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運動場に到着した。
今回轟、八百万、零仔のチームにあてられたのは住宅街を模したフィールドだ。

着いた時、相澤から説明を聞いた。
相澤は敵役で、制限時間の30分以内に誰か一人でもゴールに出るか、相澤に手錠型のカフスをつければ終了。

「実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼ぶ方が賢明だ。轟、栂野、お前らはよく分かっているはずだ」

八百万はよくわかっていないようだった。
だがヒーロー殺しの件で轟と零仔は身に染みている。


直ぐに合図が流れるだろう。
それまで轟達は住宅街を走り回っていた。
なるべく遠く相澤から離れる為に。

『皆位置に着いたね。それじゃあ始めるよ、雄英高1年期末テスト、レディイイ―――――ゴォ!!!!!』


「八百万!なんでもいい、常に何か小物を創り続けろ。創れなくなったら相澤先生が近くにいると考えろ」

指先の温度を操作し、まだ個性が使えることを確認する。
まだ相澤は近くにいないようだ。
この住宅街には電柱や民家の屋根など相澤の足場になるものが豊富に揃っている。

「この試験、どっちが先に相手を見つけるかだ。視認出来次第俺が引き付ける、そしたら八百万と栂野は脱出ゲートへ突っ走れ」
「もしもの時は私が引き付けるわ、今のところこの中で一番相澤先生に対して相性がいいのは私だから」
「おう、頼む。それまで離れるなよ」
「……………」

八百万は浮かない顔をしていた。
とりあえず轟の言われた通り、小物を創り始めている。

「八百万さん」
「…あ、な、なんですか?栂野さん」
「何か案とかあったら、いつでも言ってね。貴方の知識、頼りになるから」
「…は、い」

言っては見たものの、彼女の表情は晴れない。
体育祭から自信の喪失が見て取れる。
そう言っている間にも彼女は身体からポコポコと小物を創り続けていた。

「…何か出せっつったがおまえ何だそれ」
「ロシアの人形マトリョーシカですわ」
「栂野の好きそうなやつだな」
「今はそれはどうでもいいでしょ!それより、まだ私は個性を使えるわ。まだ先生は来てない」
「そうか。とりあえず個性に異変があったらすぐ言ってくれ」

轟も氷結が発動しているのを確認する。
だがそろそろ近くに来ていてもおかしくはない。
周囲の警戒を一層強める中、ポツリと八百万が零した。それは、彼女がずっと押し込めていた弱音のように思えた。

「さすがですわね、轟さん、栂野さん…」
「何が」
「?」
「相澤先生への対策を直ぐ打ち出すのもそうですが、ベストを即決できる判断力です」
「………普通だろ」
「普通……ですか……」

相手をよく観察し、出かたのパターンを確認し、そこから方針を打ち出す。
それは実戦経験の豊富な轟だからこその戦術眼だ。
実践の乏しい八百万が自信をもって打ち出すのは難しいだろう。

「雄英の推薦入学者…スタートは同じでしたのに。ヒーローとしての実技に於いて、私の方は特筆すべき結果を何も残せていません…騎馬戦は貴方の指示下についただけ、本選は常闇さんに成す術なく敗退でした…」

彼女には厳しい話だろうが、それはどうしようもない相性の問題だ。
八百万の個性は万能だが、故に超人的ではない。超人的存在に対して質、量、そして知識で対抗するのが彼女だ。
一対一のタイマンは彼女にとっては厳しいだろう。
そこまで分析しながら個性の発動確認をする。だが、反応がない。
来た。

「ッ来ているわ!!先手を取られた、走れ!!」
「っそういや八百万のマトリョーシカ…!」
「すみませ…!!」
「そうだ栂野、良い反応だ。思ったらすぐ行動に移せ」

上だ。上の電線に布を引っかけ宙づりになっている。
轟が舌打ちを零し、腕を振るう。叩き落とす気なのだろうが愚策だ。

「駄目!避けて!!」
「そう、この場合はまず回避優先すべきだ。さっき言われたろ、先手取られてんだぞ」

腕を振るうも宙づり状態時に身体を支えていた手の力を緩めて回避、そして着地した。

(先生は絶対先に轟くんを狙う。じゃあ私は…!)

「行け栂野!!八百万!!」
「っ…行くわよ八百万さん!」
「ハッ…あっ」
「絶対にあとで助けるわ轟くん!!」

八百万の手を引いて走るしかない。
住宅街の路地裏の方を通って必死に走る。
彼女の方は非常に混乱してしまっている。とても落ち着いて話し合える状態じゃない。

「体育祭以降自信の喪失が見て取れるな、八百万」
「っ早いわよ…!」

何て足の速さだ。もう追いついてきた。
恐らく轟は捕縛されている。
ここはどうすればいい?八百万は混乱し切っている。
まず、落ち着かせなければ。
相澤から飛んでくる捕縛布を引っ掴み、温度を極限まで下げて布を凍らせ砕く。

「八百万さん落ち着いて!『今は』消されてないわ!」
「…!」
「まず戻るわよ、ちゃんと合流して話し合いをしてから、ちゃんと対策を練るの。大丈夫、貴方達がいるなら勝てないはずない。貴方も轟くんも強いわ」

最低限話を聞ける状態を作る。
そして手を引き、再び全力で轟の元へ戻った。
今このチームに必要なのは情報の共有の為の話し合いだ。

戻ると、轟が捕縛布で電線から宙づりになっていた。
何だアレちょっと面白いぞ。

「轟さん!?」
「八百万、栂野」
「すみません私…やっぱり……」

再び轟を前にして混乱を始める八百万の背に静かに手を添える。
落ち着いて、息をして喋りなさい。
大丈夫。
その意を汲み取ったのか、八百万の震えが収まった。

「八百万!!何か、あるんだよな?」


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