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「悪い聞くべきだった。「これでいいか?」って、何かあるんだよな?」
「でも轟さんの策が通用しなかったのに、私の考えなんて…」
「良いから早くしろ!そういうのはお前の方が適任だったって言ってるんだ!学級委員決めた時お前二票だったろ!一票は俺が入れた!そういう事に長けた奴だと思ったからだ!」
轟が説得を続けてくれている間に相澤が来た。
捕縛布を放って来るのを受け止め、空中にいる相澤の体勢を崩す。
「っ大丈夫だったでしょう、八百万さん…!」
「済んだか?」
八百万は強く唇を噛み締めて俯き、次の瞬間キッと前を向いた。
「轟さん、栂野さん、目を閉じて!!」
「!!」
八百万がコスチュームの中に潜ませていたマトリョーシカを空に放った。
直後、閃光。閃光弾だ。
その前に光から背き、轟の方向へ走る。彼を電柱に縛り付けている捕縛布を熱で焼き切った。
「うお、」
「舌噛まないでね」
直ぐに真下へ滑り込み、両腕を出すと直ぐに腕に重みがかかった。
光が収まって来たので確認できたが地面にまきびしが撒かれていた。なんて周到なんだ。
ちなみに現在、上から落ちて来た轟を横抱きで抱えている最中だ。死ぬほど嫌そうな顔をしていたので流石に下ろした。
「あります轟さん、栂野さん!私ありますの!相澤先生に勝利するとっておきのオペレーションが!!」
「っ…とっておきのオぺレーション?」
「ええ!私ほんとは考えてましたの初めから!!」
「良いから早く教えろ」
閃光弾から復帰した相澤が再び布を放ってくる。
咄嗟に前に出て再び捕縛布を捉えた。今は個性が出ない。布を投げ捨て、直ぐに走り出す。
「インターバルの増加ね…ありがたいわ」
「ええ、先生の目が不安定になっているようです。ともかく一旦視界から外れませんと!時間さえあれば私達の勝ちですわ!轟さん、今から話す通りに!常に氷結の発動確認を!」
走りながら後方の相澤を確認する。
指先の温度の確認をする。まだ個性は使えない。
「瞬きで個性が解けるその一瞬……今よ!」
「来た…!」
相澤が瞬きをした。
その瞬間轟の最大出力の大氷壁が住宅街に聳える。
氷の壁で何も見えなくなるが、流石の相澤もここは越えられない。
「個性が使えるようになったわね」
「今の内に全容を…」
落ち着いたところで八百万の方に改めて向き直ると、八百万はこちらに背を向けてあろう事かレオタードの前を開き、何かを創造していた。
個性上仕方ないとはいえ、ちょっとはあの、恥じらいとか色々あるだろうに。
スッと目を背けた轟は立派だ。これが峰田だったらどうしたんだ。
「えっと…それ、相澤先生の武器?」
「ええ。素材や詳しい製造工程は分からないので全く同じものは創れませんが、その代わりある素材を織り込んだ、私ver.ですわ」
住宅街である以上被害は最小限に。
そう考える八百万の作戦を聞いた。
「――――これなら、先生から逃げ切るよりも成功率は高いはずです!勝負は一瞬…よろしいですか」
「ああ、文句なしだ」
「ええ、文句なしよ」
脱出ゲートは氷壁の向こう側。
意地でも相澤は越えねばならない。
やるしかない。
***
まず轟と布を被り、背後に八百万を潜ませて出ていく。
予想通り相澤が来た。
視界が悪いが、捕縛武器で此方を捉えようとしている。
「布かよ。デメリットのがでかいだろソレ」
そう言い、捕縛布を此方の首に巻き付け、布を被った二人の頭をぶつけさせるという相澤ならではの戦法を見せた。
「って!!」
「いっ…!」
轟の野郎石頭だな。
だが作戦通りだ。八百万が布を取り去る。
「お前らか…」
八百万と一緒に布から解放したのは、彼女が創造したカタパルトだ。
八百万製の捕縛布を装着し、それを射出する。
だが、彼女は其の瞬間にカタパルトのレバーに手を掛けるのを失敗してしまった。
(しま…っ!……?)
だがその絶好のチャンスに、相澤は何故か後方へ飛び退いた。
それを好機と八百万は今度こそカタパルトのレバーを引き、布を射出する。
「轟さん!!地を這う炎熱を!!栂野さん、バックアップを!!」
指示通り、轟は相澤にあてる事のないよう炎を地面に這わせて放つ。
零仔はその熱が相澤へとより多くいくように熱の動きを操作した。
「先生相手に個性での攻撃を決め手にするのは極めて不安…ですから。ニチノール合金ご存知ですか?加熱によって瞬時に元の形状を復元する…形状記憶合金ですわ!!」
その瞬間、射出される前に束ねられていた形に戻ろうと捕縛布は相澤へ一斉に吸い寄せられ、ギチリ、と彼を拘束した。
あれはほぼ金属だ。彼の腕力では解けないだろう。
「…大したもんじゃないか」
***
轟と零仔を縛っていた捕縛布を取り払い、相澤の下へ向かう。
そこでは八百万が相澤へカフスをつけていた。
「こんなすんなりいくか……」
「いえ…しかし……」
八百万は腑に落ちないようだった。
不満というよりは疑問に近い表情だ。
「…カタパルトの発射で私…ミスを犯しました。先生は気づいた上で距離を取った…あの隙に防げた筈なのに……先生は、故意に策に乗ったよう見受けられました」
「隣の轟と栂野を警戒しただけだ。お前は見えたが二人は布を被ってたからな。凍らされると考えたし、接近戦を持ち込まれるとも考えた」
(……ああ、そうか)
「俺が最善手だと思い退いて、それがお前の策略通りだったわけだ」
「ああ…本当時間通りありゃ…だ。ありがとな」
八百万は口元を手で押さえた。
その目に、もう迷いはない。
彼女は、やっと今超えるべき壁を超えたのだ。
「…どうした?気持ち悪いか、吐き気には足の甲にあるツボが…」
「なっなんでもありませんわ!」
轟の相変わらずの天然炸裂に苦笑いしながら、相澤を見る。
布で隠れているが、その口元はどこか満足そうに微笑んでいて。
(……なんだかんだ言って、優しい先生よね)
いつも厳しいけれど、それが彼なりの優しさなのだと。
今回のこの内容も、自信を無くしていた八百万に自信を取り戻させる為なんだろう。
そしていつも自分で何とか出来ていた轟に、「話し合い」という事の大切さを教える為のチーム。
(私がいなくても、大丈夫だった)
放送で鳴り響く条件達成通知をどこか遠くで聞きながら、胸の空虚に気づかないふりをする。
八百万は乗り越えた。轟は成長した。
(私は、)
なにも、変わっていない。
試験が終わったことへの安堵を塗り潰していく虚しさ。
日に日に増していく空虚や葛藤。
「栂野、戻るぞ」
「栂野さん?もしかして先程ぶつけた頭が…?」
彼らが呼んでいる。
八百万に心配を掛けてはいけない。
「…今行くわ」
(これは私の問題よ)
彼らには何の関係もないのだから。
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