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「普通科目は授業範囲内からでまだ何とかなるけど…演習試験が内容不透明で怖いね…」
「突飛な事はしないと思うがなぁ」
「普通科目はまだ何とかなるんやな……」
場所は変わってランチラッシュの飯処。
今日はいつもより少し大人数で昼食を取った。
緑谷と飯田の言葉に麗日は哀愁漂う声を漏らす。
「一学期でやったことの総合的内容」
「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」
「戦闘訓練と救助訓練、あとはほぼ基礎トレだよね」
葉隠、蛙吹、麗日の話を聞きながら黙々とご飯を食べ進める。
今日は和風シチューと揚げ出し豆腐、鮭の塩焼き、白米だ。流石ランチラッシュ、何でも作ってくれる。
「試験勉強に加えて体力面でも万全に…あイタ!!」
緑谷が突然あげた声とゴチン、という鈍い音に思わず反射で頭を上げる。
緑谷の後ろに立っていたのは金髪の物腰柔らかそうな姿勢に反して反抗的な目をした少年だ。
「ああごめん頭大きいから当たってしまった」
「B組の!えっと…物間くん!よくも!」
(誰だ…)
零仔は他のクラスにあまり関心がないのでさっさと意識を昼食に戻す。
隣の轟もあまり物間に興味が無いのか黙々とそばを啜っていたが、零仔の食べていた珍妙なものが気になったのか箸を止める。
「栂野、それなんだ」
「これ?和風シチュー。食べてみる?」
「食う」
何やら物間がゴタゴタ抜かしているがそんなことはどうでもいい。
轟が和風シチューの中の具のレンコンと人参を持っていき、興味津々といったように食べる。次の瞬間お…?といった反応が出た。
何というか、最近顔に出るようになったな。
「…美味え」
「でしょう。これからこれ頼んでみたら?」
「いや…蕎麦は譲れねえ」
「私からたかる気か。というかいつも蕎麦頼んでるの?飽きない?」
「飽きねえな」
「あ、そう…」
いつも違うものを頼むようにしている零仔から見れば毎日蕎麦は最早苦行だ。
だが好きなものならどれだけ食べても飽きないのだろう。
好物はたまに食べるのが贅沢に感じられていいというタイプの零仔には少し想像できなかった。
零仔達がご飯の事で駄弁っている間にも物間のゴタゴタは続いていたらしい。
BGMと決め込んでいたがそろそろ五月蠅えなと視線を上げた。するとその瞬間、物間の後ろから現れたサイドテールの女の子が物間に手刀を落として物間を黙らせた。
「ごめんなA組、こいつちょっと心がアレなんだよ。栂野さん、だっけ?あんたもごめんね」
「えっ?」
「零仔ちゃん、さっき物間ちゃんに色々言われてたのよ」
「聞いてなかった」
「強者や…」
色々言われていたらしいが完璧にBGMとして聞き流していたのでわからなかった。
まあ聞いていないものは内容も分からないので気にしなくていいと彼女に言う。
彼女は「その詫びと言っちゃなんだけどさ、」と続けた。
「あんたらさ、さっき期末の演習試験不安とか言ってたね。アレ、入試ん時みたいな対ロボットの実践演習らしいよ」
「え!?本当!?何で知ってるの!?」
「私先輩に知り合いいるから聞いた。ちょっとズルだけど」
緑谷はずっとサイドテールの彼女に掴まれた手刀を落とされぐったりしている物間を気にしている。
演習が対ロボだと聞いた緑谷はブツブツと呟くオタクモードに突入し、その洗礼を受けた彼女は軽く引いていた。引くよな、それ。
「馬鹿なのかい拳藤折角の情報アドバンテージを!!ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ…」
「憎くはないっつーの」
再び物間に手刀が落とされた。
(((B組の姉御的存在なんだな…)))
「…本当に対ロボなのかしら」
「え?」
「いえ…ここ最近、敵襲撃とかヒーロー殺しの件もあったし…入試の時や体育祭の時のような対ロボット演習なんて一本芸、雄英がやるかしら。対人戦闘くらいはやりそう」
「確かに…僕達みたいに生徒が敵に襲われるなんて事態にもなったし、今後を見据えて変更なんてこともあるかも…」
「なるほどね、そっちの可能性も考えとく。ありがとね栂野さん」
「いえ、こちらこそ」
サイドテールの彼女(物間は拳藤と呼んでいた)と彼女に引きずられた物間が離れていく。
色々と濃いなB組も。
昼食に戻りながら演習の事を考えるが、やはり対ロボのまま雄英が試験を通すとは考えにくかった。
(明確に襲撃されたのはUSJの時だけど、ヒーロー殺しの件にも明らかに敵連合は絡んでた。…いつまでも私達に無機物相手で試験をさせるとは、それこそ合理的じゃないわ)
零仔の考えが正しければ、恐らく相澤あたりが試験内容の見直しを要求するはずだ。
もう雄英は安全ではない。
生徒達が自分の身を守れるように、各々に合った試験内容を組むのが相澤という教師だと思っている。
(今回のこれは勘じゃなくてほぼ確信に近いから…厄介ね)
あの相澤が生半可な試験内容を提示してくるはずがない。
そう考えると億劫で、早くも頭痛の気配に零仔は溜息をついた。
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