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車を降り、移動しながらエンデヴァーとの合流を待つ。
矢張り敵が暴れているらしい。
何でもヒーロー達が手こずっているようで、強力な敵が大規模な破壊行為を繰り返しているようだ。
だが、零仔は胸の内の引っ掛かりに顔を顰めていた。

(このタイミングで敵…まだこの街にはヒーロー殺しがいるかもしれないのに?)

ヒーロー殺しの標的は何もヒーローだけではない。
彼は敵でありながら同じく敵も殺す。彼には彼なりの考えがあるのだろう。
故に彼が現れた街の犯罪率は著しく低下する。それは敵達がヒーロー殺しを警戒しているに他ならない。
彼はこれからもヒーローをここで殺すはずだ。未だに被害が最小限だというのに、この状況で敵が堂々と行動するなど普通に考えれば違和感がある。
あまり考えたくはない事だがヒーロー殺しが敵と手を組んでいると考えたとして、大規模な混乱を巻き起こし民衆とヒーロー達がそちらに気を取られている内に自身の殺しを為す、という事は彼はしないように思える。

そもそも、だ。ヒーロー殺しの実力は計り知れない。
数十人のヒーロー達をほぼ一方的に下したのだから、並大抵のヒーローでも敵でも彼には歯が立たない。だからこそ敵の動きも沈静化するのだ。
そんな状況下で、ヒーロー殺しの存在を無視できるほどの余裕がある敵だと考えればその実力などあまり想像したくはない。
プロのヒーロー達が現在暴れている敵に対して相当手こずっていると聞く。これが裏付けている。

(だが一体敵は何のために?ヒーロー殺しがまだ潜在している可能性の高いこの街で暴れるにはメリットが無さ過ぎる)


繋がりそうで繋がらない、はっきりいって脈絡がない。
まるで―――子供の癇癪のような、挑発のような。
この状況下で現れる敵など、どれほど手強くても必ずヒーロー達が捕縛するか討伐するだろう。結果は見えているにもかかわらず暴れている。
見えてくるそれは、結果は二の次でありその過程で及ぼされる被害を最大限に考えたもの。起承転結の結だけをないがしろにされた子供の発案した小噺のようなものだ。
この状況の街で状況を開始するなら、後始末こそ最重要課題だろう。下手をしたらボロが出かねない。

きな臭い。大きなものが下で蠢いている気配すらする。

「おい」

仮説に仮説を重ね、思考の海に耽っている零仔の意識を轟が引き戻した。
考え込んでいる様子がどうにも気にかかったらしい。毎度気にしてくれるのは彼の優しさだろうか。

「ああ…大丈夫。ただの考え事よ」
「お前の考え事って結構重要な事だろ、突拍子もねえように見えて案外筋が通ってるしな」
「今回は本当に根拠がないの」
「それでもいい」

聞かせろってことか。
仕方がない。根拠はないからと再度念押しして、轟に先程考えていたことを伝えてみた。
聞き終えた轟は零仔と同じように顔を顰めて見せた。

「……なるほどな。確かに根拠はねえ。だが、あり得ねえ話じゃない。寧ろ今の保須の状況でそれを考えるのはある意味妥当だとは思う。考えすぎくらいがちょうどいい」
「だといいのだけれど……うん?」

その時、轟と零仔の携帯が震えた。
ほぼ同時というのが気になる。一括送信だろう。
先生からの連絡網か何かだろうかと確認すれば、一切の文字も描かれてないただの位置情報が送られてきた。
緑谷からだ。

「……………!」
「…零仔、これ」

その瞬間、エンデヴァーが到着した。
他の道端の案件も片づけていたら少し遅れてしまったらしい。ちょっと機嫌が悪そうだ。

「焦凍!小娘!事件だ、ついてこい!ヒーローというものを見せてやる!」
「………」
「ケータイじゃない俺を見ろ焦凍ォ!!」

…緑谷が、あの彼が。何の詳細も書かずに位置情報を送るだなんて真似を、するか?
否だ。彼ならもっと詳しく、そして的確に書くだろう。
それもせず、位置情報の送信のみをしてきたという事は即ち。
零仔と同じ発想に至ったのか轟は突如方向転換し、エンデヴァー達の向かおうとしているところと逆方向に走り出した。

「どこ行くんだ焦凍ォ!!!」
「焦凍くん!?」
「江向通り4-2-10の細道…そっちが済むか手の空いたプロがいたら応援頼む。お前ならすぐ解決できんだろ。…友達がピンチかもしれねえ」
「…!!」

それだけ言って彼は駆けて行ってしまった。
…今、轟は緑谷の事を「友達」と言った。
場違いにも、それが嬉しかった。彼にも友人と呼びたい人間が出来たのだと。
どこか弟の成長を喜ぶ姉のような気分だったが、今は本当にそれどころではない。

「アイツ…」
「…今A組の連絡網に、さっき焦凍くんが言った位置情報のみが送信されてきました。送信主は普段はもっと詳しく書くはずなんです。…それも書く暇もないくらいに強い敵に遭遇した可能性があります」
「それの応援に行ったというのか?焦凍は」
「はい。そして今、この保須市にはヒーロー殺しがいます。敵も満足に動ける状態ではありません。緑谷君が苦戦して、尚且つこの状況で動くような大胆な敵なんて……思い当たるのは、私は片手で足りる程度しか」
「フム………」

エンデヴァーは数秒ほど考え込んだ。
だがその次の瞬間には再び元向かう道へ走り出した。

「小娘、お前は焦凍を追え!!」
「エンデヴァーさん…!でも、もし戦闘にでもなればあなたが責任を…」
「そんな事など二の次だ。お前は焦凍を発声一つで黙らせる事ができる女だ、行って焦凍が暴走せぬよう手綱を握れ!」
「…………っ感謝します!!」

エンデヴァーに言われ、零仔も轟を追った。
彼は父親としては酷い人なのかもしれない。ヒーローとしては一流でも。
それでも、彼は息子の事をちゃんと見て、息子の意思を汲み取っている。

(ああ。あの人も、ちゃんと彼の父親なのね)

ただの父親なら、息子が敵がいるかもしれない場所になど行かせまい。
それでも、エンデヴァーが父親だったから彼は息子の意思を汲んだのだ。

(不器用ね、あの人)


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