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(今回の範囲はどうにかなるかしら…うーん、体育祭の準備期間殆ど勉強できてなかったのが痛手ね…成績落ちるかも…)
「なぁ、栂野」
「う゛ぉっ!?」
「うお、いきなり雄々しい声出すなよ」
突如背後から話しかけられて野太い声を出してしまった。
声をかけて来たのは轟だった。
あの入院時の夜以来少し気まずくあまり話さなかったので、こうして話すのは少し久しぶりに感じた。
「ご、ごめんなさい。で、何かしら」
「お前物理って大丈夫か?」
「物理?ええ、まあ…得意分野って訳ではないけど一通りは。どっかわからないところあるの?」
「おう、ここなんだが…」
「ちゃっかり参考書持ってきおって…」
「お前基本押しに弱えからな」
「そうと分かって押してくるのホント腹立つわね…」
しれっとしている轟にどことなく安堵を覚える。
あの夜からずっと気まずかったから、こうして何事もなかったかのように話せて少し安心したのだ。
気まずいままは嫌だったが、自分から声をかけるほど目立った用もない。ここ数日のもやもやから解放されてスッキリした。
轟の持ってきた参考書の付箋を貼ってあるところに目を滑らせていると、ちょっと気まずそうに近づいてくる数名の気配を察した。
「あのぉ〜私もいい?わからないとこ結構あって…」
「おおぅ私もお願いできる!?古文がやばいの!!」
「すまない栂野、俺も指導を願えないだろうか…」
「俺もいいか、栂野。数学の応用が少し詰んでいる」
「…い、いいけど……私で大丈夫…?」
「お前学年3位だろ。大抵のところは分かるんじゃねえか」
「そうかもしれないけど…」
麗日、葉隠、常闇、障子というあまり見ない組み合わせだ。
常闇は順位が割と危険ゾーンにあるから優先的に教えた方がいいだろう。
麗日も順位は危険という程ではないがギリギリ、14位だ。葉隠は17位。危険。
だがこれだけの人数を教えきれるだろうか。
「零仔ちゃん達もお勉強会するの?」
「ええ。でも、私にちゃんと指導ができるかどうか…」
「じゃあ私も手伝うわ」
まさかの蛙吹が一緒に勉強の指導をしてくれるのだという。
蛙水は7位、轟の次位だ。優秀な部類に入る。
「いいの?梅雨ちゃん」
「私と轟ちゃんと零仔ちゃんで分担して教えれば効率がいいし、私達も分からないところは互いに教え合えるでしょ。助け合いよ、ケロ」
「…期末、皆で生き残って楽しい林間合宿にしような…!」
ここにも女神がいた。
感激のあまり思わず漏れた意気込みに麗日と葉隠が「おう!!」と気合を入れる。
「私達も今週末にしましょうか。場所はどうするの?」
「図書館…じゃ、ちょっと場所取るよね、この人数」
「轟くんちどうかしら」
「週末は親父がいる。無理だ、俺が集中できねえ」
それは死活問題だ。
縁談事件以来親子仲がどうなっているのか全く想像がつかないがそこはもう考えない方がいいのかもしれない。
麗日は一人暮らしで、マンションの一室にこれだけの人数は厳しいらしく、場所に悩んでいる中。
「栂野、お前んちはどうだ。居間まあまあの広さあんだろ」
「ああ…そうね。この人数なら普通に入る。テーブルも長机だし、普通に大丈夫ね」
「そんじゃ栂野ん家か」
轟の意見が一番よさそうだ。
人数分の座布団を納屋から引っ張り出したり云々の事を考えていると、麗日が「待て…」と振り絞るような声と困惑した表情で零仔と轟に制止を掛けた。
「どうした」
「いや…何で轟くん、栂野さん家の居間の広さ知ってるん…?」
「……!!」
「ケロ…そういえば体育祭前と比べると貴方達大分仲良くなったみたいだけど…」
しまった。
麗日と蛙吹の発言に常闇達もそういえば…といった表情をする。
これは拙い。非常に拙い。
轟と密かに顔を見合わせる。轟も(やべえ)という表情をしていた。
「えーと…体育祭の次の日に、偶然スーパーで会ったの。その時うちの親も一緒にいて…親体育祭見てたから、丁度のその時私のお祝いするつもりだったんだけどついでに轟くんも2位だったんだし一緒にお祝いしちゃいましょって…」
「んで、結局飯食わせてもらった。その時に栂野ん家に邪魔しただけだ」
嘘は言っていない。
一部というか大部分を省略したが。
麗日や常闇達も納得したようで、その結果出てきたのが「栂野ママつえーな」という意見だった。
実際強いのだから困る。
「じゃあ、零仔ちゃんのおうちで大丈夫?」
「うん、大丈夫よ。じゃあ土曜の10時頃蟻谷駅に集合してくれるかしら」
「承知した」
「了解した」
「わかった」
「オッケー!栂野さん家楽しみ〜!」
家に誰かを招くのは轟以外初めてだ。
(何だか緊張するな…)
「おっし!んじゃ週末の予定が決まったところで食堂いこっか!」
「席取られる前に行こ!」
スマホのメモアプリに予定を書きこんでいる中皆は先に食堂へ向かっていなくなった。
記入し終えた頃には教室はがらんどうで、いるのは零仔ともう一人。
「終わったか。行くぞ」
「待ってなくても先行ってくれてよかったのに」
「良いだろ、別に待ってても」
当たり前のように待ってくれている轟に少なからずも照れが出た。
サラッとこういう事する所がイケメンなんだよなあ。
「…ばあさんがポロっと零さねえといいな、俺らの事」
「ぽろっと言いそうだから先に口止めしとくわ」
「それがいい」
『二人だけの秘密』を明かすには、まだ少し勿体ない。
だからまだ二人の間で秘めておく。皆には薄情かもしれないが、許してほしい。
「勿体ねえからな、バレんの」
「え?」
「あの頃の続きの真似事みてえなもんだけど、割と気に入ってんだ、今の状況」
悪戯っ子のような表情を浮かべる轟に、言い出しっぺの零仔は「でしょ」と同じように笑う。
「さ、食堂行きましょ」
「…そうだな」
秘め事を胸に仕舞い込んで、いつもの学校での二人に戻る。
二人しか知らないお互いは、お互いだけの秘密だ。
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