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後日。
体育祭明けは二日ほど休みだ。
当日の帰りは死ぬほど疲れて、風呂に入りご飯を食べた後泥のように眠った。

起きたのは結局10時頃で、完璧に寝過ごした。
いつもは休日でも7時には起きる。祖母を手伝うためだ。
だが祖母は「今日くらいはゆっくり寝てても罰は当たらないわ」と放っておいたらしい。
そして台所にやけにたくさん野菜やお菓子が置いてあるなと、着替えを済ませお茶を淹れている時に気づく。

「おばあちゃん」
「ん〜?」
「なんかえらい野菜とか魚とかお菓子が積まれてない?どうしたの」
「ああそれ?実はね〜昨日体育祭見てた商店街のお店の人達がお祝いにたくさんくださったのよ〜!!皆すごいすごいって零仔の事褒めてたのよ」
「うっ…」

そう、TVで中継されていたのだ。
録画を見せてもらったが、しっかりばっちり映されていた。零仔は常に上位だった為にかなり注目されていたのか、映っている回数が多かった。
しかも準決勝で轟との戦闘後、ほぼ意識のない零仔を彼が抱き上げてリカバリーガールのところまで運ばれる所も完璧に映されていた。
あの時は意識がなかったが、こうしてみて死にたくなった。

(プ、プリンセスホールド…された……映されてた………死にたい………)

死ねる案件だった。
祖母はキャー!と黄色い歓声を上げていたが最早それどころではない。
乙女思考の祖母は頻りにその時の感想を聞きたがったが本当に恥ずか死案件だった。


***


丁度昼頃、お昼ご飯と夕飯の買い出しの為に祖母とスーパーに向かった。
大量に貰った野菜や魚で今日は御馳走を作りたいらしい。その調味料の買い出しだ。

大袈裟だなあと思いつつも、零仔を想ってくれるのは痛いほどわかる。
そして昨日帰って来た時に、喜ぶよりも真っ先に心配をしてきたのを思い出す。
全体的な負傷数は少なかったとはいえ、あのレシプロをモロに受けていたのと轟の氷結と炎を何度も間近で対応していたのをテレビで見ていたんだろう。
その心配を、紛らわせたいのもあるのだろうから。祖母が御馳走を作ると言った時、ありがとうとしか言えなかったのだ。

粗方買い出しを終えて、スーパーを出る。
結構買ったが、まだ足りないらしく次のスーパーへと向かう。
その途中で、祖母が「あっ」と思い出したように声を上げた。

「やだ、買い忘れ」
「え?次のスーパーで良くない?」
「あの調味料、あそこにしか置いてないのよ〜ちょっと戻って買ってくるわ」
「私も一緒に、」
「すぐ戻ってくるから、零仔は待っててちょうだい」

全く有無を言わせず祖母は瞬く間にスーパーに戻っていった。
昔から祖母は強引な所がある。ああなれば大人しく従うしかない。
両腕に買い物袋を引っかけ、祖母を待っている間スマホをいじっていると。

「……栂野…?」
「え?」

何故か苗字を呼ばれて顔を上げる。
そこにはつい昨日、いや下手したら今朝も見た、ちょうど赤と白の髪を持った、ちょっとした話題となっていた彼がいた。

「と、轟…くん………」
「………」

休日だからか、轟は私服だった。
いつもかっちりと制服を着こんでいるからか、ラフな格好の轟は何だか不思議なものを見ている気分になる。
轟も私服の零仔が珍しいのか、服を少しガン見していた。

「家、この辺…だっけ?」
「いや…病院、行ってた」
「病院?」
「…母さんが入院してるから、久しぶりに会いに」

それで合点がいく。
昨日の体育祭の事もあって、やっぱりどこか吹っ切れたんだろう。
沢山話せたんだろうか、すっきりとした顔をしていた。

「お母さん、元気だった?」
「ああ」
「そっか」

轟は少し俯いた。
久しぶりにあった母親との話は緊張しただろう。
それに、昨日色々あったから、こうして零仔と話している今この時も少し表情が硬かった。
両者の間に以降、沈黙が流れる。

「…………」
「…………」
「………えっt「あら?もしかして焦凍くん?」」

沈黙を破ったのは、本当にすぐ戻って来た祖母だった。
お目当てのものがちゃんと買えたようで、手には小さな手提げが下がっている。
祖母は轟を捉えるなり小走りで駆け寄り、とても嬉しそうに笑った。
轟は最初呼ばれて怪訝そうな顔をしていたが、やがて祖母が誰なのかを思い出したようで酷く驚いたような表情を隠さなかった。

「まあまあまあ、大きくなったわねえ!どうしたの?今日は」
「母の見舞いの帰り、です」
「あらそうなのね。…ふふ、それにしても冬美ちゃんもそうだけれど、焦凍くんもお母さんによく似たわねえ」
「!…、どうも」

なんだか、こういう光景を見るのが懐かしく思えてくる。
記憶は薄れてしまっていても、一度見たものというのはどこかで覚えているものなのかもしれない。
さて、体育祭のあの激しい戦いの後だったが何とか気まずくならずに事を終えれてよかったと油断した。ここで終わる祖母ではなかったのだ。

「そうだわ焦凍くん、今日はこれからどうするの?」
「あー…適当にその辺で昼食って、帰るだけです」
「じゃあ、うちでご飯を食べておいきなさい!丁度今日は御馳走を作るんだけど、貰ったお野菜とかお魚が多くてうちじゃ食べきれないのよ〜」
「は!?おばあちゃん!?」
「それに焦凍くんも2位だなんてすごい成績だったんだから、焦凍くんのお祝いも一緒にしましょ!焦凍くんの好きなお菓子もいっぱいあるからねぇ」
「え、あの、」
「いっぱい食べそうだから、いっぱい作らないとねえ〜腕が鳴るわぁ〜」

駄目だ。聞いてない。
祖母の意識は最早次に行くスーパーに完全に向かってしまっている。
完璧に思考が置いてけぼりになりそうだったところで、強引な祖母に慣れている零仔がいち早く立ち直った。

「……ああなったおばあちゃん、聞かないから。其れに本当にいっぱい野菜とかもらっちゃってうちじゃ食べきれないの。…食べてって」
「………………わかった、じゃあ、上がらせてもらう。……栂野」
「…何?」
「ばあさん、いつもああなのか」
「うん、いつもあんな感じ」
「大変だな」
「そうね」

苦労する、と言いつつも浮かべる優しい笑顔は、まず学校では見せなかったものだ。

(……こいつ、家ではこんな顔すんのか)

覚えのない零仔の表情を見てどこか新鮮な気分になる。

「ごめんなさい、次ちょっと離れたスーパーに行くの。その後家に向かうから」
「分かった」

轟は先に行った祖母を追おうとする零仔の右手からさりげなく買い物袋を奪う。
突然の行動にきょとんとする零仔を追い抜き、先を歩いていく轟が振り返りながら

「重いだろ。そんだけ持ってたら」

というものだから。
やっぱり、昔と変わらないところがあるなあと、笑みがこぼれた。

「別に重くないわよ」
「馳走になんのに何もしねえのは流石に悪いし落ち着かねえ」
「……じゃあ、お願い」
「ん」

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