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話がしたいと人目につかない物陰に連れ込まれた。
膝が震えそうなのを耐えながら、キッと死柄木を睨みつけた。

「……緑谷くんに接触した敵連合って、貴方ね」
「ああ…緑谷とは先程少し話をさせてもらった。奴には感謝している。お陰で俺にも『信念』とやらが、できた」
「……そんな敵連合の頭が、私なんかに何の用よ」
「そう急くなよ…ゆっくり話をしようじゃないか」
「…今警察が広間にいる。隅々までココを確認して客を避難させるはずよ。ヒーローだって来るはず。…長話なんてして発見されるのは貴方だって本意じゃないでしょ。ヒーロー殺しの事で貴方マークされてるし」
「……へえ」

ゆっくり話なんかできるはずもない。
もしかしたら耳郎達が零仔を探しに来るかもしれないのだ。
彼女達をこれ以上危険に巻き込む訳にはいかなかった。
零仔の考えている事はおおよそ察しているのだろう。

「ヒーロー殺し、ねえ。お前は保須にいたな。感謝するよ、奴を仕留めてくれて」
「……やっぱり関係があったのね」
「やっぱり…?予想済みだったかい?」
「…ヒーロー殺しはあの時点で一人しか仕留めてなかったから、過去の累計被害を見てまだ保須で被害を出す可能性が高かった。…ヒーロー殺しは敵も襲うから、彼がまだいる可能性のある街で暴れる敵なんてそうそういない。いるなら余程の馬鹿か、関連性のある奴だと思った。余程の馬鹿でも、厳戒態勢の敷かれた保須で暴れ回ってもいい程の自信がある、やばい奴だと思った」
「成程。だが何故それで俺達だと判断した?」
「………ヒーロー殺しは敵が暴れている騒ぎに乗じて犯行をするような奴じゃない。だから、関係性があっても恐らくは奴の意に反した行動である事。…それに、敵が暴れた所でヒーロー殺しが現れた保須はヒーロー達によって厳戒態勢が敷かれてる。ヒーロー達から逃げられてもヒーロー殺しを敵に回すわ。暴れた所でメリットが一つもない。足がつくだけなのにそれを無視して現れた。…あまりに、幼稚だった。臨戦態勢のヒーロー達を敵に回し、ヒーロー殺しを敵に回しても問題ない程の強力な力、その割にはあまりにお粗末すぎる扱い方…そこでずっと貴方達かもしれないと予測を立てて、脳無を見た瞬間確信した」

零仔の推測を聞いて。
死柄木は暫く聞き入って、そしてフゥ、と溜息をついた。
その溜息は、零仔の洞察に感嘆するようだった。

「雄英襲撃の時も思ったが…お前は随分と賢いな。調べた通りだ」
「は…?調べた…?」
「ああ、そうだ。雄英襲撃の時お前は誰よりも早く俺達の事に気づいた。そしてあまりに歳不相応な洞察力…だから調べたよ。ここ最近、監視もしていた」
「!!」

監視?
見られていた?どこで?
気配すらも感じなかった。
指先が一気に冷えるのを感じた。一気に様子が変わった零仔に喜悦を張り付けたような表情で、死柄木は続ける。

「最初はただの勘のいいガキかと思ったけど…お前の事を監視してそれは違うとわかった。今の話で確信したよ。お前の洞察力は異常だ」
「なんで私を監視して…私が何だって言うの!?」

零仔を調べ、監視までして。
更にはこうして会いに来た。
なぜそこまでして自分に固執するのか、見当もつかなかった。
死柄木は笑みを絶やさないまま、だが先程よりもずっとはっきりと言い放った。

「お前が欲しい」

息が、止まるかと思った。

「………、は、?」
「栂野零仔、こちら側に来い」

この男は、何を、言っている?
予想だにしていなかった言葉に、零仔は頭の中が真っ白になった。

「……何、言って……」
「お前の周辺、過去。全てを俺達は理解している。その上でお前が欲しいんだ」
「………っ弱みでも、握ったつもりなの」
「ははは、そんなモン握らなくたってお前は必ずこっち側に来る。お前はこちら側の人間だ」
「何を、根拠に…!」
「根拠?そうだなァ…」

死柄木はポケットに突っ込んでいた手をずるりと引き抜いた。
そこから出したのは、いつかのUSJで装着していた手のマスクだった。
その手のマスクを顔に装着し、そこからでもわかるくらいに明確に奴は笑って見せた。
嘲笑うように。その反面、愛おしむように。
相反したそれらに唯一共通する『狂気』が、指から覗く目に満ち満ちていた。


「お前がたった今俺の言った事をを否定しなかったからさ」


愕然とした。
するりと出るはずの否定の言葉、それを指摘されて初めて気づいた。
死柄木は零仔の精神のひび割れに入り込み、巣食った。

零仔はショックのあまりとうとう膝に力が入らなくなって座り込んでしまった。
その時、零仔のポケットから着信音が響き渡った。恐らく皆からだろう。
そういえばLINEの返信をしていない。心配をかけさせたはずだ。
そろそろ頃合いだろうと死柄木は踵を返す。奴の身体を包むように、あのワープさせる黒い霧が現れた。
奴もいたのか。
監視という言葉が頭を過った。


「また会おう。栂野零仔」


その言葉と共に死柄木が姿を消しても、しばらく零仔は動けなかった。
ずっとなっているスマホを震える手で取って、何とか電話を取った。

『栂野!?おい、何してたんだよ!?耳郎のLINE見なかったのか!?』

上鳴からの電話だ。
動揺を悟られてはいけない。何事もなかったかのように振舞わなければならない。
震えそうになる声を必死に押し殺して、当たり障りのないように返事を返した。

そうする事しかできなかった。


零仔は逃げるようにショッピングモールを後にして、電車に乗り込み、ある場所へと向かった。


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