ。彼女はそれを教えてくれていたというのに。
また彼女に、助けられた。分からされた。ずっと彼女が自分の心を守ってくれていたことをここで痛感したのだ。
もう逃げるのは止めだ。
轟の目の前にギャングオルカが躍り出た。
「とりあえず――邪魔な風だ」
ギャングオルカの個性による超音波攻撃が、部下のセメントガンでの支援を諸に受けた夜嵐に当たった。
飛んでいた夜嵐の身体が、個性のコントロールを失い落ちていく。
「おい…!」
「自業自得だ!!」
夜嵐に気を取られている間に轟を拘束し、ギャングオルカが超音波を至近距離でブチ当てた。―――直撃。
完全に諸に受け、轟はもう動けない。
一方夜嵐は距離があったため効き目が薄かったのか、まだ辛うじて個性のコントロールが可能だったのか、落下の衝撃を個性で軽減させていた。
嫌だったものに自分がなっていたのだ。
『否定』に目が眩んで目の前の事すら何も見えていなかった。
((最悪だ…ッ!!))
***
「マズいぞ突破されてる!!こっち来るぞ!!」
此方に突っ切ってくる群れに対し、多少回復した真堂が個性で地面を割り、足止めをする。
「真堂さん!オルカの超音波で動けないはずじゃ…!」
「まァちょっとだいぶ末端痺れてるよね…音波も振動って訳で個性柄揺れには多少耐性あんだよ。そんな感じで騙し討ち狙ってたんだよね!それをあの1年二人がよォ―――!」
(キャラが)
真堂も大分頭に来ているのか『余所行き』の仮面が剥がれている。
しかしそれも一瞬で、すぐに体勢を立て直した。
「足は止めたぞ奴らを行動不能にしろ!手分けして残りの傷病者を避難させるんだ!!」
真堂の指示の下皆が行動をはじめ、緑谷はギャングオルカ達の方へ駆け出す。
その脇から、やっと水害ゾーンから追いついた零仔が並んだ。
「栂野さん!」
「やっと追いついたわよあのボケナス二人!!とっちめてやる!!」
「う、うお…」
(栂野さんめっちゃキレとる)
***
「さて…風使いを仕留めてあちらに加勢に行くか」
ギャングオルカは拘束していた轟を最早興味もないといった様子で手放した。
麻痺し切った身体は言う事を聞かないまま、轟は地面に崩れ落ちる。
(無駄に張り合って相性最悪連携ゼロ…こんなんでトップヒーローに敵う訳がねえ……もし、お前も……そう思ってんなら…!!)
下から、掬い取れ。
炎と風で、閉じ込めろ。
これは足掻きだ。もう取り返せないものはたくさんある。
だがそれでも、ここでやらなかったらそれこそやりきれない。
轟が炎を放ち、夜嵐が風を下から巻き起こす事で炎の竜巻を生じさせ、ギャングオルカを閉じ込めた。
先程の愚行が消えるわけではない。だが、雨降って地固まる…過ちに気づき取り返さんとする、その足掻き。
(嫌いじゃないな)
炎の渦の中、ギャングオルカはニタリと笑ってみせた。
「おい後ろ見ろ!シャチョーが炎の渦で閉じ込められた!!」
「マズくない!?」
「シャチっぽいシャチョーは乾燥にめっぽう弱い!!」
「夜嵐(かぜ)はいい!轟(ほのお)を止めろ!!」
部下達が轟に狙いを定めるが、轟が氷結で壁を作る事でそれを阻む。
轟は炎と氷を同時発動する際動きが鈍るリスクがあった。しかし、そもそも動けないのなら関係ない。
氷に阻まれ部下達は踵を返そうとして―――
「どきなさい!!!」
「ぐおェ!!!」
緑谷と零仔の追撃に一気に足並みを崩され始める。
続いて尾白や常闇、芦戸、蛙吹達も救助が終わったのか加勢にやって来た。
蛙吹はなんと、新技として「保護色」を獲得したらしい。何だそのチート技は…!
「梅雨ちゃん…!救助と捜索は終わったのね!?」
「大体ね」
続いて士傑高校も加勢に入る。
あの毛のすごい先輩毛原が大量の毛を伸ばして部下達を一斉に拘束した。
よし、ここはもう大丈夫だ。
(あの馬鹿…!)
零仔は、駆け出す。
あの馬鹿達を叱り飛ばすために、あの炎の渦を目指した。
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