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週末土曜日。
居間を念入りに掃除した後、駅へ向かった。
まだ集合よりも10分ほど前だが、既に集合場所である駅の中に併設されたパン屋の前に蛙吹と障子の姿があった。
「おはよう、零仔ちゃん」
「おはよう栂野、今日は頼む」
「おはよう。早いのね」
見慣れない私服がかえって新鮮だ。
蛙水の私服がとても可愛い。贔屓目ではない。可愛いのだ。
こっそり可愛い物好きの零仔のハートに見事刺さり、梅雨ちゃん最高と心の中で感涙した。
そうしていると直ぐに後ろから声を掛けられる。
「ごめん待った!?」
「間に合ったか…?」
「うおおおセーフ?セーフ?」
「問題ない、5分前だ」
後から合流した麗日、常闇、葉隠に障子が返答する。
あと来てないのは轟だけだ。
2分ほど待っていると、小走りで遠くから駆け寄ってくる見慣れた姿があった。
「悪ぃ、遅れたか」
「ギリセーフよ」
「親父が五月蠅くて撒いてきた」
「ほんっとに仲悪いわね貴方達…ちょっとはなんか…ないの…」
そういうと轟が死ぬほど不快という表情をした。
エンデヴァーの話を持ち出すといつもこういう表情をするのは知っているが、葉隠や常闇達は初見だったのか「轟くん顔怖っ!」と声を漏らしていた。
轟は顔がいい。美形が怒ると怖いというのは本当のようで、まるで王子のように整った容貌が怒りと不快に歪むのはぶっちゃけ威圧感があった。
「いや…俺より栂野がキレた時の方がやべえ」
「ちょっその話はっ」
「え、何何??気になる」
「ちょっやめてやめて…!ほら全員揃ったでしょ?行くよ」
詳しく聞きたいといった様子の面々の話を強制的に絶ち、さっさと家に向かった。
職場体験の初日の出来事は最早黒歴史だ。封印したい。
駅から数分歩くと零仔の家はすぐそこだった。
「和風家屋だ〜!」
「風情のある良い家だ」
「入って」
麗日と常闇の言葉に何だか照れを感じながら促す。
門を潜って玄関まで歩いていくと、待っていた祖母が嬉しそうに顔を綻ばせた。
ちなみに祖母には学校での轟との接し方は既に言ってあり、決してボロを出さないでくれと嘆願した。
全てを知っている祖母がボロを出す事はない。口の堅さは折り紙付きだ。
「あらあらぁ、いらっしゃい〜。零仔の祖母です。さぁさ、上がって行ってちょうだい」
「お邪魔しまーす!」
「失礼します」
「お茶淹れるわね〜」
零仔がクールな印象が強かった分祖母のあまりにのほほんとした雰囲気に一同はそれなりに驚いたらしい。
正直零仔も少し恥ずかしかった。
いや、厳格な祖父を見てああ…ってなられるよりはいいのだろうけれど。
居間に到着すると直ぐに祖母がお茶を持って来る。
各々お茶を受け取ったところで祖母は朝から用事の為出掛けていった。
教材を長机に広げ、勉強会が始まった。
まず各々教えて欲しい教科の分からない部分を徹底的に洗い出し。
洗い出しが終わればあとは類似問題や引っかけ問題、基礎問が終われば応用と高難易度を用意した。
「んぉお〜栂野さんここ分からん…」
「ん…?ああ、二次方程式の最大最小ね。ここのグラフを見て。この式の数字の部分…グラフ内ではどこが値すると思う?最小よ」
「ん〜………ん?こ、ここ?」
「そう、それが最小。じゃあ最大は?」
「ここ!?」
「正解。麗日さんは図形問題ちょっと苦手意識ありそうだから、そこら辺もう少し量をこなした方がよさそうね。じゃあ次、ここやってみましょう」
麗日はウォオ…と唸りながらもまじめに問題と睨めっこしている。
現在常闇は蛙水に歴史を教わっているようだ。どうも近い年代に似た名前の革命や一揆が多く、記入の際に誤って記入するという凡ミスが目立っているようだ。
葉隠には只管に英文をやらせている。
彼女は長文読解が苦手らしく、まず全部見ようとするのではなく問題がどの部分を指しているのかという要点を見つけ、効率的に解読していく方がいい。
英語が苦手というよりは長い文章に集中し続けられないのだろう。古典や原文、数学の文章問題にもその苦手が現れている。
障子にはとにかく暗記だ。効率的な方法を教えるよりも数をこなした方が分かるらしく、以前本屋で買った問題集のコピーを渡し、延々とそれを解かせるという一種の修行をしている。
零仔は特に苦手分野はないが、総合的に見て生物の勉強量が少し足りない気がした。
参考書を開き、ルーズリーフを広げて暗記カードと共に睨めっこをする。
暫くそうしていると、轟からヘルプがかかった。
「どうしたの」
「昨日言った物理のわからねえとこなんだが」
「あー…あ、ここはこの公式使うの。で、ここに代入して…」
「…お、できた」
「よし、正解ね。あと分からないとこある?」
「今んとこはねえ」
「ん」
流石6位、優秀だ。
轟の疑問を解いたところで時計を見た。
時計は正午を大分回っている。思い出したらお腹がすいてきた。
「あー…みんな、お昼にしましょ。大分過ぎちゃったけど」
「え!?あ、本当だ!こんな時間!」
「…集中していて気付かなかったな」
葉隠と障子が驚いたような声を上げる。
集中が溶けた途端に皆の腹の音が聞こえた。
それに思わず笑いそうになるのを堪える。
「ササッとお昼作ってくるから、テレビでも見て待ってて」
「あ、手伝うよ〜!」
「俺も手伝おう。皆で手分けした方が効率が良い」
「そう?それは有り難いわ」
麗日と常闇の提案に皆も賛同し、いったん教材は片づけて昼食の準備に取り掛かった。
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