3
昼休み後のHRが始まった。
「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間一ヶ月休める道理はない」
あとの言葉で夏休みの希望は見事に粉砕されたが、もうそんな時期かと今までの学校生活を振り返った。
4月からここまであっという間だった。
本当に目まぐるしい程に色んな事があった。
中学まではただただ億劫だった学校生活や行事がこの雄英に於いては全く嫌ではなかったことが驚きだった。
相澤の夏休み豪遊計画を粉砕するような言葉にクラス中は「まさか……」とざわつく。
「夏休み林間合宿やるぞ」
「「「知ってたよーーーやったーーーー!!!」」」
この盛り上がりようである。
合宿だから無論訓練尽くしだ、命がけである。
それ以上にクラスメイトと寝食を共にするというのは高校生である彼らには新鮮なのだろう。
「肝試そーー!!」
「風呂!!」
「花火」
「風呂!!」
「カレーだな…!」
「行水!!」
「自然環境ですとまた活動条件が変わってきますわね」
「如何なる環境でも正しい選択を…か、面白い」
「湯浴み!!」
「寝食皆と!!ワクワクしてきたぁあ!!」
峰田の風呂に対する執着はスルーの方向で、各々が楽しみを膨らませていた。
飯田はよく食堂でもカレーを食べているが、カレーが好きなのだろうか。
クラスの膨らむ妄想は、相澤の「ただし、」という続きとそれと同時に発動した彼の個性による反射的なクラス全員の沈黙により止められる。
「その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」
「「みんな頑張ろーぜ!!!!」」
前列、成績のヤバ気な上鳴と切島が全員に鼓舞するように叫んだ。
楽しくしたい折角の合宿、それを補習地獄で終わらせるものかとクラスの心は今一つになった。
(合宿、か…ちょっとだけ楽しみだけど、不安ね)
***
時は流れ、六月最終週に入った。
期末テストまで残り一週間を切った頃。
「全く勉強してねーーーーー!!!!」
上鳴の悲痛すぎる叫びと芦戸のガハハと呑気に笑いつつも明らかにヤベエという雰囲気がクラスの注目を集めた。
「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してねーーー!!」
「確かに」
上鳴のいう事は実際当たっている。
勉強する時間など多くは取れず、ほぼほぼキツイ演習の合間を縫って自習するのが精一杯だ。
ちなみに上鳴は21人中堂々の21位、芦戸は20位。
同じく流石に拙いという表情の常闇は15位である。
「中間はまー入学したてて範囲狭いし特に苦労なかったんだけどなー…行事が重なったのもあるけどやっぱ期末は中間と違って…」
「演習試験もあるのが辛えところだよな!」
砂藤の悩まし気な呟きに勝者の笑みで続きを代弁したのが峰田である。
砂藤は13位、砂藤と話していて彼の言葉に頷いていた口田は12位、そして峰田は意外にも10位という好成績だ。
上鳴と芦戸はは?という表情で勝ち誇った表情の峰田を睨む。
「あんたは同族だと思ってた!!」
「お前みたいな奴は馬鹿で初めて愛嬌あるんだろが…!どこに需要あんだよ…!!」
「『世界』かな」
恨みの声を峰田に垂れ流す底辺二人組に、緑谷がまあまあと宥めにかかる。
「芦戸さん上鳴くん!が…頑張ろうよ!やっぱみんなで林間合宿行きたいもん!ね!」
「うむ!」
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ」
「言葉には気をつけろ!!!!!!」
緑谷の応援と同意の飯田、そして轟のあまりに容赦ない攻撃はやはり火に油、上鳴は崩れ落ちた。
哀れ上鳴。
緑谷は5位、飯田は2位、轟は6位だ。
成績上位組にそんなことを言われてしまえば底辺は生きて行けない。
上下社会の残酷さを目の当たりにした。
上鳴が絶望に打ちひしがれていると、そんな底辺に手を差し伸べる女神がいた。
「お二人とも、座学なら私、お力添えできるかもしれません…演習の方はからっきしでしょうけど……」
「「ヤ、ヤオモモーーーー!!」」
女神、降臨。
八百万は堂々の1位だ。流石。
だが前の体育祭で完全に実技の方の自信を無くしてしまっているようだ。
彼女の個性は強力で、彼女もそれに恥じない程の力を持っているのだが。
そんな八百万の周りに耳郎、瀬呂、尾白が集まってくる。
「お二人じゃないけど…ウチもいいかな?2次関数ちょっと応用躓いちゃってて…」
「え、」
「わりィ俺も!八百万古文分かる?」
「え、」
「俺も」
「…!」
耳郎は8位、瀬呂は18位、尾白は9位である。
頼られるのが好きなリーダー気質の八百万ははわわわ、とどんどん表情を綻ばせていく。
「良いデストモ!!!!」
「「「わーーーい!!」」」
「では週末にでも私の家でお勉強会催しましょう!!」
「まじで!?うんヤオモモん家楽しみー!」
あちらはお勉強会をするようだ。
八百万はお嬢様だ、家は豪邸なのだろう。
ちょっと気になる。
「ああ!そうなるとまずお母様に報告して講堂を開けて頂かないと…!」
(講堂!?)
「皆さんお紅茶はどこかご贔屓ありまして!?我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望があれば用意しますわ!」
(あ!?)
「必ず!お力になって見せますわ…!」
すごい。世界が違う。
最早専門用語かというほどのお嬢様言葉に生まれの違いを叩きつけられた気がする。
ここまでお嬢様だとは思わなかった。今日水筒に入れるのは緑茶かほうじ茶か玄米茶かを迷っているような世界の零仔とは遥かに次元が違う。
明らかに置いてけぼりを喰らっている耳郎と上鳴だが、その表情は最早微笑ましく八百万を見守る親御のようなものだった。
((ナチュラルに生まれの違い叩きつけられたけど、なんかプリプリしてんの超カァイイからどうでもいいや))
考えが手に取るように分かった。
実際プリプリしている八百万はとても可愛い。
思わず零仔も微笑ましく見守る姿勢を取っている。
「なんだっけ?いろはす?でいいよ」
「ハロッズですね!!」
失敗した伝言ゲームをちゃんと汲み取れた結果事故も起こらなかった八百万陣営を後にする。
.