6



路地裏から出ると、緑谷の職場体験先のヒーローらしい小さな老人「グラントリノ」が現れた。
遠慮なく緑谷の顔を蹴ったな、彼。

そして続いて、エンデヴァーからの応援を受けてきたプロヒーロー達が到着した。

「…エンデヴァー、さんは…まだ敵と交戦中ですか?」
「ああ、あの敵に有効な個性を持たない奴らがこっちに来た…って貴方、酷い怪我じゃない!」

プロの女性のヒーローが轟に肩を貸されて立っている零仔の脇腹に深く突き刺さったナイフを見て血相を変えた。
だがそれどころではない。

「そうだ!脳無の兄弟が…!」
「…脳無?脳無ですって?」
「そう、出たんだ!大通りに!だからきっと敵連合が…!」
「…!!!」

今頭の中で散り散りになっていた線が繋がった気がした。
轟もまさか、という表情で零仔を見ている。
ヒーロー殺しのバックに見え隠れしていた大きな影の正体。やはり。

(…最悪ね)

最悪の組み合わせだ。
頭が痛くなってきた、と先程からずっとしている頭痛に重ねて頭を抱えると、後ろにずっと立っていた飯田が頭を下げて来た。

「三人とも…僕のせいで傷を負わせた。本当に済まなかった……何も…見えなく…なってしまっていた………!!」
「……僕もごめんね。君があそこまで思い詰めてたのに全然見えてなかったんだ。友達なのに…」

飯田は、泣いていた。
責任感と罪の意識だろうか。
真面目な彼らしい。気にしなくても、もういいのに。

「しっかりしてくれよ、委員長だろ」
「……うん…」
「ちゃんと立ち直れたならいいの。でもね飯田くん、私達をちゃんと頼って欲しいわ。ヒーローだからって、助けを求めちゃいけないはずないものね」
「栂野くん……っ、ありがとう…!」
「ほら、頭上げて。もう怒ってないわ」
「飯田の母親みてえだな」
「喧しい」
「いて」

要らんことを言う轟の頭を軽く叩いた。
だが、空気はもう柔らかい。
これで一件落着かと気を抜いた、その時だった。

「伏せろ!!!!」

突然のグラントリノの張り上げた声に、上空を見た。
そこには翼で空を飛ぶ脳無の姿がある。
エンデヴァーから逃げて来たのか?と伏せながら分析すると、腰に強い力を感じて、身体が浮いた気がした。

「――――――え?」

地面が遠い。
隣を見ると緑谷がいた。
何が起こった?

「緑谷くん!!栂野くん!!」
「クソッアイツ…!!!」

状況を把握した。
どうやら脳無に拘束され、緑谷と一緒に連れて行かれようとしているらしい。
グラントリノが構え、轟が凄まじい形相で炎を放とうと構えている。
その時だった。

脳無の飛行力が突如失われた。
これには突然の事過ぎて状況把握が追い付けない。とりあえずあたりを見渡すと、先程縛ったはずのヒーロー殺しが脳無の頭にナイフを突き立てていた。個性で無力化させたようだ。
ヒーロー殺しは零仔と緑谷を抱えると地面に着地した。
零仔から、奴の顔が、よく見える。


「偽物が蔓延るこの社会も、徒に力を振り撒く犯罪者も、粛清対象だ………全ては 正しき 社会の為に」


その鬼気迫る表情に、雰囲気に、気迫に。
指先一つ動けなかった。
一方でヒーロー達は何とか体勢を立て直し戦闘態勢を取ろうとした矢先、路地から一際大きな声が響いた。

「何故一塊で突っ立っている!!?そっちに一人逃げたはずだが!!?」
「エンデヴァーさん…!」

エンデヴァーだ。敵は撃退したらしい。
手早く報告を済ませたエンデヴァーの目に、ヒーロー殺しが映る。

「あの男は…!!」

爆炎を身体に纏い、構える。
だがエンデヴァーの目が一瞬ヒーロー殺しに支えられている零仔を捉えて、動きが止まった。
ヒーロー殺しの目がエンデヴァーを捉えたその瞬間、「贋物…」という滲み出るような怒りに満ちた声と共に、殺気が膨れ上がる。

「…!」

その怒りは、決してこちらには向いていないのに。
まるで喉元に、心臓に、刃を充てられているような焦燥感に似た恐怖が全身を縛り付けた。
誰もが気圧される。
轟も、グラントリノも、エンデヴァーも。

「正さねば―…誰かが血に染まらなねば…!『英雄』を、取り戻さねば!!」

その目は憎しみじゃない。
零仔の嫌いなそれじゃない。
なのに、何故こんなに悲しいんだろう。絶対的恐怖に支配されながら、胸を占めるのはただそれのみ。

「来い。来てみろ、贋物共。俺を殺していいのは、『本物の英雄(オールマイト)』だけだ…!!!!」

命を削り、魂を込めたその怒りと執念に。
ヒーロー殺しが気を失い静寂が訪れたあとも、その余韻はひたすらに、その場にいた者の心を蝕んでいた。



.