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エンデヴァーに送り出され、アドレスの方に向かう。
もう既に轟の姿が見えない。何度かLINEを送るが一向に返事がなかった。
いつもならすぐに返すのに、やはり敵か?
「しっかし遠いわね…!」
遅くなりそうだ、仕方がない。
(コスチュームの修理の時に改造を頼んでおいて良かったわ)
それは脚部のアーマーの事だった。
やはり移動時に邪魔になりがちという点、そして格闘戦の威力の向上という事で小型ジェットの内臓を要望に出したのだ。
冷却装置などをつけてしまえば一気にごつくなってしまうが、そこは個性を使えば必要ない。
故に見た目はそのままを維持し、中を大改造してくれるように依頼した。
コスチュームを返してもらった際に貰った取説の内容を思い出しながら、フレームの段階を解除していく。
操作し終えた瞬間、一気に体感速度が変化した。
飛ぶように景色が変化していく。
(すごい…!)
手と足のアーマーの先端の温度を上げ、少し低いビルに引っかけ、ロッククライミングの要領で軽々と登り、ジェットでパルクールのようにビルを飛び移る。
軽快に移動をしていると、ある場所からの破壊音を聞いた。視線をやると路地裏からのようだった。
(あそこの温度の変化が激しい……まさか!)
方向を転換し、ビルの真上から一気に飛び降りる。
(いた!!!)
轟を見つけた。あとは倒れている飯田、緑谷、そしてプロヒーロー一名。
更にもう一人。あのナリに嫌というほど見覚えがあった。
飛び降りている最中に奴はこちらに気づいたようで、驚くべき速度で後方へと飛び退いた。
しかしこちらも勢いは殺せず、着地体制に入る。
着地した際、凄まじい破壊音と衝撃波が路地裏に響いた。地面に罅がくっきりと刻まれている。
「し…轟くん!アイツ…!」
「お前、どうして…!」
「栂野さんまで…!」
地面に伏す緑谷に大した外傷が見られない。
なのに彼はどうも動けないようだ。
「……やっぱり、ヒーロー殺しね」
「ハァ……今日は良く邪魔が入る……」
「…轟くん、現状は?」
「アイツの個性でプロと飯田、緑谷が動けねえ。血の経口摂取で相手の自由を奪うモンらしい」
「へえ…じゃあ、貴方の遠距離、で!?」
その一瞬の隙をついてヒーロー殺しはナイフを投擲した。そして奴め、ナイフと一緒に秘かに刀も轟に投げている。
咄嗟に避ける事が出来たが、轟の頬にナイフが掠めた。言った傍から血を流させる気か。
ナイフを避けても次に刀が降ってくる。
恐ろしいスピードでヒーロー殺しが轟に迫る。血を舐める気だろう。刀に気を取られればヒーロー殺しにその一瞬の隙を突かれる。
「良い友人を持ったじゃないか、インゲニウム」
「ちィ…ッ!!!」
ジェット噴射込みの目にも止まらぬ回し蹴りを叩き込もうとしたが、それに気づいたヒーロー殺しは直ぐに飛び退いた。
「っぶねえ…!助かった、…栂野」
「行動一つ一つが二択三択を迫ってくる。…アイツ、強い!」
「その女…いい動きをしているな…」
腰のナイフも引き抜き、ヒーロー殺しは怒涛の斬撃を見舞って来る。
轟が氷で盾を作り何とか攻撃を凌ぎ、炎で時折反撃を試みる。零仔も温度操作で轟の援護をしつつ近接戦闘を試みるが、一撃も当たらない。
速く、そして状況把握能力が高い。反射神経も、純粋なパワーも。
その身体だけで、一体どれだけの研鑽を積んだのだろうか。
必死に応戦していると、ずっと後ろで倒れている飯田が何とか立とうと震えながら、絞り出すように声を漏らす。
「何故…三人とも…何故だ…!やめてくれよ……」
飯田を見ながらヒーロー殺しの攻撃をかわす。
彼は深手を負っているようだった。
でもそれ以上に、彼の目はやはり。
「兄さんの名を継いだんだ…僕がやらなきゃ、そいつは、僕が…!」
「継いだのか、おかしいな…」
迫るヒーロー殺しを遮る為に大氷結を繰り出しながら、轟が呟いた。
「俺が見た事あるインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな。お前ん家も裏じゃ色々あるんだな」
「!上だ!!」
氷が切り裂かれる。なんて鋭さだ。
刀は刃こぼれしている、切れ味なんてその程度だ。問題は奴の技術。
あの厚さの氷を容易く切る技術、そうそうできるものではないのだ。
「己より素早い相手に対し自ら視界を遮る……愚策だ」
「そりゃどうかな…!」
氷の壁の隙間からナイフが二本見えた。
一本氷の破片を飛ばす事で弾き飛ばしたが、もう一本は轟の腕に突き立ってしまう。
「しまっ…!」
痛みに怯んだ轟の上からヒーロー殺しがまっすぐに刀を構えて降下する。
標的は直ぐ彼の後ろで倒れているプロヒーローだ。
間に合わない。
「お前も良い……」
「くそ……!」
その時、ヒーロー殺しにかなりの勢いで迫る影があった。
緑谷だ。個性から解放されたらしい。
何だか暫く見ない内にすごい動きをするようになったものだと感心している間もない。緑谷は奴を掴むと壁に押し付け、勢いに任せ引きずった。痛そう。
「緑谷!」
「何か普通に動けるようになった!!」
「時間制限か…!」
しかしヒーロー殺しも流石に対策はする。
緑谷に肘を叩き込み、彼を叩き落とした。
「我慢して」
「っづ…!」
轟の腕のナイフを引き抜き、構える。
腕が自由になったところで地面に着地したヒーロー殺しに氷結を見舞うが、やはり躱される。
こちらへ移動してきた緑谷が咳込んでいた。余程重い一撃だったのか、あの体勢だったのに。
「げほっ…!…血を採り入れて動きを奪う。僕だけ先に解けたって事は、考えられるのは3パターン。人数が多くなるほど効果が薄くなるか、摂取量か…」
「…摂取量だとするなら、刃物を使うのは愚策だわ」
「じゃあ、血液型によって効果に差異が生じるか…だ」
「血液型…ハァ、正解だ」
ただそれだけで、ここまで動けるのか。
確かに近接戦に於いては一瞬の行動不能も命取りだ。彼のメインは近接戦のように見受けられるし、個性自体はそこまで強力じゃないにしても、使い手次第で化けるものだ。
恐ろしい男だ。
「分かったところでどうにもなんないけど…」
「さっさと二人担いで撤退してえとこだが…炎も氷も、栂野の蹴りも拳も避けられる程の反応速度だ。そんな隙見せらんねえな」
「プロが来るまで近接は『なるべく』避けつつ粘るのが最善って所かしら。轟君は血を流し過ぎてるから、後方支援をお願い。私と緑谷くんでアイツの気を引き付けるわ」
「栂野さん…!駄目だ危険すぎる!近接戦闘は奴の独壇場だ!」
「貴方もそうでしょう。単純な威力攻撃で気を引き付けられるならここまで苦労しないわ。踏んでいる場数が違いすぎる。私が貴方の援護をする」
「…っ分かった、頼んだ」
「相当危ねえ橋だが…そだな」
三人でヒーロー殺しを睨みつける。
奴の表情が変わった。
雰囲気も全く違う。
「三人で、守るぞ」
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