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「3対1か……甘くはないな」
奴の雰囲気も表情も一変する。
緑谷が先行し、零仔もそれに続いてヒーロー殺しに接近した。
しかしヒーロー殺しの動きは先ほどとまったく違う。アレで手を抜かれていたようだ、本当に末恐ろしい。
低い体勢から緑谷の足を切り付け、その血をなめとられた。
「ぎゃ!!」
「緑谷くん!!!!」
緑谷を行動不能にし、轟の始末にかかる気だろう。
少しでも奴の動きを止めるためにナイフで牽制にかかる。ナイフで切り付けようとするが刀にあっさりと止められた。
その反対側でナイフが胴体を狙おうと振られるが、足を上げて足のアーマーで止める。
「やはり、お前も、良いな」
「―――!!」
「だが、一瞬の『己への恐れ』が命取りになる」
「ぐっ…!」
膝を腹に入れられ、一瞬力が緩んだ隙に投げ飛ばされる。
だが轟のところに何としてでも行かせまいと、痛む腹を無視して駆け出した。
その時、飯田の弱弱しい声が聞こえる。
「止めてくれ……もう……僕は……」
「ッやめて欲しけりゃ 立て!!!」
氷結を放ちながら轟の怒号が飛んだ。
今ヒーロー殺しが緑谷の血を舐めたのが見えた。もう緑谷は動けない。
氷結の壁も容易く切り倒され、轟の目前にヒーロー殺しが躍り出た。
だがそれでも。
「なりてえもんちゃんと見ろ!!!!」
そう叫ぶ轟に、飯田は歯を食いしばった。
いけない、させるものかと零仔がヒーロー殺しの背後から蹴りを喰らわせた。
諸に喰らったようで、奴の体勢が崩れる。
「飯田くん、あんまりこんな安っぽい事言いたくないのだけれどね…!憎しみなんて本当に何も生まないのよ!!」
畳みかけるように叫ぶ零仔目掛け、体勢を立て直したヒーロー殺しがとびかかる。
かなりの低所からのナイフの切り上げだ。
それを最小限の挙動でいなしながらこちらも反撃にかかる。
「私はその目をした人を知ってたわ!!その人は自分の憎しみに耐えきれずに自殺した!!」
「栂野ッ!!」
「…っ何か変えられるって思いこませてしまうのよ、憎しみって!!死んだ人は戻らない!失ったものは返らない!!憎しみはそれらに耐えられない人が逃げ込んでしまう安全地帯ってだけよ!!だから彼は死んだ!!逃げて逃げて、いざ向き合った時に自分のしてしまった事にもう耐えられなかったから!!」
思い出したくない過去の苦しみに苛まれる。
自殺した人―――それが誰を指すのかに轟が気付き、やめろとばかりに叫んだ。
記憶処理が今作動したのか、酷い頭痛がした。もう思い出すな、心が壊れると本能が警告を発する。
それでも。
それでも憎しみに囚われた誰かに、響くものがあるなら。
「憎しみに逃げるな飯田天哉!!!!貴方のヒーローは憎しみで敵でも傷つけるような利己的な男だったのか!?」
「……ッッ!!!」
「自分の憧れを、自分で穢すんじゃないわよ!!!憧れなんでしょう!!貴方のヒーローじゃない!!」
インゲニウムを見た事がある。
災害時に何よりも真っ先に人命救助を優先した人だった。
ヒーローに疎い零仔でも、優しいヒーローなのだと思った。だからこそ印象が強かった。
だからこそ、彼にここで折れてほしくない。
あのヒーローを、殺さないでと。
「お兄さんみたいなヒーローになるんでしょう!!!」
ナイフで切り合い、拳と蹴りを交えた肉弾戦を繰り広げながら飯田に叫び続ける。
だがやはり注意は一瞬逸れる。その隙に頬を切られた。しまった。
掠めただけだからナイフに血はついていない、頬を舐められそうになり上体を逸らせて下から顎を蹴り上げ、後方転回で体勢を立て直す。
だがその時にはすでにヒーロー殺しは轟の方へと向かっていた。
轟が炎を放つが、それをなんと正面から躱しながら奴は突っ切ってくる。
「氷に、炎。言われた事はないか?個性にかまけ挙動が大雑把だと」
低地から懐に潜り込まれ、轟の胴体に刀が迫る。
あんなところをまともに斬られたら――――!
「化けモンが…!」
「駄目…ッ!!!!!」
間に合わない。血の気が引いていく。
だが、轟の後ろで倒れていた飯田が凄まじい勢いで迫っていた。解けたようだ。
「レシプロ…バースト!!」
彼の蹴りが刀を蹴り折った。
何て速さだ。
流石のヒーロー殺しもこの速さには対応できなかったのか、危なっかしい足取りで後方に退くも、飯田の追撃を喰らい弾き飛ばされる。
「飯田くん!!!」
「解けたか。意外と大したことねえ個性だな」
「コラ。そういう所はエンデヴァーさんそっくりよ貴方」
「今その名前出すな胸糞わりぃから」
まったく、本当に個性で判断するなと言うに。
少し拗ねている様子だが、それでも表情に余裕はある。飯田の復帰への感情がよく表れていた。
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