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一夜明け、保須総合病院。
大怪我人の4人はまとめて病院にぶち込まれ、検査入院する事となった。
同室なのは飯田、緑谷、轟。零仔はその隣の部屋の個室だった。
こうして一夜明け、一旦零仔は彼らの部屋に寄った。
「栂野さん動いてて大丈夫なの?」
「貴方達だって大怪我してるんだからお相子でしょ」
唯一空きのあるベッドに腰掛けながら緑谷の心配に返答する。
確かに横腹に風穴は開けられたが、動けない程ではない。
「…冷静に考えると…凄いことしちゃったね」
「そうだな」
「あんな最後見せられたら、生きてるのが奇跡だって…思っちゃうね」
ヒーロー殺しのあの瀬戸際の気迫を思い出す。
個性も使っていないのに、あの場にいた全員誰一人として、ヒーロー殺しの執念から放たれる気迫の前に動けなかった。
怖かった。だがそれ以上に恐ろしかった。
あの執念が。
「僕の脚。これ多分…殺そうと思えば殺せてたと思うんだ」
「…私もよ。直接された攻撃は頬にナイフを掠らせて血を摂取し個性で動きを止める為だけのものだった。…端から殺す気なんてなかったのね」
「ああ。俺らはあからさまに生かされた。あんだけ殺意向けられて尚立ち向かったお前はすげえよ。救けに来たつもりが逆に救けられた。わりィな」
「いや……違うさ、俺は――…」
飯田がそこまで言いかけた所で、突然部屋の扉が開いた。
「なんだ、部屋にいないと思えばここにいたのか!腹に風穴開けられてるんだ、あまり動き回るんじゃない!他の奴らも起きてるな怪我人共!」
「貴方は…」
「グラントリノ!」
「マニュアルさん…!」
入って来たのは二人のヒーローと大柄の犬の頭の男だった。
小さな老人がグラントリノ、緑谷の職場体験先のヒーロー。もう一人はマニュアル、飯田の職場体験先のヒーローのようだった。
腹に風穴とは、自分の事か。と零仔は軽く会釈した。
「すごい…グチグチ言いたい…が、その前に来客だぜ」
グラントリノがクイと親指で自身の背後を指す。
それに応じる様に轟と飯田は起立した。零仔も立とうとしたが、轟に「お前は動くな」と軽く肩を押されたので、座ったままだ。
来客とはあのデカい犬頭の人だろうか。
可愛いネクタイだな。
「保須警察署所長の面構犬嗣さんだ」
「面構!!署…署長!?」
「掛けたままで結構だワン」
ワン。ワンて。
しかも顔よく見たらデフォルメじゃない、完璧に犬だ。あれ?でも首は人間…?
どんな骨格なんだろうか。気になる。
動物好きなせいでガン見してしまっていた零仔に署長はニコリと笑い(笑った…のか?)、最初の表情に戻って続けた。
「君達がヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ヒーロー殺しだが…火傷に骨折と中々の重傷で現在治療中だワン」
火傷は轟、骨折は飯田だろう。
一瞬二人の顔が強張った。
「超常黎明期…警察は統率と規格を重要視し、個性を武に用いない事とした。そしてヒーローはその穴を埋める形で台頭してきた職だワン。個人の実力行使…人を容易に殺められる力」
「…!」
最後のそれに、腹の底から冷やされる心地がした。
ちらつく父の顔。じくりと頭が痛む。
記憶処理が為された場所への干渉を拒む頭痛だ。そういえば飯田に説教している時も頭痛がしていた。
記憶処理が薄くなってきているのだろうか。
…いや。そんなことは今はいい。今は署長の話だ。
「本来なら糾弾されて然るべきこれらが公に認められているのは、先人たちがモラルやルールをしっかり順守してきたからなんだワン」
つまり署長が何を言いたいのかというと、だ。
「資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えた事。たとえ相手がヒーロー殺しであろうとも、これは立派な規則違反だワン」
「……!」
「君達四名、及びプロヒーロー・エンデヴァー、マニュアル、グラントリノ。この六名には厳正な処分が下されなければならない」
…あの時確かに、零仔はエンデヴァーに言ったのだ。
このまま零仔が轟を追い、万が一にでも戦闘になれば処罰は免れないと。
彼はあの時、「二の次」だと切り捨て、轟の意思を優先させた。エンデヴァーと轟の意思を汲み、そして自分の意思に従って零仔は轟を追ったのだ。
だがそれは、エンデヴァーに降りかかるであろう処罰から目を逸らしたわけでは決してない。
止むを得なかったとはいえ、目を瞑れるものではなかった。
「待ってくださいよ」
「轟くん…」
そこでただ一人、真っ向から署長に抵抗したのは意外にも轟だった。
「飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人は殺されてた。俺の後に栂野が来なきゃどうなってたか分からねえ。誰もヒーロー殺しの出現に気づいてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」
「ちょちょちょ」
「結果オーライであれば規則など有耶無耶でいいと?」
激昂する轟を緑谷が抑える。
轟の言葉に署長はあまりに真っ当な返答を返した。
それでも。
「―…人をっ…救けるのがヒーローの仕事だろ」
正論に感情論で返すのは、あまりに愚策だ。
だけど、轟の言い分も間違いなく正しいのだと思う。
それ以上に、真っ直ぐに迷いなくそう答えられるくらいになった彼に零仔は喜びを覚え、それと同時にどこか胸の痛みを感じていた。
轟は人を救けた。やさしいヒーローになる為に、今彼はその優しさと強さで誰かの命を救った。
ヒーローとしての道を歩み始めている彼が、
(…こんなにも、遠く、感じる)
昔は隣を歩いていた気がするのに。
いつの間にこんなに遠ざかってしまったんだろう。
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