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駆けていた。
リカバリーガールの下で簡易的な治療を施してもらっていたら時間を食った。
会場の方で騒音がする。
もしかしたら――――――


通路を抜け観客席に出ると、強烈な冷気が身体にぶつかった。
会場を見下ろすと、緑谷が指を犠牲に巨大な氷結を破壊しているその最中だった。

「おっ、栂野お疲れ!二回戦進出おめでとさん!」
「切島くんも勝ったのね。おめでとう」
「おう、次爆豪とだ!」
「ぶっ殺す」
「ハッハッハやってみな!」

つえーな切島。
爆豪の棘塗れの対応に即座に嫌味なく返せるのは一種の才能ではなかろうか。
そんな切島は一度フィールドの轟を見遣り、苦い顔をした。

「…とか言ってオメーも轟も強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー…」
「ポンポンじゃねえよ、ナメんな」
「ん?」

切島の言葉に爆豪はフィールドから目を離す事はしないまま続ける。

「筋肉酷使すりゃ筋繊維が切れるし、走り続けりゃ息切れる。個性だって身体機能だ、奴にも何らかの限度はある筈だろ」

爆豪の言うとおりだ。
如何なる個性にも必ず限界というものは存在する。
零仔とて何度も大幅な温度操作をすれば自分の体温調節ができなくなる。そして、自分の身体を直接操作すれば一気にその限界とやらは早く訪れる。
コスチュームに耐熱耐寒素材のアーマーを要望に出したのは、何も肉弾戦での破壊力向上の為だけではない。
その気になればこの腕そのものを1500度にまで温度を引き上げる事は可能だ。個性の仕様上、こちらがこの個性で傷つく事はない。だが自分の体温を局部的に操作する事は、より他の調節が散漫になる。
故にコスチュームで限界が訪れるのを防ぐ為、手足となる代わりの格闘具をオーダーしたのだ。
そして、温度を下げる事と上げる事を同時にはできない。極度な集中状態ならば可能だが、調節が非常に困難な今それをするのは難しい状態だった。


緑谷は早期決着を望む轟に対し耐久戦を持ちかけ始めた。
容赦なく氷結を放ち続け、やがて緑谷は右手の指が全滅する。
緑谷のパワーを前にしても轟は一切怯まず、氷で足場を作り緑谷に上から飛び掛かったが、緑谷は腕を犠牲に氷結を一気に破壊する。
もう腕が駄目になった。

「……なにしてんのよ、」
「…、栂野さん?」
「っ、いくらリカバリーガールの力で治るからって…あれは、身体の治癒力を高めるだけで…何度も折れた骨のダメージは戻らない!腕をもう二度と使い物にならなくさせるつもりなの?」

緑谷は、正気なのか?
いくらなんでも無茶が過ぎる。
なんでそこまでして、戦いを続けるのか。

もう緑谷は無理だと判断したのだろう轟が、とどめの氷結を放った。
だが。

「――――――どこ見てんだよ」

緑谷の爆発的な威力の攻撃が氷を粉砕し轟を吹っ飛ばした。
足元に氷結を作る事で抑止力を作り、轟は何とか場外は堪え切る。
壊れた指で更に撃ったのだ。
もうあの指は、

「震えてるよ、轟くん」

しんと静まり返る会場に、緑谷の凄まじい迫力を含んだ声が響いている。

「個性だって身体機能の一つだ。君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう…?で、それって…左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか…?」

轟の右半身に霜が降りている。
そろそろ体温の調節をしないと危ない。温度に密接に関係する個性である零仔だからこそ、あの轟の状態は危険であるとすぐに分かった。
それでも頑なに炎を使わない。
父が憎いから。母を虐げた父が憎くて、憎くて、染まり切ってしまっている。

「……っ!!皆…本気でやってる。勝って…目標に近づく為に…っ一番になる為に!『半分』の力で僕に勝つ!?まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ!!」

折れた右手の指を無理やり動かし、握りこぶしを作る。
それが緑谷の、覚悟なのだ。


「『全力』でかかってこい!!!!!」


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