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お互い落ち着くまで抱き合っていたが、いざ落ち着けばすごく恥ずかしくなった。
轟はしれっとしていたが零仔はとにかく落ち着いたら恥ずかしくて死にそうだったので、身体は放してもらった。

羞恥で死ぬところだった。
腕で顔を隠して顔が赤くなっているのを隠す。

「…ん?」

その時轟が何かに気づいたような声を上げた。
そして徐に零仔の腕を勢いよく掴んだ。その急いたような挙動に肩を跳ねさせる。

「零仔、お前…やっぱり傷治ってないのか」
「…!!」

まさか、と思うより先に腕を振り払った。
少しサイズの大きいTシャツの半袖から覗く腕には、普通にしていたら隠れるが腕を上げれば角度によっては見えてしまう位置に、傷があった。
他の傷と比べて薄くはあるが、くっきりと肌を裂いた痕がある。死角の傷に全く気付かなかった。
一瞬で血の気が引いた。
だが、その際に引っかかった部分があった。

「……、やっぱり、って」
「この前傷は大丈夫なのかって聞いた時、お前「すぐ消える」って嘘ついたろ」
「…なんで、嘘って………」
「昔のお前は嘘つくときに右下に目を逸らす癖があったからな。あの時のお前もそうだったから、嘘だなって思っただけだ」

お前はいざという時のハッタリだったり隠し事は上手ぇけど、『嘘』は癖が出るからな。
そう語る轟に呆然とするしかなかった。

「……他んとこにも残ってるんだろ。傷」
「…うん」

もう彼が、身体の傷で引くような人間じゃないという事は分かっている。
それでもこの身体が、決して魅力的ではないという自覚があるのも事実だ。
八百万のように豊満なわけでもない。芦戸のように健康的でもない。耳郎のように美しいスレンダー体型でもない。筋肉質で傷だらけで、大きな傷以外にも細かな傷が浮かび上がっている。

「……焦凍くんは、…身体にいっぱい傷ある女は、…嫌?」
「そんな事気にしねえよ。名誉の勲章って割り切れる程達観はできねえだろうが、その傷は間違いなく俺達を守る為に逃げずに敵と戦ってついたもんだろ。それをどうこう思ったり言う程屑な人間のつもりはねえ」
「、」
「今のお前を形作った身体だろ。お前にとっては辛いだけのもんかもしれねえ。でも俺にとっては大事なお前の一部だ。嫌なわけねえだろ」

――――欲しい言葉をいつもくれるのは、どっちだか分かったものではない。
重苦しいものがすっとほどけた気がした。
まだ不安はあるし、自分の身体が好きになったわけじゃない。でも、他人のただ一つでもいい「肯定」がこんなにも心を楽にするのだと知った。

「!…おい、まだ泣くか」
「ぅうう〜…」
「昔俺の事泣き虫だって言ったのはお前なのに、今はお前の方が泣き虫だな」

その声色がどこか嬉しそうなのは、やっと自分の前で素直な気持ちを発露してくれるようになったという達成感か、ずっと「我慢」を続けてきた彼女がそれをやめるようになりつつあるという歓びか。
どんどん膨れ上がっていく不安を「我慢」という枷でずっと必死に抑え込んでいたんだろう。

(4月の時より、ずっと良くなった)

『氷の女王』だなんて呼び方が言い得て妙と思う程に冷たい空気。
誰もを隔絶する目。正に自分の城を築きその中に籠り切っていた氷の女王。
誰からも好かれる気のなさそうな言葉選びとトーン。
周囲に氷を張り巡らせて温もりを只管避けていたような彼女が今、人前で涙を見せるくらいに他人を受け入れるようになって。それが愛おしくて仕方がない。





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